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2-15 二年前の災厄

 遡ると二年前、王様……私の父と母と姉のサヨリの治める国は平和で周りの諸国との仲も良い、凄く理想的なところだった。

 その理由は父と母にも勝る、国の第一王女サヨリの統率力が凄かったからだ。サヨリはそのものすごい統率力を活かしてもともと安定していた国の政治を確固たるものへと導いた。

 姉は完璧だった。政治力だけでなく魔法能力もものすごかった。そんな姉を見て育ったのが私、ハルカと弟のハヤト。二人とも幼い頃から政治に関わってる姉に憧れを抱いていた。

 と、そこまでは良かった……しかし、ある人物達の登場でこの平和は一気に無くなることとなる。

 異世界人。彼らが王国へとやってきたのだ。数は二人、そしてこの世界の住人が二人お供として付いてきていた。

 勿論、国は歓迎した。まだ知らぬ異世界の知識を取り入れて、もっと国を良くしようと考えたからだ。この時はまだ何も無いようにみえた。しかし

「王様!!大変です!!国の東側に謎の巨大生物が発生。兵士達が応戦していますが全く歯が立ちません!!こ、このままではっ」
「巨大生物だと!?」

 王様やサヨリ達は望遠鏡を使い、東を見る。そこには絶望的な状況が起きていた。黒い謎の物体と表現する他ない生物が手足と見られる部位で応戦している兵士を薙ぎ払っていた。それは戦うということさえ起こりえない一方的な虐殺といった方がいいだろう。このままでは国の民が襲われるのも時間の問題だ。

「まずいな……アツシ、お前の力を借りることになるかもしれん。もしかするとそれでも……今どれ位溜まってるのだ?」

 王様がサヨリとイチャイチャしているアツシに聞く。

「ま、ざっと一年くらいかな」
「くっ……まだ心許ないな」
「でもやるしかないんだろ?」

 王様は少し俯きながら話す。

「すまない。こういう時にいつも頼ってな。何も出来ない自分が情けない」
「いや、いいさ。それが俺の仕事だから。それより、やるんだったらはやくいかねぇとな。それで助かる兵士もいるし」

 アツシは城の窓から顔を出し、一気に戦場へと向かおうとした。

「待って」
「どうした?」

 しかし、そこでサヨリに引き止められる。相手の強さが未知数なので勝って帰ってこられるか心配なようだ。

「……絶対に無事に帰ってきてね」
「あぁ。約束するよ」

 そう言ってアツシはサヨリの頭を撫でる。サヨリも決心が付いたのかアツシを戦場へと見送った。

 その後、アツシの健闘により、黒い巨大生物は倒され、再び王国に平和が戻った。

「お疲れ様。アツシ、怪我はない?」

 サヨリが優しく話しかける。

「あぁ。なんとかな」




  しかし、その平和は長くは続かなかった。その謎の巨大生物が現れて少しも経たないうちに私、ハルカは城の地下深くのアオイの研究施設へと呼ばれた。

「私を呼んでどうしたの?」

 もともと私とアオイは仲が良くたまにここへは遊びに来ていたのでいつも通りのテンションで話しかける。しかし、

「ちょっと真面目な話をするぞ」

 アオイの表情はいつもと違った。

「?」
「よく分かってはいないが俺様の予想だともうすぐ王国はめちゃくちゃになる。その魔の手はかなり深い所まで入り込んでやがるな」
「ちょっと?どういうこと?」
「あの巨大生物を召喚したのは恐らく、最近王国に入り込んできた異世界人だな」
「えっ!?」
「どういう呪法を使ったのか知らねぇが間違いねぇ。それに、奴らは王国転覆を狙ってそうだな。ちっ、だから俺様は止めとけってあれほど」

 私にはアオイの言ってることは全く分からなかった。しかしそれでもアオイは続ける。

「ハルカ、俺様にはあんたにしか頼めねぇ。第一王女とか王様を厳重に守れって上層部に言いに行くんだっ!!」

 アオイは王国随一の発明家とはいっても、別に王様や兵士とは全く接点がない。従って、王様に何か伝えるのなら友達であるハルカを通すしかないのだ。

「えっ!?でも、そんな、異世界人が敵なんて確証もないのに」
「今は時間がねぇ!もう災厄は始まろうとしてんだ……」

 とそこで、アオイの声を遮るようにドカーンという大きな音と、地響きが鳴り出した。

「えぇっ!?」
「ちっ、遅かったか……もしかして、もう始まってしまったってのか?」

 突然の出来事に私は全く動けなかった。

「とりあえず各種監視術式の確認と逃げる準備を……ッ!!俺様の監視術式が全て壊されてやがるっ!敵は相当な手練って訳か」
「えっ?逃げるの!?」
「もうおしまいだ。一旦逃げて体制を立て直したほうがいい。俺様は船の準備をする。お前は戦えそうなやつを片っ端から全員連れてこい!!」

 なにやら本当に大変なことになっているらしい。

「う、うん。分かった……」

 私は急いで地下の施設を抜け、城の一階へとたどり着く。平和だった。私が聞いても先程の揺れがなにか調べている程度しか慌てていなかった。そこで安堵してしまったのか、アオイの「戦えそうなやつを片っ端から全員連れてこい」という言いつけを忘れてしまっていた。

 平和だと知ったとしてもまだなにか胸騒ぎがしたので、一応私は王室へと向かった。するとそこでは……

「な……なにこれ……」

 沢山の兵士が血を流して倒れていた。それも王直属の精鋭ばかりだった。

「ハルカ様っ……お、お逃げくださいっ!!」
「良かった……息が……!」
「あ、あの巨大生物が、複数体押し寄せてきています!もはや我々では……」
「ねぇ!!ちょっと!無理しないでっ!!」

 体を譲り必死に伝えようとしたが、その兵士はもう既に息を引き取っていた。

「っ!!……」

 私はその兵士を優しく弔い、王室へと向かった。王の部屋のドアを思いっきりぶち開ける。

「お父様、お母様っ!!」

 そこでも最悪の光景が広がっていた。私は二人に駆け寄って安否を確認する。母親の方はもう既に息を引き取っており、父親の方ももう今にも倒れそうだ。

「ハ……ハルカ……なのか……」
「そうだよ!……私だよっ!ハルカだよ!!」

 その言葉に父である王は僅かに安堵する。

「そ……そうか……もはや目が見えん……」
「……っ!?」
「ハル……カ……サヨリも……もう駄目だ……アツシはこの間力を……使ったばっかだしな……ぬふッ!!」
「無理をしないでっ!!」

 ハルカの言葉も無視して、父はハルカの肩を弱々しく叩く。

「ハルカ……私に構わず、逃げろ……そし、て、いつか必ず国を……王国を復活させてくれっ!!」
「お、お父……様!!」

 そして父はゆっくりと手を伸ばす。

「ハルカ……強く……生、き……ろ……っ」

「っ……!?」

 それだけ言い残し、ハルカを撫でようとした腕が崩れ落ちる。

「……お父様っ!!お父様あああああっ!!」

 泣いた。何が起こったのかさっぱり分からなかった。倒れる父を前に私は何も出来なかった。

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