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2-7 運がなけりゃおめぇさんらは死んでた

 檻の中にいたおじさんに言われるままに進むと一つの小屋にたどり着いた。中はそんなに広くはないが、キッチンや布団など最低限の物は置いてあり一人では十分に暮らしていけそうな所だった。

「三年ぶりだな。他の向こうの世界の奴とあうのは」

 ため息混じりに男は言う。

「そこの二人が異世界人でもう一人はこの世界の連か」

 享介は聞きたいことを既に決めていたので話を振る。

「すみません。元の世界に変える方法とか分かりませんか?」
「さあな。俺もあの手この手で探してはおるんやけどさっぱりじゃけ」

 首を横に振り、なまった声で男は喋る。

「俺はこの世界にきて不安だった。だから俺はこの世界の動物園という物に縋り付いた。幸いここの従業員は優しい奴が多くてな。事情を話したら素直に住ませてくれた。挙句の果てには展示という形で安全な情報収集の場を与えてくれたんや……本当に感謝している」
「私たちもです。ハルカちゃんと出会わなければ今頃どうなっていたか……」

 そこで男は少しだけ微笑む。

「そうだな。俺たちは運がいい。その幸運と恩を絶対に忘れんじゃねぇぞ」

 なんかハルカが気恥しそうにしているが気にせず男は話を続ける。

「中には運が悪かった奴も沢山いる。その事を忘れるなよ」






 三人は男と別れ、園内を散策していた。

「なんか浮かない顔してるね。享介も穂乃香も、さっきの話に何か引っかかることでもあった?」
「いや。最初に出会ったのがお前で良かったなって思ってさ。もしホムラだとかハルキとかと最初に出会っていたらこんなに上手く事が運んでなかっただろうなって思ってさ」
「私もその事を考えてた。ハルカちゃん。ありがとう」
「ええっ」

 急に褒められて動揺するハルカ。オドオドとしてたがすぐにいつもの調子を取り戻す。

「ま、まぁねぇ。と、当然のことをしたまでですたい」

 追記。取り戻せてなかった。

「ほ、ほらこれからの予定。近くに水族館もあるからそこに行きましょうって事多分言ってなかったけどそういうことだから。皆との集合も兼ねてるしさっさと行きましょう」






 動物園から歩いて10分も経たない所に水族館はあった。入口の前に大きな魚のオブジェがあり、それが水族館だとすぐに分かる作りになっている。よく見るとその辺にヒナ、ハルキ、アツシがいる。ヒナが大きく手を振っていたのですぐに分かった。

「享介、穂乃香。どうだった?」
「直接的なヒントは得られなかったけど有意義な時間だったよ」
「そっか。良かったじゃん」

 どうやらヒナは異世界人がどうとかいう恨みは無さそうだ。

「ま、集合した事だし。お昼にしましょうか」


 昼飯を済ませた一行はどうせなら水族館も寄っていこうということで館内へと入っていく。

「くおおおーーーーーーあれは!幻の珍魚、吠えるホエール!可愛いぃぃぃ」

 なにか動物園のデジャブ的な何かを感じるが……吠えるホエールとはただのダジャレではなく本当に吠えるらしい。音を操る魔法を使うとかなんとか。そのせいで水族館のガラスも相当強いものを使っているらしい。

「うおおおおぉ。チンウナギ!チンウナギは何処だぁぁぁー」
「おい、待て!」

 今度はなんだと見てみるとハルキが騒いでいる。チンウナギとは狆という犬に似ているウナギらしい。チンアナゴみたいなものか……。どうやらハルキはチンウナギが大好きのようで、展示しているところまで全力疾走したようだ。それを心配するようにアツシがついて行く。

「穂乃香!あっちあっち!回り込んだらもっと近くで吠えるホエールが見れるよ!行こっ!」
「えっちょっ!ハルカちゃんんん!」

 ハルカに(無理やり)引っ張られ二人も人混みで見えない所まで行ってしまった。残されたのは享介とヒナだけ。

「はぁ。行っちゃったね。団長もハルキもお子様なんだから……どうする?私たちも適当に回りましょうか」
「そうだな」





 それは一瞬の出来事だった。何人もの従業員が止めにかかったが即座にやられた。

「ば、馬鹿な……この檻は特別製のはず……現に今まで全く傷一つつくことは無かったんやで……そ、その檻を……!?」

 檻を真っ二つに斬り裂いた金髪の少女が中へと入ってくる。

「別にひーちゃんなら檻をすり抜けてあなたを殺すこともできますが。さて、宅野拓蔵……恨みはないですが……っ死んでくださいっ」

 檻の中が血で染まった。

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