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2-1 我らの拠点 天空城

 享介が目を覚ますとそこは深い森だった。木々には美味しそうな木の実がなっており、今にも小鳥の囀りが聞こえてきそうな喉かな所だった。

「あれ?さっきと変わんねぇな」

 しかし先程の森とはまた違う場所のようだ。見た感じは同じだが、雰囲気が少し違う。心無しちょっと息苦しい気がする程度だが……。そういえば一緒にいた穂乃香とヒナが見当たらない。そんなことを考えていると後ろから声が聞こえてくる。

「お前何しに来た」

 声を頼りに振り返ると10歳くらいの少年が風と共に現れる。

「お前は誰だ?」
「はっ、侵入者に語る名はないね。どーせなら巨乳のお姉さんとかだったら生かしといてもよかったんだがな」

 なんだこのエロガキと思った瞬間、少年の両腕に魔法力が渦巻く。完全に敵意を向けられている。辛い。

「なぁつむじ風って知ってるか?上昇気流に強風を当てて作るんだけど風魔法を応用すれば自在に操れるんだぜ?」

 なんだかよく分からないがこの少年のテリトリーに迷い込んでしまったのだろうか……

「ここまで来れるほどの奴に手加減は要らねぇよなぁ!?いくぞっ!!我が踊り狂う暴風!塵旋風ウインドブラスト!って痛っ!?」

 そう言い放つ前に突如、少年の魔法が真っ二つに切り裂かれた。そんな規格外の強さには見覚えがある。

「ちょっとー、ハルキ!お客さんをいきなりぶっ飛ばそうとするなんて何のつもり?」

 切り裂かれた爆風から顔を覗かせたのはヒナだった。後から穂乃香も付いてきている。

「客だ?なんだよ。そういう事は早めに言っといてくれよな。ミンチにするところだったぜ……。とりあえず挨拶すると俺はハルキだ。ハルカと名前が似てるが特に意味は無いから」

 俺と穂乃香も自己紹介をすませる。

「ちっ。こいつも胸が小さいな……いや何でもねぇ。それよかこいつら何もんなんだ?」

 おい。このクソガキ今穂乃香ちゃんを侮辱したな!?いや、あれくらいが丁度いいんだよなんてったってあの(以下略)

「なんか団長が言うには異世界人だってさ〜。なんでも転移がうまくいかなくてここに立っていたってアオイがね」
「はーん……そういうことか……」

 ハルキと呼ばれる少年の雰囲気が少し暗くなる。

「あのヒナちゃん。ここって何処なの?……さっきまでの森とは違うよね?」

 辺りを見渡しながら穂乃香がヒナに尋ねる。

「おぉ!よく聞いてくれたね!ここは天空城。周りからは感知されない、空飛ぶ天空の城にして私たちの拠点だよ!」

 ヒナはばーん、と手を広げて言う。背後に集中線が微かに見えた気がする。しかし享介と穂乃香的にはそんなふうには全く見えない。

「この森もそうなのか?」

 辺りは一面森で、天空城というわりに城も見えないわ浮いてるというのに振動もないわでにわかに信じ難い。

「全然信じてないわね……それじゃあこの跳躍のポーションで大ジャンプして確認してみたら?」

 そういってヒナがポーションを渡してくる。確かにこのポーションを服用すれば高く飛び上がって全体像が見えるかもしれない。しかしこのポーション見た目は透明のくせに物凄く辛い。なんか嫌だなって顔をするがヒナが急かしてくる。俺と穂乃香はしぶしぶポーションを服用し、大きく飛び上がった。

 そして……辛いのを我慢して大ジャンプした先に見えたのは、夕焼けに染まった美しい空だった。そういえば、この世界に来る前もこんな空だった気がする。この世界とは時差があるのだろうか……

「ねぇ、享介君!下見てみて!あれ、大きなお城」

 俺が夕焼けに感動していると穂乃香がそう教えてくれる。見ると、まるで映画にでも出てきそうな巨大な城が浮島に建っていた。

「本当だ。すげぇ本当に城が建ってやがる……しかもその下……本当にこの馬鹿でかい大地が浮いていやがる……」
「ラピ○タはあったんだね……」

 二人が思い思いに感動していたがふと享介があることに気づく。

「そういえば俺たち。落下耐性のポーション持ってなくね」
「あ」






「いやぁ危なかったね。アオイが転移魔法で助けてくれなかったら大変なことになってた〜ってごめんごめん!次からは気をつけるから……」

 享介と穂乃香は落下耐性のポーションがないと気づき、落ち始めたと思ったらいつの間にか城の中に立っていた。どうやらアオイという人物が助けてくれたようだが……

「この人がもしかして」
「そう!俺様が、アオイってんだ。よろしくな」

 声こそは女だが喋り口調が男臭い。それと彼女はモニターを通して会話をしている。顔にはお面をしていてよく分からないが年齢は十四歳くらいだろうか。

「彼女はこの天空城の操縦士。それに王国一の発明家でポーションも彼女の自作なのよ」

 聞き覚えのある声が後から聞こえてきた。ハルカだ。

「団長。用事はもう終わったのか?」

 ハルキの問にバッチリよと答える。

「それで……自己紹介はみんな終わった?」

 その場を見回してハルカが尋ねる。

「あーあとはアツシくらいかな。おーいアツシ〜起きてぇぇ!享介と穂乃香。お客さんだよ!」

 ヒナが遠くに置いてあったソファーに呼びかける。するとソファーから一人の男が起き上がった。寝癖が立っている赤と黒の髪をした、二十歳くらいのかっこいい青年だった。

「んん?……なんだ?客か……俺はアツシだ。ま、よろしくな。……あーハルカ……まだ眠いからもうひと眠りするわ」

 そういうとまたソファーに寝っ転がった。その行いをフォローするようにヒナが言う。

「あー気にしないで。あいつは寝てることが仕事みたいなとこあるから。それよか団長!今日のご飯は?」
「あ」

 そういえば狩りがどうとかいってたけど俺たちと出会ってなんやかんやしてたから何も取ってなかったような……ハルカの顔が青ざめていくのが今なら手に取るように分かる。

「あ、あーそういえば、実は今日調子が悪かったのよねぇ!そ、そうそれよ。だからごめんね何も取れなかったのよ」

 あたふた手を動かしながら必死に誤魔化そうとする。しかし

「いや団長。この二人と娯楽区行ってたろ」
「ちょ、アオイなんでバレ……いやこの二人がこの世界の不安を解消できたらいいなぁって……」
「へ〜。団長仕事サボって遊んでたんだ〜」

 ヒナの威圧が怖い。見るとハルカは回れ右して逃げ出そうとしている。

「お仕置き確定ね☆」

 刹那、ハルカの短い断末魔と共に眩い光が立ち込める。目を開けてみるとハルカが氷像と化していた。

「ハルカちゃん!?大丈夫?」

 穂乃香が慌てて駆け寄る。

「ま、一時間くらいしたら溶けるだろうしちょっとそこで反省しててもらいますか……。んーじゃハルキ。代わりに今日のご飯のおかず買って来てくれない?私は木の実の収穫をしておくから」
「はぁ!?俺パシりかよ!貧乳の癖に命令しやがって……いや、何でもない行ってくる!行ってくるから氷像だけは勘弁っ」

 ヒナはわりとここの住民の扱いに慣れているな。ハルキが一目散に駆けていく。

「んじゃぁ、俺様は食器の準備しとくわ。あ、そうだヒナ!こいつら部屋に案内してやれよ」
「それもそうだね。貴方達!この城にはまだ空き部屋があるからそこを貸してあげるね。案内するから」
「本当に何から何までありがとな」
「ふふっ礼ならそこの氷像ちゃんに言っといてね」

 ハルカは本当に大丈夫なのだろうか……


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