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1-7 逃げたはいいが追っ手に気を付けなはれや

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬううぅぅぅぅっ!!」

 爆発の衝撃波で城の壁が壊れ、そこから脱出した享介とハルカと穂乃香は人気のなさそうな森の方へと逃げ出した。火炎耐性のポーションのおかげで爆破によるダメージは受けなかったが粉塵爆発は空気中の酸素を燃料としているため、爆発は一瞬で辺り一面の酸素を奪い取り、気圧を急激に下げてしまう。そのため、全員に内蔵をギリギリと搾り上げる激痛が走った。

「何よこれっ!逃げるのがもう少し遅れてたら死んでたわよ私たち!」

 ハルカがちょっとキレているが、気にしていられない。

「ていうかよく粉塵爆発なんて知ってるわね……」

 穂乃香も怪しげに聞いてくる

「いや、俺の好きなバトル小説に出てきてたから知ってるだけなんだけどな。落下耐性のポーションが最初小麦粉みたいと思ったからできるかなって思ったんだけどまぁぶじ成功して良かったわ……」

 最近動画サイトやらアニメ文化に浸っててよかった……もし見てなかったらどうなっていたことか。

「とりあえずあんな大爆発起こしたんだからリーダーに異変がバレてるかもしれないし早いところ逃げましょう。私の拠点まで行けばとりあえずは安心だろうし」

 そうだ。俺たちは城の兵士を倒しただけでそれをまとめるリーダーとはまだあっていない。できれば出くわす前に安全な所まで行きたい。

「こっちよ!私の仲間も異変を感じて助けに来てくれてるかもしれないし、急ぎましょう!」







 一方そのころ、フレア城ではリーダーのホムラが爆破音を聞き、用事をきりやめて帰って来たところだった。

「くっなんだこの有様はっ!!」

 城は半分が崩壊しており、兵士も皆重傷だ。敵の攻撃の瞬間魔法バリアを展開していたようなので、死人が出ていないのが幸いといったところか。

「す、すみません。ホムラさん!……っ!」
「もういい!喋るな!少し安静にしていろっ」
「でも……異世界人が……っ!また……ホムラさんみたいに……」
「なるほどな……敵は俺が撃つ。すぐに助けも呼んでくるから待っていろ」

 そう言うとホムラは兵士を優しく労り、立ち上がった。

「異世界人か……もうあのような悲劇が他でも起きぬように火の芽は早めに摘み取ったほうがいいな……」

 言葉は冷静だったが目は怒りで燃え上がっていた。






「はぁはぁ……なぁ!お前の仲間のいる所ってあとどんくらいで着くんだ?」

 暗く複雑な林道を走りながら享介が尋ねた。

「とりあえず私たちの拠点は空を飛ぶ巨大な城みたいなところだからね……普段は透明になってるからこっちからは見えないんだけど開けた所に行けば向こうから見つけてくれるはずよ」

 今更だけどこいつ何もんなんだ……空飛ぶ時点でおかしいのに城って……

「つまり、どのみちこの森を抜けなけりゃならないんだな」

 そうねとハルカがため息混じりに呟く。本当にこのままたどり着くのだろうか。穂乃香はといえばさっきまで捕まっていたせいでものすごく体力を消費している。何もなく終わればいいが……

「そんな上手くいかねぇよなぁ……」

 享介の予感は的中した。そこは少しだけ開けた場所だったが木々が邪魔して光の加減は他のところと大差ないところだった。そこにあからさまに怒りをさらけ出している青年がいた。

「お前らが異世界人か?」

 声は暗い。年齢は二十歳くらいだろうか。事実を知っていることから恐らくフレア城の関係者だろう。

「リーダーのホムラ……」

 ハルカが呟く。リーダーといえばあんだけいた兵士を束にしたほどの強さを持つやつか……

「享介!穂乃香!逃げるわよ!まともに戦って勝てる相手じゃない!」

 ハルカが真っ先に逃げを選択したのは本当に勝ち目が一切ないのだろう。少しでも可能性があるなら少しは変わっていたのだろうかもしれないが、それほどの相手だということらしい。しかし相手もそう簡単には逃がしてはくれない。

「逃がすかよっ!!」

 瞬間全速力で向かってくる。ハルカは慌てて土の剣を生み出し、攻撃に備える。

「ふるわぁぁああっ!」

 恐ろしく早い手刀が飛んでくる。俺だったら見逃しちゃうが、ハルカはなんとか剣で抑えることができたようだ。

「流石の力……素手に魔力付与エンチャント能力を付けているのね……どおりで攻撃力も防御力も高いはずだわ……」
「左様だ。素手だけでなく全身に火の魔法を纏っているから、どんな攻撃も一切受け付けぬ。まぁそれを超える質量で攻撃されれば別だがな……」

 鍔迫り合いで埒が明かないと踏んだ両者はお互い一旦距離をとる。

「なるほど……触れたら火傷じゃすまなそうね……普段なら絶対に戦いたくない相手だけど。……逃げれないなら戦うしかなさそうね」
「いい心がけだな……お前一人なら逃げきれたかもしれんのに……だが俺の能力はこれだけではない」

 すると刹那の瞬間、ホムラの足元に巨大な魔法陣が描かれた。離れて戦いを見ていた享介と穂乃香すら巻き込む大きさだ。

「いでよっ!我が双竜!ツインボルケーノドラゴン!」

 ホムラの掛け声とともに両手に竜の形をとった炎が現れる。

「こいつらはこの魔法陣の中なら自在に動き回ることができるドラゴンだ。まぁ動かしているあいだ俺は動けないが……その分こいつらは強えぞ……なんたって俺の怒りそのものだからなぁ!?」

 ホムラが片腕を伸ばすと双竜の片方が勢いよく飛び出してきた。

「……っ!!速いっ」

 ハルカは右に大きくステップを踏み、なんとか避けることには成功したが、それで精一杯のようだ。

「ほらほらァ!?もう一匹いくぞオラァ!!」

 第二激が飛んでくる。避けきれないと踏んだハルカは剣で抑え込む。

「ほう。なかなかやるなっ。だが竜は二匹いることを忘れてないか?」
「……っ!?」

 もう一匹の竜がハルカに直撃した。

「ぐはっ!!」
「ハルカちゃん!!」

 穂乃香が叫ぶ。

「なんで……なんでこんな酷いことするの!別に私たちも……ハルカちゃんも何もしてないじゃない!!」

 こんなに感情を表に出している穂乃香は初めて見た。しかし

「黙れェこのクソ野郎共が!!」

 相手の気迫はそれ以上だった。思わず毛立ちすくみそうになる。

「俺の……俺の妻は異世界人に騙され……殺されたっ!!」
「……っ!?そ、そんな……」
「お前ら異世界人は科学の進歩だと言い張って平然と人体実験を繰り返した……まぁこの事実も王国のほんのひと握りの人間しか知らないが……」
「違うよ!!この子達はそんな人じゃない!!」

 ハルカが必死に説得しようとするがまるで聞く耳を持たない。

「もはや妻を失った俺にはテメェら異世界人を一匹残らず駆逐すること以外にやることはねぇ!!ぶちのめしてやる……」



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