Traveる
序章 I don't know how to sey'I love you'
「はぁ……やっぱりそうだよなぁ。穂乃香ちゃん〜。あの優しい眼差し……サラサラの黒髪……おしとやかな仕草……間違いないよな……」
昼休みの学校。廊下の曲がり角を利用し、俺岸滝享介は好きな女の子である火神穂乃香を見ていた。傍から見れば変質者にも見えそうだが……
「よっ享介!今日も昼間っからストーカーかァ!?」
とそんな俺を怪しんでか小学校からの悪友の智と中学からの友達の花乃が話しかけてくる。
「享介さぁ。高校に入学して1ヶ月半……ずっとそんな感じだよね?そんなに火神さんが好きなの?」
「ま、まぁそうだね」
智はほほぅと意味有りげなにやけ顔をしやがる。
「はぁ。お前にも大切に思える子が出来たんだな。俺は嬉しいぞ……」
お前は俺のなんなんだよ。そんなしみじみしやがって
「う……うっせーな。今日はただ見てたわけじゃねーよ。……タイミングを伺ってたんだ」
「たいみんぐ?水泳?それともキーボードでも打つの?」
「おい花乃。スイミングじゃねーしタイピングでもねーっつか大事な話なんだけど」
どんな、間違えしたらそうなるんだ……
それでタイミングがどうした?と智が聞く。それに対し、俺は力強く言ってやった。
「ああ。決心したんだ。俺」
「今日穂乃香ちゃんに告白する!!!!」
「「な、なんだってー!?」」
  2人とも違った驚きを見せる。馬鹿を見るような驚きを見せる智とキャーって感じに興奮してる花乃。
「おい!早まるな!まだその時ではない!」
「なんでだよ」
「なんでも糞もあるかよ!?出会って一ヶ月半。お前が一目惚れで好き好き言ってるだけでろくに話したことすらもねーだろ!」
「それがどうしたっ!キリッ!!正直一目見る間でもなく名前聞いただけであ、この人好きだわってなったから」
「あー駄目だこいつ……早くなんとかしないと……なぁ花乃!お前もなんか言ってやれ!」
「そうね。女の子を泣かせちゃだめよ!」
「いや、違うだろ!!」
智とはうってかわって割と応援してくれてそうな花乃。
「大丈夫だ。問題ない」
「問題しかねぇ……」
なんだ?今日の智少しうるさくない気がする。心配してくれているのは分かるが……花乃は割と肯定してくれてるけど。
「享介……そうよね……恋ってするものじゃなくて落ちるものだもんね……仕方ないよ……キャー!フォー!フラれたあとなんて言おうか……いや何でもないなんでもないよ~」
前言撤回こいつも楽しんでるだけだわ。フラれる前提になってるし……
「あーもう。お前ら見とけよ!絶対成功させてみせるからな!」
俺は止めたからなと智。当たって砕けてきてと花乃。おい砕けろはおかしいだろ……
と、そんな話をしてる間に昼休みの終わりのチャイムが鳴り出した。
「やっぱ放課後かな……」
伝えてやる。俺のこの熱い想いを!!!
夏の暑さも盛りに近づく五月の中旬だが、午後四時ともなれば多少暑さも控えてくる。そんな時間に校門まえにて、憧れの少女穂乃香が下校するのをあらかじめ待ち構える享介。彼女の家の方角までは既にリサーチ済みだ。あとは来るのを待つだけ……
「はぁーやっぱキンチョーするなぁ」
とそんなことを考えていた時、見知った(一方的に)女の子を見つけた。火神穂乃香ちゃんだっ!よし……言う……言うぜ!!
「あ、あの火神さん!!」
「えぇっ!?私?」
呼ばれた穂乃香ちゃんは突然話しかけられびっくりした模様。可愛い(白目)
「あ、あのその……」
言え……っ言うんだ……俺っ!!あの時……初めてあった時から君のことがっ……
だが、それ以上の言葉は出なかった。正直甘く見ていた。告白というものがこれ程難しいものだとは思わなかった……俺かっこわるっ!
しかし、おろおろしている俺にフォローしてくれるのが優しい穂乃香ちゃん!
「ええっと……話?……だよね?確か帰り道途中まで一緒だったはずだし、話しながら帰る?」
ふぁ!?
空が夕焼けに染まりそうな時間。いつものように買い物をする人、学校から帰る人、騒がしく遊んでいる近所の子供たち。いつも見るありふれた風景。そんないつも通りの商店街。いつもと変わらぬ帰り道。だが俺だけは違った。成り行きだが、あの憧れの火神さんと一緒に下校。なんたる奇跡、なんたる充実感。溶けてしまいそうだ。だがここで溶けてしまうわけにはいかない。
俺は想いを伝えるためにこうしているのだから。
(だが一緒に帰ろう(比喩)なんて普通言うか??……っ!?まさか穂乃香ちゃんも!?)
一瞬そう考えたが流石にそんな美味しい話があるはずもない。
(いや、それよりもこのままではまずい……気まずすぎる!!何か話でもして気を紛らわさないと!!)
「あ、あのさっ!」
ひゃいっ!と驚く穂乃香ちゃん。可愛い
「じ……実は、君のことが……す……」
「す?」
何か喋らなければと焦っていたがそこまで言いかけた。あとは好きと伝えて理由を述べるだけだ……だが
「す……すげぇおでん食べたくなってきた……」
何言ってんだ俺?!終わった……完全に変なやつだと思われる!突然おでんが食べたいとか意味不明すぎるっ!!
俺は意味不明なおぞましい嘆きを叫ぼうとしたが穂乃香ちゃん意外と目がキラキラしてらっしゃる。あれれ?
「わ……わかる!私も今おでんが食べたかったの……」
  ナン…ダト!?
「よくお汁を吸った大根がほんとに甘くて美味しくて。食べ物の中では1番好き……かな?」
「わかる!美味しいよね!」
「あーっ……私もおでん食べたくなってきたなぁ……」
まさか穂乃香ちゃんがこんなにもおでん大好きだとは思わなかったが……いい意味で予想外だ。これはチャンスに繋げるしかない
「な、なぁ。そこにおでん専門店あるみたいだぞ。ちょっと寄っていく?」
本当!?と目をキラキラして言ってくる。だから可愛いって……
「でも私今お金が……」
「それくらい奢るからさ!キリッ」
「じゃ……じゃあお言葉に甘えようかな?」
やったぞ!!俺はツイてる。初日から寄り道デートとか最高かよっ!!ありがとうおでん専門店!ってかそんな店あるんだな。大きな暖簾に大きく『おでん専門店!おでんでんででん』と書いてある。もう少しましなネーミングセンスを持つやつはいなかったのだろうか。と、そんなことを考えながら俺は穂乃香の手を引き、店に入ろうとした。 
しかしそこで二人は仲良くおでんを食べることはなかった……
  なぜならその店には床がなかったのだ!
「えっ」
「はっ?」
そんな訳の分からない事実に先に気づいたのは享介だった。踏み出した右足をなんとかこらえて踏ん張った。もし享介1人なら店の奥底に落ちることはなかったかもしれない。しかしおでんに夢中になっていた穂乃香は別だった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」
「火神さんっ!!」
なんとか持ち直した俺は穂乃香ちゃんの腕を掴むがその努力も虚しく二人はおでん屋の底へと落ちていった。
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