流転の挨拶見たいなショートショート

流転

流転の挨拶見たいなショートショート

「それじゃあ……。バイバイ」

冷たく突き刺さる声。鼓膜に焼き付いて離れない嫌な声。
僕は、それを聞いて死を感じた。
途轍もない痛みが胸を襲い、息は連動するかのように上がり苦しい。

秒針の何秒も先をゆく心拍数を抑えるように胸に手を当て固唾を飲み込んだ。
いつもなら、すぐ飲み込めるそれすらも、五秒はかかったかもしれない。

そして、必然的な結果を免れる事も出来ず、僕はこの場所から逃げる事さえも許されない。

割れた空から黄昏が射し込み、伸びた僕の影が、逃げるもう一人の影を追いかける。届く訳もなく、交わることも無い。

だけれど、せめて影だけでも……君を近くに感じたいと思ってしまった。

「そうだよね。ありがとう僕の初恋の人。そしてさようなら」

小さく吐露した言葉は、屋上で吹き付ける強い風に掻き消され、君は気が付くことも無く去ってゆく。

遠のく背中をいつまでも目に焼き付け、僕はフェンスに寄りかかる。

「僕だって、男に産まれたかったよ……。こんな思いをするぐらいなら、感情なんか捨ててしまいたい」


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