野球部と女装男子

ノベルバユーザー158744

7章

今日は文化祭の当日だ。
「なあ、鈴木、俺って綺麗?」
松坂が心なしかシナを作りながら僕に質問した。
僕も思い切りカッコよく返した(返したつもりだ)
「ああ、当然だろ、誰がメイクしたと思ってるんだ」
「そうだよな...アホな質問したな」
そこにいたのは和服を纏った日本刀のような凛とした雰囲気を漂わせた長身の美少女だった。
司会者が松坂を呼んだ。
「では、次はなんと!野球部の松坂君が女装してくれましたー」
女装コンテストの会場である体育館からどよめきが上がった。
「マジかよ!あの松坂が女装かよ!」
野球部の連中は絶叫しながら大笑いしていた。

松坂が僕の方を見る、目が潤んでいた。
「なあ、俺って...」
泉さんと森さんが後ろから声をかける
「松坂、大丈夫!めっちゃ綺麗だから!」
「マッツン☆マジヤバイよ!」
小泉君が僕の肩を叩く。
「スタイリストとして何か言ってあげたまえ」
僕は松坂を見た。松坂も僕を見た。
僕は何を言えばいいか分からず「松坂、綺麗だぞ!」と言った。
松坂は困ったような笑いをしてステージに上がっていった。

スポットライトの下に照らされた和服の美少女が鞘から刀を抜いた。
そしてゆっくりと刀を振る。観客の目はその刀の先に集中していた。一閃、そうしてまた一閃、松坂は刀を振るった。
そして刀を鞘に収めた。パチンと鍔と鞘がぶつかった音がした。
一瞬の静寂。その後すぐにステージでは歓声が上がった。
野球部は
「おおお、まじかあ!」
特に大きな歓声をあげていた。
「いやーすごい!和の妖しい雰囲気がヤバイ!私司会者ながら見入ってしまいましたぁ!」
会場は万雷の拍手に包まれた。
松坂がこちらに戻ってくる。

「どうよ!どうよお!」
「すごかった!超キレイだった!!」
泉さんを初め、クラスメイトが松坂の周りに集まる。
松坂はみんなに応えながらキョロキョロしていた。
森さんと小泉君が僕の手を引っ張る。
「ほら☆マッツンがズッキーを探してるよ!」
僕と目が会うと松坂は手を上げた。僕は本当に松坂にステージに行く前に言いたい言葉が分かった。
松坂、ありがとう。
松坂がいなかったらこんなにクラスに馴染めることもなかったし、自分のメイクを認めてもらえるなんてありえなかった。
僕も松坂の方へ走っていく。
僕らはそれぞれ示し合わせたかのように手を高く上げてハイタッチした。

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