野球部と女装男子

ノベルバユーザー158744

3章

その日、僕はウィッグやつけまつ毛など小物の予算について泉さんと話していたので帰りが遅くなった。
僕が帰り道を一人で歩いていると、目の前に松坂がいた。
松坂は僕の目線に気がつき後ろを向いた。
松坂とはメイクや女装について話すようになったけど、話題にしたことといえばそれくらいだった。
僕が気まずいと思って歩みを止めていると松坂が話しかけてきた。
「鈴木って帰り道こっちだったんだ」
「あ、ああ」
僕は気まずさからじゃあと言って走り去ろうとすると松坂が僕を呼び止めた。
「じゃあ、今日は一緒だなー」
僕は松坂と一緒に歩きながら混乱していた。
知り合いと一緒に帰るなんて初めてのことだから何を喋ればいいのか分からなかった。
先に口をきいたのは松坂だった。
「鈴木って化粧好きなん?」
「よく、分からないや」
メイクは僕の自己顕示欲を満たしたいから始めたので好きかどうかと言われるとよく分からない。
「いやーでも変身するのって楽しいな」
松坂がゲラゲラ笑いながら言った。
僕は思わず松坂を見つめた。
「た、楽しいの?」
松坂はこくりと頷く。 
「だって俺みたいなやつがさぁ、あんなイケイケのお姉ちゃんに変身できるんだぜ」
「でも、女の格好するなんて嫌じゃないの?」
「まあ、最初はな、でも鈴木って化粧上手いからどんな風にも変身出来て楽しいよ」
松坂は、はははと笑いながら僕の肩を叩いた。
「こんな思いできるのも鈴木のおかげだな!」
僕は松坂の方をあまり見ることが出来なかった。どんな顔してるか自分でも分からなかったからだ。

不思議だった。
僕がチヤホヤされるために始めたメイクで人と繋がるなんて。

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