野球部と女装男子

ノベルバユーザー158744

第2章

僕は松坂を化粧落としで綺麗にした後松坂を見つめた。
化粧ノリが全くしない日焼けした肌。
ニキビだらけの頬。
素材としてはなかなかに厳しいのは認めざるをえない。
「ギブアップ?」
泉さんがニヤニヤしながら僕に聞いた。
自慢じゃないが、僕がネットアイドル凛子として変身するために女装にかけた手間と労力は半端なものじゃない。
そんな僕が女装で引き下がるわけにはいかなかった。
僕は松坂をもう一度見つめる。
そして気づいた。
「松坂って、奥二重なんだな...」
松坂はキョトンとした顔をする。
「ま、まあな、あんまり意識したことないけど」

僕は松坂の目を強調するメイク、先日やったギャル系メイクを松坂にすることにした。

「松坂、目を開けてみて」
松坂はおそるおそる目を開けた。
「これマジで俺?!」
展示物を作っていた男子がどよめいていた。
「あれが松坂ってマジか...」
泉さんが歓声をあげる。
「松坂、可愛いじゃん!」
松坂が僕を見る。
「鈴木、お前すげえな!」
僕は今まで自分がチヤホヤされるために上手くなったメイクを褒められて罪悪感と幸福感が入り混じった気分になっていた。

幸福感の方が少しだけ多いような気がした。

「ねえ〜こことかどうすんの?」
「ああ、そこはこの道具の方がいいよ」
僕は松坂を見事に変身させた功績が認められて、女装を手伝うグループに入ることになった。
「分かんないから最初に手本見せてよ」
「はいはいっと」
必然的にクラスメイトとも喋る機会が増えた。
「なあ、鈴木よぉ〜、この化粧水って毎日しなきゃいけないの?」
松坂が僕に尋ねる。
「当然だろ、化粧のノリが全然違ってくるんだよ」
僕は有無を言わさない言い方で答えた。
「あと、部活のたびに日焼け止め塗るのめんどくせえよ〜」
「じゃあカニはおじゃんだね」
松坂は渋い顔をしながら、了解したというように頷いた。
「でも鈴木がこんなにしゃべるやつだと思わなかったわ」
泉さんが横からしゃべりかけた。
「確かになぁ、鈴木って放課後とかすぐ帰って話す隙もなかったし」
松坂が同意するように畳み掛ける。
僕は何を言えばいいか分からずメイクに集中するフリをした。

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