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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第43話 友との再会、そして英雄よ。お前は……

 アテ―ナイに戻った俺はアステリオスの大斧を運び、宮殿に飾った。誰にも盗られないように厳重に。
 民と生き残った兵士たちはこの戦いで死んだ者に対して大きな悲しみを持った。夫だった者、恋人だった者、兄や弟だった者。その家族が家族の為に涙を流している。
 もちろん、アステリオスのことも悲しんだ。一番涙を流していたのはアステだった。だが、アステはその悲しみを乗り越えた。
「アステリオスがまたここに戻ってこないように、俺がこのアテ―ナイを治めます。父上の時より、安心で、平和に。誰もが羨む理想郷のような国にしてみます」
「そうか。なら、俺も安心だな」
 持ち帰ったアステリオスの首はアテ―ナイの中心に大きな墓を作り、そこに埋葬した。
 墓標にはこう刻んだ。
『アテ―ナイの英雄アステリオス。ここに眠る』と。
 大勢の国民が見守り、沢山の花を添えた。

 それからと言うもの、アテ―ナイは平和な国になった。
 戦争も起きず、反乱も起きなかった。男がだいぶ少なくなったのが関係しているのだろう。
 作物が枯れることもなかった。それどころか毎年豊作で、余った食料は食料不足の他国に譲ってやった。
 他国とも友好関係を築き、貿易が始まった。
 見慣れない他国の品を見て、国民たちの生活は少し変わった。
 服が少し豪華になったり、食事がアテ―ナイの料理と変わったりと。
 アステもいい年になり、立派な大人になった。たまに修行と言ってアテ―ナイを出て自分の力を試しているようだが、父親の俺としては心配が絶えない。次期国王になるのだから勝手な行動は控えろと言っているのだが、アステは生意気な口を利くようになり。
「父上もアテ―ナイに来る前は悪党を退治していたのでしょう?自分のことを棚に上げて人に説教する前に、自分の行いを見直すべきです」
 そう言われると反論が出来ない。
 今日も修行に出るアステの背中を見送った。

 そして俺の寿命が来たようだ。
 俺は普通の人間より少しだけ長生きをしてしまった。
 ベッドの上で横になり、もう歩くことも出来ない。力が入らないのだ。
 昔、英雄と言われた俺が今ではただの年を取ったジジイになってしまった。俺も人間だと言う証拠なのだろうか。
 ベッドの周りではアステが心配そうに見守っている。アステの他にも俺に長年仕えてくれた兵士や、給仕、医師などが見守っている。
 皆に見守られていた。
 俺は自分がもうすぐ死ぬことがわかるとアステだけを呼び出した。
「……父上、どうしました?」
「ああ、アステ。もう王になる自覚は出てきたか?」
「ええ、いつでも王になれる準備は出来ています。だから父上は何も心配しなくていいんですよ。立派な王になってみせます」
「そうか、安心した」
 俺は深く息を吸い込んだ。
「……母に、アリアドネーに何か言っておきたいことはあるか?」
「そうですね。じゃあこう言っておいてください。『あなたの息子は立派な王になりました。アステリオスと同じ英雄になれるほどの力も持ちました。見守っていてください』と」
 アステは俺の手を握り、静かに涙を零していた。
 その涙が俺の手に落ちる。だが、もうその感触もわからない。
「わかった。……ではアステ。さらばだ。いずれまた会おう」
「はい。また会いましょう」
 そして俺は静かに目を閉じ、その長い生涯を終えた。

 目を開けると俺は見知らぬ場所にいた。
 ここはどこだろうか。下は白い靄で覆われていて地面がわからない。上は真っ青な空が広がっている。目の前も白い靄で先が見えない。
 手を見てみるとあんなにしわくちゃになっていた手が綺麗な手になっている。俺は昔の俺に戻ったのか?
 とりあえず前に歩いてみた。
 すると目の前に懐かしい人影が、顔が出てきた。
「……アリアドネー?」
「はい、テーセウス様。待ちくたびれましたよ」
 アリアドネーは昔と変わらず、一番綺麗だった姿で俺を待っていた。
 俺は走ってアリアドネーに抱き着つき、接吻した。
「ああ、アリアドネー。会いたかったぞ」
「私もです。またこのたくましい腕に抱かれることをどれほど待ち望んでいたか……」
「二人とも感動の再会だな」
 アリアドネーの後ろから一人の男と女がやって来た。男の顔はアリアドネーとアステリオスの父、ミーノース王だった。
「王。お久しぶりです。それと……そちらの方は?」
「ミーノースの妻のパーシパエーです。こうして会うのは初めてですね」
「お前たち、そんな丁寧な言い方は止めてくれ。お前も王になったのだろう?なら、余……いや、わしたちは対等な立場だ。堅苦しい言葉などいらん」
 ずっとアリアドネーと一緒にいたのだろうか。その顔はとても優しい。
 俺はミーノース王とパーシパエー、アリアドネーに自分の話をしようと思った。
「待て待て。お前の話を聞くにはまだ肝心な奴がいないだろう?こっちに来い」
 ミーノース王は俺たちに背を向けると歩きだした。
 俺たちはその後ろを付いて行った。
 俺たちの他に肝心な奴などいるのだろうか?
 しばらく歩いた。
 そして目の前に一つの人影が浮かんできた。
 その体はとても大きく……
「お前……は……!」
 忘れもしない。そのたくましい体。そして頭に生えている二本の角。
「やあ、テーセウス」
 懐かしき笑顔。それは……
「アステリオス!」
 俺は走りその体に抱き着いた。
 ああ、この体の硬さ、その顔、間違いない。俺の唯一の友のアステリオスだ。
「再び会えるとは思わなかったぞ!アステリオス!」
「うん。ぼくもあえるとはおもってなかったよ。でも、ぼくがかみがみにたのんだんだ。もういちど、テーセウスとあえますようにって。ぽせいどんもきょうりょくしてくれたんだ」
 あの神、二度とアステリオスと会えないと言っておきながらとんだプレゼントを残してくれたものだ。
 嬉しい、嬉しいぞ。こんなに嬉しいことは今まで味わったことがない。
 俺の体を強く抱きしめ、俺たちは感動の再会を果たした。
「ぼくだけじゃないよ。ほかにもみんな、テーセウスにあいにきてる」
「我らが王よ。お待ちしておりました」
 白い靄の中から懐かしき声が聞こえてきた。
 複数の足音を立ててそいつらは現れた。
「ソラウ!それにお前たちも……!」
 俺に尽くしてくれた部下であるソラウと一緒に戦場を戦った勇者たちが膝をついて俺を待っていた。
「ずっとお前を待っていたのだぞ。死んでも尚お前に尽くすとは大した忠誠心だ」
 ああ、ああ。本当に嬉しい。
 俺は泣きそうだった。嬉しくて泣きそうだった。
「ふふ、テーセウス様。いい年した殿方が涙を我慢するなんて、みっともないですよ?」
「そう言われても……俺は……俺は……!」
「テーセウス、ぼくたちにはなしてよ。あてーないがどうなったのか、あすてがどうなったのかを」
「わしたちは会ったことがないが、テーセウスとアリアドネーの子供なら大層屈強な男に成長したのだろう?ぜひ聞かせてくれ」
「いいだろう、とんでもなく長い話になるから覚悟しろよ?」
「たのしみだ。すごくたのしみだ」
 俺は座って皆に俺が生きた時代の話をすることにした。
 その話を聞いて皆、すごく楽しそうだった。
 だが友よ。お前が一番楽しそうだな。

 クレタ島の怪物として恐れられた怪物、ミノタウロス。それが、今や英雄になった。 
アテ―ナイの英雄アステリオス。お前は……

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