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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第39話 人間ではない

 兵士たちの情報からはまだ何も変化はなかった。
 国を行き来している行商人に話を聞いてもそんなことは聞いたことがないと。
 俺はあの老婆に騙されたのか?
 いや、まだ決めつけるのは早い。もう少し待ってみよう。

 一週間が経った頃、その情報が入って来た。
「敵は征服した国の兵士を味方にし、外部に情報を漏らさないように隠しておりました!
偵察に行った仲間も数名やられ、敵が来るのは時間の問題でしょう!」
 やはり来たか。
「どこから攻めてくる?」
「東の方です!」
 ソラウを向かわせよう。あいつの腕ならそう簡単にやられはしないだろう。
 東にいる国民に避難させ、ソラウを警備にあたるように命令した。
 ついに戦争が始まる。
 兵士たちに戦闘準備をさせた。
「よくもまあ神ごときの為に戦争を仕掛けることが出来るものですな」
 老婆がやって来た。
「あんたは神を信じていないのか?」
「神がいるのは信じています。そのせいでアステリオスが産まれたのでしょう?でもその
力は信じておりません。神が人間に力を貸すなどありえないことですからな」
「神が人間に干渉すると碌なことがないからな。あんたが神に加担していないことがわか
ってよかったよ」
 俺は呑気な会話をしていた。

 そして敵がアテ―ナイに攻めてきた。
 ソラウが率いる部隊は前線に行かせ、出来るだけ多くの敵を排除するように指示してい
る。
 アステリオスとアステの部隊は第二。そして第三の部隊はこの俺自ら出陣することにし
た。
 ソラウの部隊はかなりの時間、敵をアテ―ナイに侵入させなかった。
 だが、偵察に行った兵士の話を聞くと相手の兵士の様子がおかしいと言う。狂ったよう
にポセイドン様の為、ポセイドン様の為と言い、怯むことなく突撃してくる。倒れた仲間
の死体を踏み越えて味方の兵士と対峙するが、その力はすさまじいのだと。
 俺はアステリオスを呼んだ。
「アステリオス、お前には辛いだろうが敵がもうすぐそこまで攻めてきている。アテ―ナ
イを守る為にお前の力を貸してほしい。出来る事ならお前を戦いに参加させたくなかった
が、力を貸してくれないか?」
「てーせうすのためならぼくはたたかう。でも、ころしはしないよ」
「ああ、それでいい。敵の動きを奪うだけでいい。アステを守ってくれ」
 俺は戦いに向かうアステリオスの背中を見ていた。
 しかし、何だか嫌な予感がした。アステリオスがもう戻ってこないのではないかと言う
不安があった。
 だが、アステリオスは今までの戦いでも必ず生き延びて帰ってきている。今回も無事に
帰って来るだろう。そう思うことにした。

「怯むな!敵はまだまだ来るぞ!何とかして持ちこたえるんだ!」
 攻めてきた敵は我が兵士たちを次々と倒していく。それだけなら普通の戦いなのだが、
この違和感はなんだ?死ぬことを恐れていないような、正気を失っているような目をして
いる。
 馬に乗ったまま剣で敵の首を斬る。
 そのまま倒れるはずの敵の体が、何故か固まったまま倒れない。
 私はその敵の兵士の体から流れる血を見ていた。
 赤くない。どす黒く、真っ黒に近い血だ。
 やはりこいつら、ただの兵士ではない。何か、不思議な魔術で生み出された怪物だろう
か。
 味方の兵士は弓と矢を使い、遠距離から攻撃をさせているが、矢や槍で体を貫かれても
その勢いは止まらない。
 私は一旦、退却することにした。
「退却!退却!」
 矢を討ち続けて前に出ていた兵士たちを退却させた。
 アステリオスが率いる部隊が到着すればこの戦は、少しは優勢になるだろう。
 守っていたアテ―ナイの入り口から走り、街まで下がった。
 敵は追ってこない。何か作戦でもあるのだろうか。
 可能な限り下がった。

「あすて、大丈夫?」
 やりをもったままがたがたとふるえているあすてにこえをかける。
「だ、大丈夫だよ……ちょっと緊張してさ。命がけの戦いなんてこれが初めてだから、緊
張で震えが止まらないんだ……」
「こわかったらてーせうすのもとにいてもいいんだよ?ぼくがまもるから」
「父上にかっこ悪いところを見せられない。俺もアステリオスと一緒に戦う」
 ぼくたちはあるいてそらうのぶたいのところまでいった。
 あつまったひとたちはぼくがきたえたうでのたつせんしだ。まけることはないだろう。それにぼくのてにはおのがにほん。どんなぶきよりもがんじょうなこのおのはてきのよ
ろいをはかいするためのものだ。けっしてころすためにつかうんじゃない。
 あるいてそらうのぶたいがみえた。

「近くに増援が来ました!アステリオス様たちです!」
「そうか!やっと来たか!」
 私はその場で止まると、敵の方を見た。
 敵はさらに固まって進軍しているようだ。
「よいか!アステリオスが来ると安心している場合ではない!アステリオスの手を汚さな
いように出来るだけ我らが敵を倒すのだ!アテ―ナイの為に、その命を捧げろ!」
「うおおおおおおおお!」
 味方の士気が高まった。
 そして私たちは敵に真っ直ぐに突っ込んでいった。
 矢や槍が降り注ぐ。だが、私は止まるわけにはいかんのだ!
 一度は捨てたこの命、テーセウス様の為に使い、アテ―ナイを守るのだ!
 降り注ぐ中、私は馬を走らせ、先頭に立っていた敵を斬った。
 斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬った。
 敵の将を倒せばこの勢いも少しは止まるだろう。敵の中を進んで将を目指した。
 敵の攻撃の勢いもすさまじく、乗っていた馬が殺された。
 地面に倒れ、急いで体勢を立て直す。
 剣と剣がぶつかり合う。
 後ろからアステリオスたちが走ってやって来た。
「そらう!」
「アステリオス!悪いが道を開いてくれ!こいつらの大将をとるのだ!」
「うん!」
 アステリオスが私の前に走り、持っている大斧で敵を薙ぎ払う。敵を殺さず、鎧を破壊
してその衝撃で倒れた敵は動かない。
 開いた道を私はアステリオスの後ろでついていった。
 このまま進めば敵の将は見えるはずだ。
 しかし、いくら進んでも敵の将は見えなかった。否、いなかったのだ。
 では誰がこいつらを指揮しているのだ?
 その考えが私の剣を鈍らせた。
 横から来た敵の剣によって私の左腕は切断された。
「ぐぅ!」
 痛みで足の動きが止まる。
「そらう!」
 足を止めた私の体に敵が群がり、剣ではなく歯で私に噛みついてくる。
 首や足、腕に噛みつかれた私は動くことが出来なかった。
 敵の歯から私の体に何かが入って来る感じがした。
 そしてわかった。こいつらの指揮をしているのは……人間じゃない……!人間ではな
い!
 このことを伝えねば……何とかして伝えねば……!
 声を何とか絞り出してアステリオスに向かって言葉を出した。
「アステリオス……王に……伝えてくれ……!この戦は……絶対に勝てない……!逃げる
ように言うのだ……!」
「そらう!そらう!」
 私の体を噛んでいた敵がアステリオスの手によって吹き飛ばされる。
 だが、もう遅い。
 私は……
「伝えてくれ……王に……逃げろと……」
 そこで私の意識は途絶えた。

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