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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第37話 妻の死

 そして傷が癒え、俺たちがクレタに戻る日が来た。
 ペイライエウスに船を用意し、俺たちはそれに乗り込んだ。
「テーセウス王、このアテ―ナイはどうなるのですか?」
「わからん。しばらくはクレタにいる俺の部下を代わりにさせるが、正統な王を決めるの
はお前たち次第だ。戦にならないことを願っている」
「テーセウス王、あなたがいなければこの国は滅んでいたでしょう。あなたとアステリオ
ス様に今一度感謝の言葉を述べます」
 大勢の兵士が俺たちに向かって敬礼する。俺はそれを受け取ると振り向かずに船に乗っ
た。
 船が出る。
 目的は達した。アステを無事に取り戻した。俺は自分の国に帰る。
 その船を、兵士はもちろんアテ―ナイの国民もいつまでも見送っていた。
 帰りは順調に帰れた。嵐も起きず、何事もなく。
 あえて言えば、アステリオスがこけて海に落ちたぐらいだろうか。今度は泳げたようだ。
 それを見て俺とアステは笑っていた。

 それから十年の日が流れた。
 アステは成長し、もうすぐ成人を迎える。アステリオスは大事な遊び相手が成長し、
遊ばなくなったので少し寂しいようだ。
 アテ―ナイはソラウが王になり、無事に国を治めていると聞く。
 変わらない日々がそこにあった。このままいつまでも平和な日々が続きますようにと願
った。
 でも、そんな願いは簡単に消されてしまった。
 クレタの王妃である俺の妻、アリアドネーが病気になってしまったのだ。それを前兆に
クレタは変わってしまった。
 雨が降らず、作物が育たなくなり、食料不足になってしまった。
 アテ―ナイから食料を運び、何とか生き延びているが、それもいつまで持つかわからな
い。
 せっかく誰もが平和に暮らせるようにと望んだのにこのざまだ。どうやって生活をして
いくか頭を悩ませていた。
「てーせうす、だいじょうぶ?」
「今のところは大丈夫じゃない。このままではクレタは滅びる。何とかしなければいけな
いのだが良い方法が思いつかん。お前は何か考えはあるか?」
 首を横に振る。
 どうすればいいのだ。このままでは……
「んー、くれたがたいへんなのはわかってるけど、くれたのひとたちをあてーないにいど
どうさせたらどうだろ?」
 独り言のように言った。
 だが、その言葉が俺にはまさに天の救いに思えた。
「そうだ。移住すればいいんだ。クレタを捨て、アテ―ナイに行けばいいんだ。アステリ
オス、お前は天才か!」
 俺が大声を出して褒めるとアステリオスは照れた。
 そうと決まれば急がなくては。
 俺はクレタ中の国民を集めてアテ―ナイに移住することを宣言した。
「しかし王。クレタの人々を全てアテ―ナイに移住させるとなるとどれだけ時間がかかる
かわかりません。そのお考えは……」
「だがこうするしかないのだ。このままではクレタは滅びる。少しでも生きる可能性があ
るのならそれにかけるしかない。それとも何か他に良い案はあるのか?」
 皆黙る。決まりだ。
 俺はクレタ中の国民を集めた。
 アテ―ナイにいるソラウにそのことを伝えるとアテ―ナイもそれなりの準備をしておく
と返事をしてきた。
 クレタの国民は数か月かけてアテ―ナイに移住した。
 だが、その中で一人だけアテ―ナイに行かない者がいた。
 宮殿に仕えていたダイダロスだ。
 ダイダロスは自分の仕事は終わった、あとはクレタと一緒に運命を共にすると言い、長
年作り続けてきた武器をアステリオスに渡した。
 その武器は二本の大きな斧だった。
 その斧はあまりにも重く、とても人間が扱えるものではなかった。アステリオスの筋力
を持って初めて扱える代物でこれはアステリオスの為だけに作り続けてきた武器だと。
 それをアステリオスに渡すとダイダロスはどこかに消えてしまった。
 最後の船に乗った俺はクレタ島の周りを見て回るとアテ―ナイに行った。
 そこで俺はソラウに代わってアテ―ナイの国王になった。
 国王になったはいいが、アリアドネーの病気は一向に治る気配がない。魔猪を退治し、
その血を与えた薬草を飲ませても治らなかった。
 そのままどんどん弱っていき、もうベッドから起き上がれる体力も無くなってしまった。
「……テーセウス様、アステ、そこにいますか?」
 目を閉じたままアリアドネーは尋ねる。
「ああ、ここにいる。もう少し待ってくれ。もう少しでお前の病は治る。だからそれまで
何とか持ちこたえてくれ」
 アリアドネーの弱った手を握って答える。
「私はもうダメです。父ミーノースの元に行きますが、許してくださいね」
「何を言っているんだ!お前は治る!だからもう少しだけ待つんだ!」
「ああ……そのお気持ちだけでも頂戴します。それと、アステリオス様はいますか?」
 アステリオスを呼び、アリアドネーの側に来させた。
「ありあどねー……」
「アステリオス様……あなたは最後までテーセウス様のお傍にいてください。この人は寂
しがり屋ですから、誰かが傍にいないとダメなんです」
「うん、わかった」
 アリアドネーは少しだけ微笑み、その短い命を終えた。
 俺はアリアドネーの手を握ってアステと一緒にいつまでも泣いていた。
 アテ―ナイの王妃、アリアドネーの遺体は俺たち三人だけで埋葬した。
 大好きだった花を墓に添えて、三人でアリアドネーに別れを告げた。

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