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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第36話 息子の無事

 誰も歓声をあげなかった。勝ったのかどうかわからなかったのだ。
 静かな空気が流れる。
 その中でただ一人だけ、アステリオスは涙を流していた。
今回の戦いは勝ったとは言えなかった。
 幼い子供たちを何人も亡くし、アテ―ナイの国王も変わり果てて死んだ。
 檻に生き残り閉じ込められたままの子供たちを解放した。だが、その中にアステの姿は
なかった。
「アステリオス、アステの匂いはどうだ?」
「このおく。てーせうすのおとうさんがにげたさきからする」
 俺はそこに向かった。
 その奥ではアイゲウスと勇敢に戦った兵士の死体が数人地面に倒れていた。体の半分が
潰されていたが誰一人、その顔は絶望していなかった。あとは頼んだと言うように、満足
した顔だった。
 生き残った兵士にこの勇気ある者たちを地上に運ぶように言うと先に進んだ。
 奥にはアステがいた。でも、その体は無事ではなかった。
 壁に釘で磔にされ、血が大量に流れていた。
「アステ……アステ……!」
「……ちち……うえ……?」
 声を絞り出すように小さな声を出す。
 よかった、生きている……!
 左腕でアステの体に刺さっている釘を引き抜き、解放されたアステを強く抱きしめた。
 早く医者に診せなければ……手遅れにならないうちに。
 地下から出て、すぐにアテ―ナイの宮殿に仕えている医師に診せた。
 ひどく衰弱しており、命の危険もあったが、何とか峠は越えたようだ。今は眠っている。
 俺は右肩に包帯を巻かれてまた片腕生活に入ってしまった。
 そんなことより、問題はこのアテ―ナイだ。
 国王が死んだことにより、この国を治める王がいない。アテ―ナイ中から我こそはと言
う者が大勢現れるだろう。また戦になる。その戦を回避する方法はない。
 俺はため息を吐いて頭痛がする頭を抱えていた。
「あすてもてーせうすもたすかってよかったね」
 全身を包帯で巻かれたアステリオスが俺の元に来る。こいつは俺より重症だったのに今
ではもう元気に動いている。すごい生命力だ。
「お前も生きていてくれて良かったよ。今回の戦いはお前がもっとも勇敢に戦った。王と
してお前に褒美をやらないとな」
「じゃあ、みんなであそぼう!てーせうすもありあどねーもあすてもいっしょに!」
「それは傷が治って無事にこの国を出られてクレタに帰ってからな」
 左腕で興奮したアステリオスを抑えてしばらくアテ―ナイに滞在した。

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