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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第35話 初めての殺し

 アステが産まれてから父上は人が変わったように民に重い税を課し、近隣の国と手を組み、何かを始める気だと言った。あんなにも国民思いだった王が民を見捨てるようなことを言い始めたと。
 確かにこの国の民は以前と違い父上に良い印象を持っていなかった。それは税によるものだったのか。
 この兵士を匿うように兵士たちに言うと、俺とアステリオスは地下に潜った。
 地下はかなりの深さのようだ。梯子を下りても中々地面にたどり着かない。
 どれほど足と手を動かしただろうか。ようやく地面についた。
 道は一本道で周りには松明の明かりが点いている。
「ちかい、あすてがちかいよ」
 この奥に父上とアステがいる。でも、何が待ち構えているかわからない。慎重に、足音を立てずに進んだ。
 すると話し声が聞こえてきた。父上の声だ。
「あともう少しで計画は完了する」
 計画?何の計画だ?
 その場を動かず、耳を傾けた。
「これで我が国アテ―ナイは世界をとれる。私が世界の覇者になれるのだ」
 大笑いする声が聞こえる。その近くに何者かが数名いるような声が聞こえる。
 父上が世界の覇者になるだと?そんな馬鹿な話があるか。世界は広い。まだ見ぬ未知の国もある。そんな国を滅ぼしてこの世界の覇者になるなど夢のまた夢だ。
 やはり父上は狂っている。どうにかして正気に戻さないと……
 道を進み、広い空間に出た。
 どうやら祭壇のようだ。中心に何かを捧げるような台がある。その前に父上が一人だけ立っている。
 だが、その周りに檻に閉じ込められた子供たちがいた。
 アステだけではなく他の子供まで……!何をするつもりだ?
 俺はアステリオスに合図をして飛び出した。
「父上、そこまでです!」
「……テーセウスか。どうした?こんなところまで来て」
 父上はまるで俺が現れるのがわかっていたかのように俺の方を見ずに背中を向けている。
「どうしたもありません!ここで一体何をしているんですか!アステは!この子供たちは何なのです!」
「わからぬか?わからんよな、わしの考えていることなど、お前ごときにわかるはずがない。わしの計画は誰にも理解出来ん」
 ハッハッハ!と大声を上げて笑っている。
 俺は父上に少しずつ近づいた。
「わしの邪魔をするのならたとえお前でも生かすわけにはいかない。おい、始末しろ」
 その声で父上の周りに黒い布を被った者が数名現れた。
 音もなく、いつの間にかそこに立っていた。こいつら、ただものじゃない。かなりの手練れだ。
 そいつらは布を放り投げると自分たちの姿を見せた。
 全員全身に皮膚が見えないほどの黒い入れ墨のようなものが入っている。
 聞いたことがある。他国には暗殺専門の戦闘集団がいると。そいつらは闇に紛れる為に常に黒い布を被り、決して姿を見せない。その戦闘集団がこいつらか。
 そいつらは短剣を両手で構え、俺たちの周りを囲んだ。
 俺も短剣を持って来たが、これだけ数が多いと役に立たない。
「そうだ。死ぬ前に見せてやろう。わしが何をするのかを」
 父上は檻の中にいる子供を一人、引っ張りだすと祭壇の上に乗せた。
 そして、どこから取り出したのか、釘を子供の手と足に刺した。
 子供の大きな悲鳴が聞こえる。父上はその悲鳴が心地よいかのように笑う。
「まだ終わりではないぞ。これからだ」
 逃げられなくなった子供の服を破り、腹になぞるように短剣で斬った。
 子供の腹から血が噴き出す。だが、子供はまだ死ねないのか生きている。悲鳴をあげ続けている。
 その子供の開いた腹に手を入れ、内臓を取り出した。桃色の内臓が見える。
「ああ、心地よい感触だ。弾力があり、暖かい……」
 その引っ張り出した内臓を天に差し出すように上にあげる。
 するとその内臓は宙に浮かび、それに引っ張られて子供も宙に浮く。
 そしてそれは蒸発するように粉々になった。粉々になった体が祭壇の上を昇っていく。
「素晴らしいだろう。これで儀式はあと少しだ」
「一体何をしようとしているのです!」
「わしはな。そこにいる出来損ないの怪物とは違い、本物の怪物たちを作るのだ。決して死なぬ不死の軍団。そして強靭な肉体、力。神をも超える素晴らしい能力を持った新しい人間。それで世界を征服する。わしはこの世界の王となるのだ」
 ……許せない。
「……民を犠牲にし、挙句の果てには子供を自分の目的の為の道具としか思っていない貴様は狂っている。もはや貴様を父とは思わん。この手で引導を渡してやる、アイゲウス!」
 短剣をアイゲウスに向かって突きつけ、殺す覚悟を決めた。
「狂っている?そうだ、わしは狂っている。狂わなければこんな計画など思いつかん。神々を打倒しようなど普通の人間は思いつかんだろう。だが、海神ポセイドン様がわしに知恵を貸してくれた!力を貸してくださった!ポセイドン様の為にも、わしは世界を滅ぼす!」
 両手を大きく広げ、宣言した。
 前に聞いたあの方と言うのは神ポセイドンのことか。アステリオスが産まれた原因を作った神。その神が、このアイゲウスに力を貸しているだと?何の為に?
 訳がわからず固まっていると戦闘集団が襲って来た。
 短剣で防御するが、素早い動きで俺の体に切り傷をつける。
「アステリオス!こいつらを思いっきり壁に叩きつけろ!殺すか殺さないかはお前の自由だ!だが、確実に動きを止めろ!」
「うん!」
 アステリオスは大きな腕を振り回してそいつらと戦う。だが、動きが早すぎてアステリオスの動きが追いつかない。アステリオスの体に次々と切り傷がつけられ、血が流れる。
 攻撃を紙一重でかわすので精一杯だ。今までで一番手ごわい相手かもしれない。
 足を蹴って動きを崩し、持っている短剣を奪うと一人の首元に刺した。
 血が流れて地面に倒れるかと思ったが、そいつは倒れるどころか血を流さなかった。何事もなかったかのように態勢を整え、首に刺さった短剣を引き抜いた。
 こいつら、人間じゃない!
「そうだ、そいつらはわしが生み出した怪物。不死だ!いくら強敵と戦ったお前やアステリオスでも、そいつらを倒すのは不可能だ。潔く死ね!」
 不死とは言え、気絶させることは出来るだろう。
 俺は短剣を攻撃ではなく防御に使い、戦った。
 相手の武器を弾き飛ばし、体に向かって体当たりして壁にぶつける。壁にあたった奴は気絶したのか動かなくなった。
 よし、気絶は有効だ。
「アステリオス!こいつらは死なない!だが、気絶させることは出来る!だから壁にぶつけろ!」
「わかった!」
 そうは言ってもアステリオスの体は切り傷でいっぱいだ。動きを捉えることが出来ないアステリオスは格好の餌食だ。
 次々と体当たりをして人数を減らしていく。
 順調だ。このままいけば勝てる。そう思った。
 だが、俺は後ろから来た奴の攻撃を避けることが出来なかった。何故なら、そいつは気絶させたはずの奴だったからだ。
 右肩に短剣が刺さる。貫通した。
 左腕でそいつの頭に拳を叩き込み、吹き飛ばした。
 でも、そいつは気絶しなかった。
脳にかなりの振動を与えたはずだ。普通なら立つことさえままならない。それなのに立ち上がる。
 勝てない。こいつらには勝てない。絶対に勝てない。そう直感した。
 傷が深く、右腕は動かない。骨を断たれたようだ。
「死ね!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
 どうやら、俺たちはここで死ぬようだ。アステリオスもかなりの傷を負ってしまってい
る。
 負ける。俺は諦めて目を閉じた。
 その時、外に通じる道から大声が聞こえた。
 複数の足音が聞こえる。
「テーセウス国王を守れ!アイゲウスを打ち取れ!」
味方の兵士がやってきたようだ。いや、連れてきたクレタの兵士だけではない。アテーナイの兵士もいる。
 兵士たちは俺たちを守るように囲み、怪物たちを対峙した。
「テーセウス国王!アステリオス様!ご無事ですか!?」
「……よく来てくれた。その忠義、褒めてやる。生きて帰ったら望む物は全て用意してや
る」
「それは有難い!では、豪華な酒と食事を!」
 兵士たちは怪物たちに向かって戦う。
「何故だ!何故お前たちまでわしに逆らう!わしを裏切ったな!」
「裏切ったのはあなたの方です!神の力に溺れ、人の心を失ったあなたは国王では、人で
ではない!怪物となったのはあなたの方だ!」
 数人の兵士がアイゲウスに向かって突撃する。
 それを逃げるかのようにアイゲウスは祭壇の奥に行ってしまった。
 ここにいる兵士たちは数人がかりで一人の怪物と戦っている。いくら斬っても倒れると
のない相手に怯えているが、それでも勇敢に立ち向かっている。
 斬る、斬る、斬る、斬る。
 いくら斬られてもこいつらは立ち上がってくる。
 でも、優勢なのはこちらの方だ。
 俺とアステリオスは少しだけ休憩をすることにした。
 しばらく経った頃、斬り続けていた怪物たちが突然弱り始めた。
 苦しそうな声を上げて次々と倒れていく。
「やったか……?」
 怪物たちは砂と化して消えていった。
 勝った。俺たちは勝ったのだ。
 あとはアイゲウスと捕らえるだけだ。そう思った時。
「うわあああああああ!」
 奥の方からアイゲウスを追いかけていった兵士の叫び声が聞こえた。
 何人も悲鳴を上げて何かが潰れる音がする。
「許さん……許さんぞ、貴様ら……」
 奥から出てきたのは兵士でもアイゲウスでもなかった。
 筋肉が異常に膨張して膨れ上がったその体は俺が前に戦った魔猪と同じぐらいのデカ
さだった。
 これが……あのアイゲウスなのか?
「まさかこの力まで使うことになるとは……。これで計画は崩壊、わしの夢も泡と化した。
だが、貴様らだけは殺す!必ず殺す!この体が朽ち果てようとも必ず貴様らを殺してや
る!」
 アイゲウスだった怪物は大きな咆哮を上げ、威嚇してくる。
 あの兵士たちもこの怪物の姿を見て驚きを隠せないようだ。俺たちもそうだ。
 だがアステリオスだけは違った。戦う為に前に進み、アイゲウスに立ち向かっている。
「てーせうすのおとうさん。かいぶつはいきてちゃいけないんだよ。かいぶつはにんげん
のてでたおされる。それがうんめいだ。だからにんげんとしてうまれかわったぼくがてー
せうすのかわりにあなたをたおす!」
 アイゲウスの腕を掴み取っ組み合いになる。
 しかし、力はアイゲウスの方が上だった。力負けしているアステリオスは少しずつ後ろ
に押される。
「うおおおおおおおお!」
 大声をあげて自分の力を全開にまで引き出そうとしている。
 そのおかげでアステリオスとアイゲウスの力はほぼ互角になった。
 両者、固まったまま動かない。どちらかが少しでも力を緩めれば負ける。これはそう言
う戦いだ。
「こんな……出来損ないに、わしが負けるか……!」
「ぼくはかいぶつとしてはできそこないだ。でもそのおかげでにんげんとしていきること
ができた。あなたにもかんしゃしている。てーせうすのともとしてこころよくむかえてく
れたあなたのすがたはもうない。てーせうすのためにもぼくはまけられないんだ!」
 アステリオスがアイゲウスの体を持ち上げる。
「うおおおおおおおおお!」
 持ち上げたアイゲウスを壁に叩きつけ、放り投げる。
 アイゲウスの巨体がすさまじい音を出して地面に倒れた。
 この勝負はアステリオスの勝ちだ。
 息を荒くしてアイゲウスを見つめている。
「まだだ……まだ終わらん……」
 諦めの悪いアイゲウスは立ち上がろうとしている。でも、その腕に力は入っていない。
体が少しだけしか持ち上がっていない。
「……ぼくは、さいしょでさいごのころしをする。あなたをかいほうするために」
 兵士の一人から剣を受け取り、アイゲウスの体の上に飛び乗る。
 そしてその首に剣を突き刺した。
 アイゲウスの傷口から緑色の血が流れる。その血を顔に浴びたアステリオスはすぐにア
イゲウスから離れた。
「わしが……こんな出来損ないに……!わしは……わしは……!」
 その言葉を最期にアイゲウスは息絶えた。

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