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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第34話 父の乱心

 父上の命令でアテ―ナイの兵士は国中を探し回った。
 俺たちも参加し、一緒にアステを探した。
 でも、やはり妙だ。
 父上の兵士たちは何だか皆やる気がなさそうに見える。
 家の中を調べようとしても、家の中の住人に少しだけ話をして別の家に行き、またそこで少しだけ話をして終わる。家の中をまともに調べようとしない。
 妙な違和感を覚えてはいたが、アステのことが心配だったのでそれは無視し、誰よりも早く調べた。
 だが、アテ―ナイ中を調べてもアステは見つからなかった。
 ここにもいないとなるともう他国のところに行ったとしか考えられない。そうなると後は俺たちだけで探すしかない。
 だが、この広い大地の中で一人の人間を探すのは困難を極める。ほぼ不可能に近かった。
 俺は自室でそのことを考えながら一人酒を飲んでいた。
「あすて……あすてのにおいがかすかにする」
 アステリオスが部屋に入って来た時、そう言った。
 俺はアステリオスに向かって飛びついた。
「それは本当か!?どこだ!どこにいる!」
「そ、それはわからないよ。ただ、かすかにあすてのにおいがこのきゅうでんからながれてくるんだ。まえにここにあそびにきたときにのこっていたにおいかもしれないよ」
 そうは言うが、匂いなどそんなに長い間残っているものなのだろうか。
 アステリオスの鼻はよく利く。どんなに微かな匂いでもその嗅覚でわかる。前にここに来た時はかなりの期間滞在していたから匂いが染みついているのかもしれない。
 だが、俺はここにアステがいるのではないかと思い、アステリオスに誰にも悟られないように、この宮殿の中にいる者に気付かれないように、その匂いがもっとも強い場所を探すように言った。
 考えたくはないがまさか父上がアステを誘拐したのか……?
 何故だ?理由は?目的は?何もかも不明だ。
 もし父上がアステを誘拐したとわかったら俺は父上と対決しなければならない。
 そうならないように願った。
 しばらくしてアステリオスが帰って来た。
「においがつよいばしょをみつけたよ!このきゅうでんのしただ!」
 この宮殿の下?地下か……?
 だが俺はこの宮殿に地下があることは知らない。俺が住んでいた時にはそんなものはなかったはずだ。俺が知らなかっただけかもしれないが。
 アステリオスの案内で俺たちはその場所に向かった。
 案内された場所は物置部屋だった。
 この部屋はあまり入ったことがない。用がなかったのと、埃っぽくて入りたくなかったからだ。
「こっち。このしただよ」
 アステリオスは木箱の下を指さした。
 この下にアステが……?
 木箱をどかしてみたが、地下へ通じるような扉や穴はない。
 だが、アステリオスはこの下だと言う。
 床に手を置き、丹念に調べる。他の床と何も変わらない気がするが……
 試しにその床を叩いてみる。
「コン」
 ッ!音が他の床と違う!やはりこの床の下に地下があるのは間違いない!
 何とかしてその床をどかそうと思ったが、その床を持ち上げられるような隙間はない。壊して中に入ってもいいが、その音に気付いた衛兵たちがやってきては困る。
 それに確認したい。本当に父上がアステを攫ったのか、その事実を。
 父上がこの地下に入っていけばそれはもう決定だ。
 証拠をつかむ為、一旦この場所から離れた。
 そして俺は出来るだけ父上の行動を監視した。連れてきた兵士たちにも事情を説明し、怪しまれないように注意した。
 一日目。父上はいつも通り、王の間で座り、政治関係の仕事をしていた。行き来したのは食堂と王の間、そして自室だけ。
 二日目。昨日と同じだった。
 三日目。やはり父上は関係ないのかと思った。しかし、父上は自室に戻るのを止めて急にどこかに向かった。それを気づかれないように追った。
 父上は人気の少ない、と言うか誰も近づかない通路に入って行った。そしてその中の一つの部屋に入って行った。
 扉が閉まるのを確認し、俺は扉に耳を当て、中の様子を窺った。
 聞こえてきたのは父上の声と、誰かの声だった。
「……準備は出来たか?」
「はい、いつでも可能です。しかし、よろしいのですか?」
「構わん。これも全てあの方の為だ。テーセウスには悪いがこうするしかない」
 あの方?誰のことを言っているのだ?
 他にも何か言っていたが声が小さくてよく聞こえなかった。
 話を全て聞きたかったが、父上が部屋から出てこようとしたので急いで隠れた。そのまま父上は自室に向かい、出てこなかった。
 自分の部屋に戻り、アステリオスに報告した。
「じゃあ、やっぱりてーせうすのおとうさんがわるものなんだね」
「ああ。だがまだ決定的な証拠をつかんでいない。父上があの地下に入る時を待つんだ。どうやってあの床をどけて地下に行くのか、それを知らなければ」
 アステリオスにいつでも戦う準備をしておくように言い、今日は終わった。
 アテ―ナイに来て一週間が経過した。
「この国にはアステはいないようだな。残念だが、お前の力にはなれなかったようだ」
 わざとらしい言葉を並べて、ため息をついている。
 父上に適当な返事をし、自分の兵士たちの元に行った。
「国王様、アイゲウス王の証拠はつかめましたか?」
「いや、まだだ。お前たちはいつでも戦闘が出来るように準備をしておけ。近いうちに必ず父上はあの地下に行く。その時、このアテ―ナイの兵士と戦うことになるかもしれんが、お前たちだけではこの宮殿内の兵士全員を相手に出来ないだろう。それでもまだ俺についてくるか?」
「無論です。我らが命は王の為に。王の為に死ぬのなら本望です」
「……すまない」
 俺は兵士たちに感謝の言葉を言い、父上があの地下に入る時を待った。

 そして監視を続けて五日目、ようやく父上があの物置部屋に入った。
 扉を少しだけ開けて、中の様子を見る。
 父上は一人であの木箱を移動させている。
 そして床に手をついて数回、不規則に床を叩くと床が動く音がした。開いた穴に父上は入って行った。
 床がまた動く音がし、物置部屋は静かになった。
 俺はアステリオスと兵士たちを呼び、兵士たちに物置部屋の中に入って誰かが出てこないように命じると、床を父上と同じ規則で数回叩いた。
 床が動くと中からこの宮殿の兵士と思われる者が出てきた。
 そいつを地下から引きずりだし、口を吐かせた。
「ここで何をしている?」
「……何も」
「嘘をつくな。ここにアイゲウス王が入って行くのを見た。正直に話せば命は助けてやろう」
「……あなた様なら王を止めることが出来るかも」
 兵士は姿勢を正し、地面に頭を叩きつけた。
「お願いします!王を!アイゲウス王を止めてください!あの方は……ご乱心されています!」
 父上が乱心している?そんなことはわかっていたが、狂っていたのはアテ―ナイではなく、父上の方だったらしい。
 詳しく事情を聞いた。

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