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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第33話 不満

 戦いが終わり、それから数年が流れた。
 子供だった者は成長し、成人を果たすと兵士になった。
 その間に、俺はアリアドネーの間に子供を授かった。男の子だ。神に感謝をし、大切に育てようと誓った。
 名前は友のアステリオスの名前の一部をとってアステと決めた。
 アステリオスはアステのことが気になるようで毎日アステの元に行ってはその顔を見ている。アステもアステリオスのことが気に入ったのか、アステリオスが見に来るといつも笑う。本当に可愛いやつだ。
 そのアステも三歳になり、自分の足で宮殿内を歩くようになった。時々、見失って兵士たち全員で探す時がある。その時はいつもアステリオスの元に行っている。父親である俺よりアステリオスのことをえらく気に入っているようだ。何だか複雑な気分だ。
「あすて、いっしょにあそぼう!」
「うん!」
 アステリオスの頭の上に乗って一緒に街の中を駆け巡っている。民はそれを見て微笑ましそうに見ている。
 この数年、何事も起きず平和に暮らせるのはソラウの働きがあってのことかもしれない。あいつは俺に絶対の服従を誓い、反乱する者がいればそれを取り押さえてくれているようだ。
 俺も王としての自覚を持ち、苦手だった政治にも加わった。相変わらず政治の話は俺にはよくわからん。アリアドネーがいなければクレタは崩壊しているだろう。

「アステー。どこだー?」
 いつもアステリオスと一緒にいるはずのアステがいなくなった。いつものことなのでそんなに大事にはしないが、さっきから探し回っているのだが見つからない。
 アステリオスは宮殿の外を見に行ってくれている。見つかるのは時間の問題だろう。
 しかし、アステは見つからなかった。宮殿内にも、街の中にもいなかった。
 俺は嫌な予感がいた。
 もしかしたらアステは誘拐されてしまったのかもしれない。いつものようにアステリオスのところに行こうとしたその間に何者かがアステを攫った……
 そう考えた俺は街に兵士を送り、家の中まで隈なく探すように命じた。
 街の人にアステの姿を見ていないか聞いて回る。
 すると一つの情報を得た。
 街に見慣れない人物が複数いたとのことだ。全員同じ黒い布を被り、人目から避けるように動いていたと。
 やはりこの国に恨みを持った者が入っていたのか。
 俺はクレタ島中を探すように命じた。ソラウにもそのことを伝えた。
「アステ……アステ……どこに行ったの……?」
 アリアドネーが大粒の涙を流している。今までの元気な姿が一変して自分の部屋に引きこもったままだ。
 俺はその背中をさすって慰めることしか出来なかった。
「あすてー……あすてー……ぼく、さびしいよ……」
 アステリオスも涙を流しながらアステのことを心配している。俺よりこいつの方が心配しているのではないかと思ってしまうぐらいだ。
 俺はソラウや兵士たちの情報を待っていた。俺自身が探しに行きたいのだが、俺はクレタの王としての立場がある。簡単には動けない。
 そしてアステがいなくなって三日が経った時、兵士の一人が急いで俺の前に現れた。
 見慣れぬ船が一隻、クレタから出て行ったと。
 アステはこの国の奴に攫われたのではない。他国の者によって攫われてしまったのだ。
 これはこの国に宣戦布告をしていることと同じだ。
 俺は怒りが頂点に達した。怒りが頂点に達した時に頭の何かが切れる音がした。
 アステリオスを連れて俺は港に行った。
 船は猟師たちから一番いいのを貸してもらい、数十人の兵士を連れてクレタを出航した。
 クレタに一番近いところはペイライエウス。俺が前に住んでいたアテ―ナイの外港都市だ
 そこに着き、アテ―ナイに行けば父上もアステを探す手伝いをしてくれるはずだ。
 俺たちを乗せた船は全速力で海の上を進んでいた。
 しかし、途中嵐が起き、そのせいで仲間の兵士を数人失ってしまった。それにペイライエウスの航路からずいぶん外れてしまったようだ。
 少しばかり時間はかかってしまったがペイライエウスに着いた。
 船を港に着け、俺たちは船を下りた。何の連絡もなしにクレタの船を着けたことでペイライエウスの人々は困惑しているようだ。
 事情を説明し、アテ―ナイに向かった。
 アテ―ナイに着き、俺は父上の元に行った。
「父上!」
「どうしたのだ、テーセウスよ。そんなに急いで」
「大変なことが起きました!息子が……息子が……」
「……詳しく話せ」
 俺はアステが何者かに誘拐されたことを父上に言った。
 父上は難しい顔をして何かを考えている。
「……確かにそのような行いは宣戦布告につながる。しかし、どの国の者かもわからずにこのままあても無く探し続けるのか?」
「ですから、父上のお力を貸してほしいのです。……この通り……」
 俺は膝をついて頭を下げようとした。だが、それを止められた。父上ではなく後ろにいた兵士に。
「テーセウス王。あなたはクレタの王です。簡単に頭を下げないでください。アテ―ナイはクレタの支配下にあると聞いています。下の者に頭を下げるなど……」
「しかし、こうするしか……!」
 それを父上は黙って見ていた。気のせいだろうか、その口は笑っていた。
「どうした、続きは?」
 父上が急かす。
「ッ!……この通り……」
 兵士たちの手を振りほどき、俺は床に額をつけた。
 命令ではなく完璧なお願い。一国の王が格下の相手に頭を下げるほどのお願い。
「ふむ……やはりお前はまだまだ子供だったようだな。父親に助けを求めるなど、王になってからも続くのか。良いだろう、他ならぬ一人息子の為だ。力を貸してやる」
 その言葉を待っていた。
 俺は頭を上げ、父上に感謝の言葉を言おうとして顔を見ようとした。だが。
「まだ頭を上げるな。力は貸してやると言ったが、それはこの国だけでだ。この国の外で起きたことには我らは一切手を貸さん。国外はお前たちだけで行け」
 信じていたはずの父上に裏切られたような気分だった。
 アテ―ナイ内だけ力を貸し、それ以外は俺たちの手で見つけ出せと言ったのだ。孫であるアステのことが心配ではないのか……?
 下を向いたまま不満を我慢していた。
 後ろにいる兵士たちも同じ気持ちだろう。自分たちの王が頭を下げた願いを半分断っているようなものだからだ。

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