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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第32話 一騎打ち

 そんな日々が数か月続いた頃だろうか。
 ある街で反乱が起きた。国王候補だった一人の貴族が俺が王になったことに激怒し、街に攻めてきたのだ。
 いつかはこんな日が来るとは思っていたが、王になって一年も経たずに反乱とは。嫌になる。
 俺はその情報を知ると街の国民を避難させた。年寄り、女子供は先に逃がし、力がある男は街に留まって衛兵と共に迎撃の準備をさせた。
アステリオスは最後の手段として宮殿内にいさせた。
 この戦いは殺し合いじゃない。相手を殺してはいけないのだ。同じ国民同士、争ってはいけない。アステリオスが戦いに参加してしまうと間違いなく死者が出る。
 しかし、相手は俺たちを殺す気だろう。王として出来れば被害は最小限に食い止めたい。そんな甘い考えがどこまで通用するかわからない。
 翌日、ついに相手側の姿が見えた。鎧を被り、剣や槍、盾を持っている。その数は一万にも満たないだろう。数が少ないのは助かった。
 街の出入り口を完全に閉め、相手が来るのを待った。
 そして戦いが始まった。
 相手の兵士たちが走ってこちらに来る。最初に弓を使った攻撃が襲って来た。
 矢の雨が降り注ぐ。だが、その対策は完璧だ。街にいる者には盾を持たせている。持っていない者は物陰に隠れさせている。
 矢が地面に突き刺さり、出入り口に歩兵が攻めてくる。
 歩兵の勢いはすさまじく、封鎖しておいた出入り口が簡単に突破されそうだ。
 衛兵たちに出入り口から離れるように指示を送り、街の中心まで下がらした。
 門が突破され、ついに相手の兵士が街の中に入って来た。
 ここから先は持久戦だ。どれだけ長く持ちこたえることが出来るか勝負だ。
 兵士たちの斬り合いが始まる。
 鉄が弾かれる音、兵士が倒れる音、叫び声。様々な音が響いてくる。
 こちらの兵士は訓練のお蔭で相手の三倍以上の働きをしてくれる。相手を殺しはしない。動けないように足を狙うか、気絶させている。
 しかし、残っていた街の男どもは斬られ、突かれ、殺されていく。
 血が流れ、死体が地面に転がる。それでも戦いは終わらない。
 数時間が経っても戦いは終わらない。それどころかひどくなっていく。
 兵士を後退させたと思いきや、持っていた槍を投げてくる。槍が鎧を貫通し、兵士が倒れる。
 仲間の死体を放っておいて飛んでくる槍から回避させた。
 その間に敵はまた攻めてくる。槍や矢が飛んできているのにお構いなしに突っ込んでくる。
 守りながら戦う。
 まだだ。まだ大丈夫だ。
 敵の戦力を半分ほど削ったところで敵はまた後退していった。
 後退していく敵の中を一人の男が馬に乗ってゆっくりと進んでくる。敵の将だろうか。
 味方はそれを誰も攻撃しない。
 何故ならその男はまさに王としての素質がある者だったからだ。
 馬で街の中心まで来ると止まった。
「我が名はソラウ!クレタ国の王、テーセウスよ!私と一対一の決闘をしろ!」
 ソラウと名乗ったその男は俺に決闘を申し込んできた。
 王として、一対一の戦いはしてはならない。負ければ敗北、国が崩壊するからだ。
 だが、俺は一人の男として、英雄としてその挑戦を受けるつもりだった。
 アリアドネーが俺の服を引っ張り、行かないでくれと言う。
「俺は負けない。この国の為にも、お前の為にも、俺は負けない。必ず勝ってみせる」
 俺はアリアドネーの手を振りほどき、ソラウの元に行った。
 戦いの舞台は街の中心。俺たちを囲むように敵見方が固まっている。
 味方から鎧を着せてもらい、武器として剣、防具として盾を持った。相手も同じ様な恰好をしている。
 お互い一定の距離まで近づき、剣を前に出して重ねた。
 鉄の響く音がする。それが決闘の合図だった。
 剣で相手の剣を弾こうとするが相手もなかなかの怪力の持ち主のようだ。簡単にはいかない。
 剣同士がぶつかる。その余波で地面の砂が舞う。
 盾で防御するが、その衝撃は殺しきれない。衝撃が俺の体をすり抜け、ふらつかせる。
 同じように相手の盾に向かって渾身の力を込め、剣で攻撃する。剣が盾にめり込み、盾に凹みをつける。
 それを何度も繰り返していた。
 勝負がつかない。俺とソラウはほぼ互角の戦いだった。
 剣が刃こぼれしてきた。盾も凹み過ぎてもはや盾としての機能を果たしていない。
 俺は盾を捨てて、剣を両手で握り、相手の盾に向かって剣を振り下ろした。
 剣が盾の凹みに入り、ソラウの盾が割れる。
 これでお互い守るものは鎧だけになった。
 両手で握った剣同士が激しくぶつかりあう。もう剣がいつ壊れてもおかしくない。
 それでも攻撃は止まらない。止められない。
 相手は疲れてきたのか剣の重みが軽くなる。だが、それはこちらも同じだった。
 これだけ長い闘いをしたのは初めてかもしれない。それほど俺たちの勝負は長引いていた。
 俺は相手の剣を破壊しようと右手で剣を持ち、空いた左手で拳をふるった。
 剣を破壊されることを恐れたソラウは剣をぶつけるのを止め、後ろに下がる。
「ハァ……ハァ……」
「ハァ……ハァ……」
 汗が流れる。汗が目に入って視界が悪くなる。
 その隙を狙ってソラウは攻撃してきた。剣ではなく拳で挑んできた。
 拳が俺の横腹に当たる。衝撃が突き抜け、鎧が凹む。
 一瞬の隙をついたソラウは剣を持ったもう片方の手で俺の首元を狙って来た。
 それを寸前で避け、距離をとる。
 腹への一撃がかなり効いた。呼吸がしにくい。
 勝ち誇ったように剣を両手で振り回し、最後の構えをとった。
 周りから見ればソラウの方が優勢に見えるだろう。
 だが俺はクレタ国国王テーセウス!ここで負けるわけにはいかない。
 俺は呼吸を整え、両手で剣を持ち、上に構える。
 次の一手で勝敗が決まる。両方、固まったまま動かない。
 緊張した空気が流れる。どこで動くか、何を合図で動くかわからない。ただその時が来るまで待つ。
 後ろからドスドスと大きな足音が立つ。アステリオスが遅れて来たのだ。
「てーせうす!」
 その声を合図に俺たちは同時に動いた。
 縦と横の剣戟。一瞬のことだった。
「バキン!」
 剣が折れた。
 折れたのはソラウの方だった。折れた剣が空中を舞い、地面に転がる。
 勝敗はついた。勝ったのは俺だ。
「……私の負けだ。殺せ」
 そう言って鎧を脱ぎ、首を差し出す。
 だが俺は剣を捨て、鎧を脱いだ。こいつを殺すつもりはない。
「……何故剣を捨てる?何故私を殺さない?王に反逆したものが負けたと言うことはそれは死を意味する。私は死んで当然の人間だ」
「俺はお前を殺さない。前にこんな話を俺にした奴がいた。『命は皆平等にある。それを奪うことなど誰であろうと簡単にしてはならん』てな。人は簡単に死んではいけない。必ず自分のことを思ってくれている奴がいる。俺には妻であるアリアドネーと友のアステリオスがいる。そいつらの為にも俺は絶対に死なない。それにな、ソラウよ」
 俺はソラウの前に手を差し出した。
「お前のその力が気に入った。お前をこんなところで殺すのは惜しい。だから、死の代わりにお前にこう言おう。俺に仕えよ。俺の手足となって活躍しろ」
「私を……お前の手足になれ……だと?フフ……ハハハハハハハハ!」
 ソラウは顔を上げて大笑いした。
 俺の手を掴み、立ち上がった。
「いいだろう!私も、お前のような男が気に入った!この体、お前の……いや、あなたの手足となりましょう。我が体、我が剣、存分にお使いください」
 周りにいた兵士たちから歓声があがった。
 誰も悔しがっている奴はいない。この戦が終わったことを喜んでいる。
 この戦はソラウが敗北し、ソラウが俺に仕えると言うことで終わった。
 この戦いで死んだ者は大勢いた。その大半が俺の兵士たちだった。ソラウ側の兵士はほとんど死んでいない。皆、俺の言う事を忠実に守った。その忠誠心、俺は忘れない。
 死んだ者を丁重に運び、家族の元に送った。中には家族を持たない天涯孤独の奴もいた。
 家族の元に帰った兵士たちの顔は死んだ時とは変わって何だか嬉しそうな顔だった。
 街から外れた墓地に一人一人全員丁寧に埋葬し、墓標を立てた。兵士たちを埋める作業はアステリオスが積極的にやってきれた。
 生き残った俺たちはそいつらに向かって敬礼し、去った。
 ソラウたちを自分たちの街に帰し、俺は再び王の座についた。
 これでまた前と同じような暮らしが出来る。それを知ったアリアドネーは俺に抱き着いて大泣きした。人目があるにも関わらず。アステリオスはそれを見てニヤついていたので太ももに蹴りを食らわせてやった。
 王の座に戻ってすぐにソラウに厳しい罰を与えるべきだと言う意見が出てきた。王に反逆したものは死罪が適切だと。だが俺はソラウを自分の手足になれと言ったのでそんな意見は無視してやった。不満そうな顔をしていたが、王の言う事は絶対だ。誰も逆らえない。
 ソラウはにはクレタの東半分の統治を任せた。あの男のことだ、自分で言ったことは絶対に曲げないだろう。あいつと戦ってわかったことだ。あいつの剣は正直だった。だから俺はあいつを信用することにした。

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