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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第30話 次の王

 王の死はすぐに国中に知らされた。
 悲しむ者は大勢いた。クレタの国民にとって、ミーノース王はまさに理想の王だったからだ。
 しばらくの間、王の死を悲しんでいた俺たちは国民が回復した頃を見計らって王の遺体を豪華な棺桶に入れ、街の中を進んでいた。運んでいたのはアステリオス自身だった。
 周りにいる国民は王に別れを告げ、涙を流しながら見送った。
 そして王の遺体は海に流された。王がいつか、海の向こうの理想郷に辿りつけるように。
 波によって流され、少しずつ遠くなる棺桶を俺たちは黙ってみていた。アリアドネーは大粒の涙を流し、悲しんでいた。アステリオスは泣かなかったが、拳を強く握りしめ、王を見守っていた。
 そして王の遺体は海の彼方へと消えていった。
 悲しみに覆われたクレタ。その国を次に治めるのはアリアドネーだった。
 アリアドネーは悲しみを乗り越え、国を治める準備をしていた。
 その間、アステリオスとアリアドネーは顔を合わすことがなかった。どちらが先に産まれたのかはわからないが、二人しかいない家族なのだ。顔を合わせればいいのに。
 だが、アステリオスは気が付くと王を見送った海岸にいた。その向こうの景色を見ているのか、王が無事に理想郷に辿り着いたか確認しているのか、どちらかはわからない。
 よく考えてみるとミノタウロスの意味はミーノース王の牛と言う意味だ。こんな簡単なこと、もっと早くに気付けばよかった。あの二人が親子だと知っていれば、俺はアステリオスをクレタに置いていたのに。
 後で聞いた話なのだが、宮殿に仕えていた名工ダイダロスはこのことを全て知っていたのだと言う。ミーノース王がクレタの王になる為に海神ポセイドンと約束をし、王になったのだがミーノース王はその約束を破り、怒ったポセイドンが王の妻であるパーシパエーに呪いをかけ、アステリオスが産まれたのだと。
 アステリオスは小さい頃は大丈夫だったのだが、成長するにつれて凶暴化し、手に負えなくなったので仕方なくラビリンスに封じたと。そのラビリンスを作ったのは他の誰でもない、ダイダロスだ。
 ダイダロスはアリアドネーにそのことを伝え、何かを忘れるかのように武器を作りに入ってしまった。
 王の死から数日が経ち、アリアドネーが王になる日が来た。
 宮殿の前に立ち、豪華な服や装飾品を着て、いかにも王らしい姿をしている。その姿を見に来た国民たちは祝うように騒いでいる。
 そしてアリアドネーの演説が始まった。
「父、ミーノースが死に、残された私は一人だと思いました。母であるパーシパエーは私が小さい頃に亡くなり、もうほとんど記憶はありません。
 そんな深い悲しみに落ちた私は泣いていました。もう自分に家族はいない、子を産むまで私は孤独だと。
 ですが、父の最期の言葉を聞き、私にはもう一人家族がいることを知りました。その人は父ミーノースが王になる為にポセイドンと約束を交わしたのに、それを破ったことで怪物として産まれました。
 小さい頃にダイダロスが作った迷宮、ラビリンスに閉じ込められ、何年もそこで過ごしたと聞いています。そこでの暮らしは私たちが考えているよりずっと残酷で悲しいものだったでしょう。
 そんな彼はアテ―ナイの英雄、テーセウス様によって救われました。皆さんもご存じでしょう。
 怪物と言われ、恐れられたミノタウロス……いやアステリオスは私のたった一人の家族です。彼と共に、私はこのクレタをより豊かに、強くすることをここに宣言します」
 その言葉を終えた瞬間、国民たちから最大の歓喜の声があがった。俺は衛兵の中に混じってアリアドネーに向かって拍手している。だが、肝心のアステリオスはここにはいない。今もあの海岸で王を見守っている。
 演説を終えたアリアドネーは宮殿の中に戻り、宮殿内で正式な戴冠式を行った。それには俺の父上も参加をした。
 王の椅子に座ったアリアドネーの目は強く輝いていた。あの演説のように、これからこのクレタを強くするのだ。
 王となったからにはか弱い娘の感情を押し殺さねばならない。夫となる次の王が来るまで。

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