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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第29話 我が息子よ

 勇敢に戦った俺たちを称えようと国民たちが騒いでいる。
 だが、このざまだ。俺たちは大きな損害を受けた。仲間は殺され、血は失った。残った血ではクレタの国民全員を救うことは出来ない。
 残った血で可能な限り薬草を作った。でも、足りない。
 落ち込んでいるとアステリオスが目を覚ました。
「……てーせうす、どうかした?」
 悔しそうな顔をしている俺が心配なのだろう。
 俺は大丈夫と言って誤魔化した。
 出来た薬草を持って、俺とアステリオスは再びクレタ島に向かった。
 航海中は安全に行くことができ、何も失わずに行けた。
 そしてクレタに着いた。
 真っ先に宮殿のミーノース王の元に向かった。
 側近に病に効く薬草を持って来たと話すと、すぐにミーノース王の寝室に行かされた。そこではミーノース王はほとんど動かず、微かな呼吸をしているだけだった。
「王!薬を持ってきました!これを飲めば助かります!さあ、早く!」
「……余より先に民に飲ませよ……民とアリアドネーを治してから飲む」
 ミーノース王の言葉は小さく、聞き取るのに苦労した。
「何を言っているのですか!先に飲むべきは王です!あなたが元気にならなければ民も信用できません!」
「その薬は限られているのだろう……?こんな役立たずの王が飲む薬などない。良いか、これは命令だ。先に民とアリアドネーを治せ」
「王……」
 ミーノース王の意思は固く、断固として薬を飲まなかった。
 王の言葉通り、別の部屋に眠っているアリアドネーに薬を飲まし、残った分を可能な限り民に配った。
 やはり、持って来た分だけでは国民全員は救えなかった。国民の二割が薬を飲めずに死んでしまった。
 ミーノース王にそのことは伝えることは出来ず、民全員に配って来たと嘘をついた。王はその言葉を聞くと、固まっていた顔が和らいだ。
「……そうか。これでクレタは大丈夫だ。よかった」
「ですが、王……。あなたの分は……」
「わかっておる。これも運命だろう。余はここで死ぬ。余の代わりに民とアリアドネーが救われただけでも釣りが返って来る。……アステリオスはここにいるか?」
 ずっと横でミーノース王を見ていたアステリオスのことを呼んだ。王はもう目が見えていないのだ。
 アステリオスがミーノース王の手を握る。
「ああ……やはりお前の手は暖かいな……。アステリオス……本当にすまなかった……小さいお前をダイダロスに命じてラビリンスの中に閉じ込めてしまって……」
 王の言葉がだんだん小さくなっていく。王はもう間もなく死ぬ。
 アステリオスの顔を見ようと瞼を開くが、その瞳には光が宿っていない。
「最期にお前の顔が見たかったのだが、最後の願いも叶わぬか……。これは罰だろうか。……アステリオス、小さい頃の記憶はあるか?」
 王は最期の時までアステリオスのことが心配なのだろうか。アステリオスの方に顔を向けて聞く。
「うん。ほとんどおぼえていないけどぼくのあたまをなでてくれたおかあさんとそれをわらってみていたおとうさんのかおはおぼえているよ。ふたりともしあわせそうだった」
 アステリオスが答える。何でそんなことを聞くのかわかっていないようだった。周りにいた俺たちもわかっていなかった。
「最後に……余のことをまた父と呼んでくれ……我が息子よ……」
 今、王は何て言ったのだ?
 息子?アステリオスが息子だと?
 そんなことは誰も知らなかった。周りにいた誰もがその言葉に驚いて目を見開いていた。 
 だが、アステリオスだけは動じなかった。そのことを知っていたように。。
「やっぱりおとうさんだったんだね。かおがよくにていた。おとうさん、ぼくはおとうさんのことをうらんでなんかいないよ。あのどうくつにいたおかげでぼくはともだちができた。たのしいおもいでがいっぱいできた。いろんなことをしった。かいぶつとしてじゃなくにんげんとしてあつかってくれた。もんくはないよ、おとうさん」
「それを聞いて安心した……。最期にお前の言葉が聞けて良かったぞ……。さらばだ……我が永遠の息子よ……」
 そしてミーノース王は静かに息を引き取った。
 王の手をアステリオスはいつまでも、いつまでも握りしめていた。

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