話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第28話 魔猪との戦闘

 三日経ち、一部の捜索隊が戻って来た。
 魔猪の目撃情報を入手したのだ。話を聞く限り、その魔猪はとても体が大きく、まるで怪物のようだったと。
 怪物退治なら俺の出番だ。
 アステリオスを寝かせたまま俺は戻って来た捜索隊と一緒にその目撃情報があった場所に向かった。
 アテ―ナイから北の方角。森の中にその魔猪はいるらしい。
 走っても良かったが、魔猪の血を持って帰る為に、捜索隊はツボを持っていた。走って壊れたらどうしようもない。歩いて向かうことにした。
 二日が経ち、その件の森を見つけた。
 その森はアテ―ナイの近辺にある森とは違い、木が高く伸び、もはや森とは呼べないかった。ほとんど山のようだった。
 この中から魔猪を見つけるのは苦労しそうだ。
 捜索隊に慎重に行動しろと言い、森の中を進んでいた。
 ……静かだ。動物の気配がない。鳥や鹿、猪がいない。虫もいない。あるのは静寂だけだ。
 迷わないように目印を付けて進んでいた。
 森の中を随分進んでいた時、遠くから木が倒れる音がした。
 あそこに魔猪がいる。そう思った。
 俺は一人で先に行き、後から来るようにと捜索隊に言った。
 木が倒れる音、何かが地面を踏む音。近い。もうすぐそこだろう。
 持って来た槍を構え、前に進む。
 そして見つけた。
 遠くからでもわかる。周りに生えている木よりデカい。普通の猪ではないことは一目でわかった。あれが魔猪だ。
 走って前に進むが、進むにつれてそのデカさがわかってきた。
「……うそだろ?」
 その体は木よりデカいものではない。いや、ここに生えている木が高すぎたんだ。そのせいで目測を誤った。
 魔猪の体は三メートル近いアステリオスの体を縦に真っ直ぐに並べて三、四人分ぐらいある。
 俺のような小さな体では蟻が牛に勝負を挑むようなものだった。だが、こいつの血を奪わなければクレタは滅びる。
 後ろを向いているお蔭でこちらには気づいていない。先に仕留める!
 俺は高く飛び、尻の部分であろう場所に槍を突き刺した。
 だが、その体毛は固く、鉄で出来た槍の先を弾き飛ばした。それに気づいた魔猪がこちらを振り向く。
 目はアステリオスより赤く、どす黒く、まるで深紅の血のようだった。牙は何物にも砕かれないような頑丈そうで、デカい。俺の体と同じぐらいだ。
 涎を垂らしながら俺を見つめる。槍一本でこいつを仕留められることが出来るだろうか。
 手に持つ槍が震える。俺は初めて恐怖を覚えた。
「ブモオオオオオオオオオ!」
 魔猪の咆哮が俺に向かって飛んでくる。これだけでも吹き飛ばされそうだ。
 槍を地面に突き刺し、何とか耐える。
 その間に魔猪は口を横に開き、周りの木ごと俺を食おうとした。
 間一髪かわすことが出来たが、周りの木は魔猪の口のデカさの分だけ削られ、次々と木が倒れていく。
 食べた木をムシャムシャと食べてまた俺を狙う。
 かわす、かわす、かわす、かわす。
 周りの木が全部無くなってやっとこいつの全体が見えた。
 全身固い体毛で覆われている。これでは槍は効かない。ならば、狙うとしたら目だ。目を突けば視力を失い、少しは戦いやすくなるだろう。
 隙を窺って目を狙う。
 だが、そうやすやすと狙わせてくれないようだ。よほど腹が減っていたのか、俺を食おうと必死に口を開けて俺を襲う。
 縦に口を開けてくれれば横に回避出来るが、横に口を開かれると後ろしか逃げ場がない。
 そうこうしている間に捜索隊がやって来た。
 捜索隊は魔猪のあまりのデカさに戦意喪失していた。
 ツボを大事に持って遠くに逃げていろと言って捜索隊を逃がす。
 こいつは後で捜索隊と食べるつもりなのか、俺ばかり狙ってくる。
 何度も攻撃を回避しているとやっと最大の隙を見せてくれた。口を縦に開き、俺に向かって突進してくる。
 俺は右に回避し、魔猪の左目に槍を刺した。
「ブモオオオオオオオ!」
 魔猪は痛みで頭を振り回す。槍を突き刺したままの俺はそれに振り回される。
 槍を手放す訳にはいかない。あともう一つ、右目を狙うまでは。
 槍を引き抜き、魔猪から距離をとった。痛みで暴れている内は手が出せない。痛みに慣れるまで魔猪から一定の距離を保った。
 痛みに慣れた魔猪はついに本気になったのか、口を開けたまま突進してきた。
 それをかわすが、服が牙に引っかかり、俺は魔猪に引っ張られ森の中を一緒に突撃していった。
 木がなぎ倒される。幸いにも捜索隊の近くには行っていないようだ。
 近くに来た木にしがみつき、魔猪から逃れる。
 俺が離れたことを知った魔猪は片目で俺を探している。
 その隙に俺は右目に向かって思いっきり飛び、そして刺した。
 また痛みで暴れる。その力に負けず、槍を目の奥に突き刺す。目の奥、脳を破壊しないとこいつは倒せない。
 槍をねじり、あともう少しと言うところで俺は槍から手を離してしまった。
 吹き飛ばされ、遠くの木に体を強く打ち付けた。背骨がきしみ、内臓を少し痛めてしまったのだろうか。口から血を吐いた。
 魔猪は視力を失い、手当たり次第に暴れる。木に突撃したり、体を地面に叩きつけたりしている。
 俺は気力を振り絞って立ち上がる。残っているのは短剣のみ。これで仕留められなければ俺は死ぬ。
 あとはどこを狙うか決めていた。
 走り、魔猪の口の中に入る。涎で簡単に内臓に辿り着いた。ここは胃だな。早くしなければ胃酸で俺が溶かされてしまう。
 短剣を胃の壁に突き刺し、斬り、血を吹き出させる。
 内臓を攻撃されたことで魔猪はさらに暴れ、俺は胃の壁に叩きつけられる。
 胃を攻撃したぐらいではこいつは死なないだろう。俺の目的は胃をめちゃめちゃにすることではない。
 もっと奥へ。短剣で肉を裂き、もっと奥へ。
 体が血にまみれ、ようやく見つけた。
 魔猪の心臓だ。こいつの体と同じようにデカい。それに周りと違って鼓動を強く打っている。
 心臓を短剣で突き刺す。
 勢いよく血が噴き出す。目に血が入るが、それでも俺は短剣をねじり込む。
 動きが鈍くなり、そしてやっと心臓と魔猪の動きが止まった。
 裂いてきた道を戻り、魔猪の口から外に出る。
 ……終わった。魔猪を殺した。
 疲れで地面に手をつく。息が荒い。かなり体力を消耗していたようだ。もう足も手も動かない。
 最後の力を振り絞って大声を出し捜索隊を呼ぶ。力尽きて地面に倒れた。
 中々来なかったが、しばらくして捜索隊が来た。
 魔猪のデカさに圧倒されて口を大きく開けている。そんなことより早くこいつの血を……
 ダメだ。もう声も出ない。あとはこいつらに任せよう。
 捜索隊の一人に肩を貸してもらい、木のそばで休ませてもらった。
 魔猪の目や、口からツボに血を流し込む。持って来たツボが足りなくなるぐらいこいつからは大量の血が取れた。これだけあればクレタの国民全員を助けられるだろう。
 帰ろうとした時、地面が揺れる感じがした。俺の勘違いじゃない。捜索隊の奴らも何かの気配を感じ取ってうろたえている。
 そうだ。これほどデカい猪なのだ。もしかしたらこいつは……
 地面が揺れる力が強くなってくる。
 嫌な感じは当たっていた。
 森の奥からもう一匹、別の魔猪が現れた。
 こいつらは夫婦だったのだ。つがいを殺されてもう一匹がすさまじい勢いで怒っている。
 俺たちは走った。こいつから逃げる為に。
 しかし、魔猪の速さは俺たちが走る速度より速い。
 捜索隊の何人かは魔猪の突進で吹き飛ばされた。持っていた血が詰まったツボも一緒に吹き飛び、地面に叩きつけられた。
 必死に逃げるが、それでも俺たちを許さないのだろう。次々に捜索隊が殺されていく。
 命からがら逃げきった時には二十はいた捜索隊がもう五名になっていた。もちろん、大量にあったツボもほとんど失ってしまった。
 歩いて、歩いて、アテ―ナイに着いた。

「英雄アステリオス」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く