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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第22話 アステリオスの豹変

「てーせうすに……あのいぬたちにひどいことを……ゆるさない。ゆるさない」
 体に刺さった短剣を引き抜き、地面に捨てる。流れ出ている血も止まった。
「ぼくは……ぼくは……おまえたちをゆるさない……!」
 怒りが頂点にまで達したのだろうか。アステリオスの目は赤く光っていた。
 アステリオスの頭の周りが歪んでいる。目の錯覚だろうか。
 無事な右手で目を擦ると、アステリオスの頭は……牛そのものに変わっていた。
 それに怯えた盗賊たちは腰を抜かして動かない。
 近くにあった大きい木を両手でつかみ、それを怪力で引き抜いた。
 大木が周りの木の葉を散らしながらゆっくりと地面と水平になる。
「うおおおおおおおおお!」
 抱きかかえた大木を横に振り回し、木が砕ける。
 一回転すると周りにあった木は全て根本から粉々に砕けていた。
「ひ、ひいいいいいい!」
 盗賊たちは腰を抜かしていたので直撃は免れたようだ。
「ゆるさない……ゆるさない……」
 目の前にいた盗賊の首を掴み、持ち上げる。
「助けてくれ!助けてくれ!」
「ゆるさない……ゆるさない……」
 俺はアステリオスが何をしようしているのか直感でわかった。
「アステリオス、止めろ!止めてくれ!」
 アステリオスは盗賊の頭を握ると、それを握り潰した。
 盗賊の体から流れた血がアステリオスの手を染める。
 それだけでは満足しなかったのか、今度は胴体を握るとまるで雑巾のようにねじ切った。
 内臓が体から出てきて辺りに散らばる。
 無残な姿になった盗賊の体を投げ捨てると次の標的を定め、ゆっくりと近づいた。
 ダメだ、これ以上アステリオスを人殺しさせてはいけない!
 これでは……アステリオスはあの怪物ミノタウロスになってしまう。
 俺は短剣を必死に抜こうとした。だが、動くのはほんの少しでしかなかった。
「お前ら、逃げろ!」
 さっきまでの怒りはどこにいったのか、俺は盗賊たちの心配をしていた。
 盗賊たちは血に染まったアステリオスの体を見て歯をがちがち言わせて震えている。
「こ、ここここんなかいぶつ、きいいてねえぞぞ!」
 また一人、盗賊の体を掴み、今度はその体を伸ばすように引っ張った。プロクルーステースと同じやり方だ。
 体の肉がだんだん千切れる音がする。関節が外れる音がする。
 その盗賊は声にならない声で悲鳴をあげているが、それが最後の声になってしまった。
 体が千切れ、小腸が伸びている。血が噴き出し、アステリオスの牛の頭を血で赤く染める。
 それでもその盗賊はまだ生きていた。
 か……か……と何の声かもわからない声を出していた。その盗賊の上半身をアステリオスは口に近づけて、そして食べた。
 バキバキ、ブシュッ、ブチブチ。
骨が砕ける音、血が噴き出す音、肉が裂ける音がする。
 それを丁寧に味わうようにゆっくりと噛んでいる。
 やっと短剣を引き抜けた俺はアステリオスに向かって突進し、体に抱き着いた。
「アステリオス、止めろ!お前は……怪物になってしまうぞ!」
「ゆるさない……ゆるさない……」
 怒りの声を漏らして俺の声が聞こえていない。
 このままでは俺はこいつを殺さなくてはいけなくなる。それは嫌だ、絶対に嫌だ。
 何とかアステリオスを鎮めようと力で抑えつけようとしたが、力はアステリオスの方が強い。全然歯が立たなかった。
 仕方がない。
「アステリオス……すまん」
 俺はアステリオスの体に引き抜いた短剣を突き刺した。
 だが、それでも止まらなかった。アステリオスは盗賊の体を食うのを止めない。
 俺は何度も刺した、急所を外して刺した。
 短剣を突き刺した俺を見て、アステリオスは腕で俺を吹き飛ばした。
 体が根本から砕けた木の破片に刺さる。
 痛かったが、それでも俺はアステリオスに向かった。
 体によじ登り、頭に向かって頭突きを食らわせた。
 俺の額が割れ、血が流れる。
 だが、ようやくアステリオスはその動きを止めた。脳に振動が伝わったのか、膝をついた。
 アステリオスの頭の周りがまた揺らめぎ、元の頭に戻る。
「あれ……ぼく、は……?」
 正気に戻った。
「よかった、アステリオス。元に戻ってくれたな」
「てーせうす、だいじょ……このて、どうしたの?」
 自分の手を見つめて、理解が追いついていないようだ。口から流れる血を拭い、それを確認する。
「ぼく……ぼく……うわああああああああ!」
 悲鳴を上げて倒れる。自分の頭を抑え込むようにして倒れる。そして頭を地面に何度も何度も叩きつける。
 俺はそれを止められなかった。止めることが出来なかった。
「ぼくは!ぼくは!ころしてしまった!ひとを!ころしてしまったんだ!」
 懺悔のような声を出し、頭を叩きつける。その振動で地面が揺れる。
 盗賊たちは気を失っているのか、倒れて動かない。
 俺はただ見ているだけしか出来なかった。

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