話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第12話 疑い

 静かな航海をし、数日かけて俺たちは、俺は自分の国のアテ―ナイに戻った。
 遠くからでもわかった。国民たちが俺たちが帰って来たことを歓迎している。
 船を港に着けると、手を振っていた国民たちの中から一人の男が走って来た。
「テーセウス!」
 その声は、俺の父上だった。
「父上!」
 俺は走って来た父上と抱き合った。その力はすさまじく強い。そんなにも俺のことが心配だったのだろう。
「この馬鹿者が!何故わしの言葉を聞かなかった!お前が船に乗り、クレタまで行ったとわかったときからわしはお前のことが心配で心配で……」
「父上、すみません。ですが、そのおかげでクレタは救われ、俺は初めて友人を持ちました」
 俺が手招きするとアステリオスが船から降りてきた。
 その姿を見た父上と国民はさっきまであんなに騒がしかったのに急に静まり返った。笑顔が恐怖の顔に変わったのだ。
 父上の口から言葉にならない小さな言葉が聞こえる。いくつか言葉を発した時、父上はこう言った。
「皆下がれ!怪物が……怪物が現れたぞ!」
 その声で国民たちはいっせいに逃げ出す。しかし、父上だけは逃げなかった。息子である俺を置いて逃げられなかったのだ。
「父上、ご心配なく。こいつはアステリオス。あの怪物であるミノタウロスですが、こいつは無害です。そして、俺の大切な友です」
「いや……しかし……!」
「よろしく。てーせうすのおとうさん」
 笑顔で父上を見た。
 その笑顔を見た父上は腰を抜かしてしまい、その場に座りこんでしまった。
 後から来た兵士たちに事情を説明したが、納得してもらえず、アステリオスは縄で縛られて宮殿に運ばれていった。
 俺は王の座に座った父上にもう抗議した。アステリオスは無害だ、人殺しはしないと。しかし、その言葉は聞いてくれなかった。
「お前は騙されておるのだ。怪物はあらゆる手を使って我々人間を騙し、そして殺す。それはお前が一番よくわかっているのではないのか?」
「でも、アステリオスのあの笑顔を見たでしょう!?あの笑顔が嘘だとでも!?」
「それが奴の手口なのだ。無垢な子供のような顔でお前を騙し、ミーノース王も騙し、クレタの国民を騙し、そしてこのアテ―ナイまで騙そうとしている。そんな奴を自由にしておけるか」
 何度言っても無駄だった。アステリオスは怪物、化け物。そうだと決めつけている。本当のあいつの姿を知らないからそう言えるんだ。自分より他人の心配をする。あいつはそう言う奴なんだ。今も牢の中で俺の心配をしているに違いない。
 俺は父上の前から姿を消し、アステリオスのところまで行った。
 だが、アステリオスの前には何人もの兵がおり、簡単には近づけなかった。
 王の命令だと嘘をついて接近してみたが、それもすぐにバレてしまった。
 俺は自分の部屋でどうやったらアステリオスをこの国に認めさせることが出来るか考えていた。
 父上を殺せば、消去法で俺が次の王になる。それでアステリオスを解放することも出来るだろう。
 しかし、父上を殺してアステリオスを解放した次はどうする?俺はまだまだ若い。国のことも何も知らない。そんな奴が次の王になってでもしたら、国は崩壊する。そうすれば国民は他国に奴隷として連れて行かれるだろう。それだけは避けたい。
 それか、アステリオスを誰の目に留まることもなく連れ出すか。だが、それは実質不可能だ。牢の前には兵士が何人もいる。そいつらを気絶させてアステリオスを解放し、外に連れ出してもあの体のデカさだ。必ずバレる。
 俺にはその二つ以外、考えられなかった。英雄と言われたこの俺が友一人救えない。なんて無様な話だ。笑えてくる。
 落ち込んだまま数日が経過した。
 その様子を見た父上が食事を持っていく時だけ、会ってもいいと言う許可をもらった。
 俺は時間になると急いで食事を持っていき、アステリオスが繋がれている牢の元に行った。
「アステリオス!」
「てーせうす……。ひさしぶり」
 その声はとても小さかった。
 見ると、アステリオスはまるで磔にされたような恰好で牢に繋がれていた。
 顔は痩せこけ、あんなにたくましかった腕や足が前より細くなっている。
 これは、今まで満足な食事を与えられていなかった証拠だ!
「アステリオス、飯だ!ほら、食え!」
 口に肉を近づけるが、アステリオスは食べようとしない。口を閉ざしたままだ。
「何で食わない!食わないと死ぬぞ!お前の大好きな果物もある!」
「たべないよ……。だってぼくはみんなにきらわれちゃったからね……」
「たとえこの国がお前を受け入れなくても俺がいるだろ!寂しくないだろ!」
「ありがとう……。でもぼくはかいぶつだから……しななくちゃいけないんだ」
 目を閉じて俺の方を見ない。
 俺は……俺は……
 俺はアステリオスの口を力任せで開かせ、無理矢理食事を口の中に押し込んだ。
 抵抗して吐き出そうとするが、次々と口に食べ物を入れられる為、中々吐き出せない。水も鼻をつまんで流し込んだ。
 アステリオスの体格から言ってこの量の食事では満足しない。でも、これ以上食事を要求すると父上が黙っていないだろう。
「アステリオス……すまない……」
「きにしないで……だってともだちだもの」
 友達……そうだ、俺たちはお互いの人生で最初の友達同士だ。その絆は固い。誰にも、何者でもこの絆を壊すことは出来ない。
 俺はアステリオスの牢から出て、早速父上に抗議しに行った。
「またか。何度言ったらわかる。お前は騙されているのだ。あのミノタウロスとか言う怪物ももうすぐ死ぬ。そうすればお前は騙されていたとわかるだろう」
「あいつは殺させない!たとえ我が身を変えてでもあいつは守る!友である俺が、あいつを守る!その為なら父上、あなたでも殺します!」
 俺は父上を鋭く睨みつけた。
 その眼と言葉に驚いたのか父上は真剣な顔つきになった。
「……しばし頭を冷やせ。衛兵、テーセウスを牢に繋いでおけ!」
 後ろから来た衛兵に体を抑えられて俺は牢に閉じ込められた。アステリオスとはかなり離れた牢にだ。
 俺の力ではこの牢は破壊出来ない。力が出ないように磔になって縛られているのだ。
 一人暗い牢の中、俺は自分の無力さを嘆いていた。

「英雄アステリオス」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く