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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第11話 心

 翌日、最悪なことにその日は雨だった。
「みずがそらからおちてくるなんてふしぎだね。のめるのかな?」
「飲めるぞ。雨水は飲み水として人々から重宝されているし、それに作物にもいい影響を与えてくれる。確か誰かが雨は海の水が蒸発して出来たやらなんやら言っていた気がするがよく覚えていない」
 アステリオスは初めての雨なようで喜んで雨の中ではしゃいでいる。はしゃぐのは良いが、そのおかげで船が揺れるのは勘弁してくれ。
 はしゃいでいたせいでアステリオスは足元を滑らせて船から落ちてしまった。
「アステリオス!」
 雨と空の様子で海の中が良く見えない。アステリオスが落ちたと思われるところを探してみるがアステリオスは浮いてこない。
 まさか、あいつ……。泳げないんじゃないのか……?
 俺は着ていた服を脱いで海に飛び込んだ。
 アステリオスの影は見えない。それほどまで深く沈んでしまったのだろうか。
 一旦海上の上に顔を出して息を吸い込んでいると。
「てーせうす!てーせうす!」
 アステリオスがもがきながら海上に出てきた。
「アステリオス!俺に捕まれ!おい、誰か!ロープを下ろしてくれ」
 雷が鳴ったせいで俺の声が聞こえていないのか誰もロープを下ろしてくれなかった。
 もがいているアステリオスを捕まえて俺は船に思いっきり指で突き、船の上に上がろうとした。だが、濡れているので力が入らず、すぐに海の中に逆戻りだ。
 アステリオスを捕まえている腕の力も限界だ。このままロープが下ろされなければ俺たちは海の藻屑になってしまう。
 その時、アステリオスが逆に俺を掴んで船の凹凸に指をかけた。
「お前!」
「しっかり、つかまってて!」
 片腕で俺を捕まえ、片腕と両足で船の側面を登っていく。濡れて力が入らないはずなのにその進みは順調だった。
 船の柵まで登ると俺は先に一人、甲板に上がり、そしてアステリオスを持ち上げた。
 何とか二人とも甲板に着き、息を切らしていた。その横で船員や生贄たちが何か嫌な目で俺たちを見ていたのに気づいた。
「お前たち!何で俺たちが海に落ちたのにロープか何か下ろしてくれなかったんだ!」
 俺は怒鳴った。俺の怒りはもう限界だった。危うく死にそうになったのだ。それなのに誰も俺たちを助けようとはしなかった。
 昨日まであんなに楽しそうに話し、一緒に行動していたのに、皆、顔を下に向けて口を開こうとはしなかった。誰一人、その場に立ち止まって、口を開く者はいなかった。
 雨の音と雷の音が海に響き渡る。俺の目の前に大きな指が現れた。
「てーせうす、ぶじでよかったね」
 前と変わらない笑顔で俺を見る。その目には皆が映っておらず、俺だけしか見ていない。
 アステリオスの手をどけて俺は立ち上がる。
 ぶつけようがない怒りを抑えるのに必死だった。握った拳に力が入りすぎて指が掌に食い込み血が流れる。
「てーせうす、ちがながれてるよ!いたいよ!」
 俺は何も言わず、アステリオスの手に両手を重ねた。
 こいつは自分のことより他人のことを心配する。俺には理由はわからないがそれが悲しかった。

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