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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第10話 見送り

 宮殿から出るとアステリオスはすぐに子供たちのところに向かった。デカい体を揺らして地面を踏む姿は巨人そのものだ。
 街の中心に行くとすぐに子供たちが集まって来た。
「ぼく、もうすぐしたらここをでなくちゃいけないみたい。だからあそべるのはこれがさいごかもしれないよ」
「えー!?そりゃないぜ!もっと遊ぼうぜ!ここから出て行くなよ、寂しいじゃんか!」
 子供の我が儘でアステリオスは少し戸惑っているみたいだ。街の民もアステリオスがいなくなると聞いて少し寂しそうな顔をした。
 こいつをこの国に置いておくのもいいが、何されるかわからん。それに王も何させるかわからない。一緒に連れて行くのが賢明だろう。
 子供たちと沢山遊び、沢山笑った。俺はそれを見ているだけで顔が微笑む。子供を持った気分だ。
 固い腕にしがみついてぶら下がり、頭によじ登ったりしておもちゃにされている。
「なー、アステリオス。この頭に生えているものなんだ?」
「それは、ぼくにもわからない。きがついたらあった」
「俺もアステリオスみたいなデカくて強い男になる!だからアステリオス、帰ってこいよ!」
「うん、必ず帰ってくる。もういちど、あそぶためにね」
 遊ぶのはいいが、そろそろ時間が来たようだ。
 俺は時間が来たと告げるとアステリオスは寂しそうな顔をして子供たちにさよならを言った。
 港に行く途中で、俺たちは民たちからお守りを貰った。島が近いとは言え、海は何があるかわからない。安全と思ってくれたのだ。
「それなに?」
「お守りと言うものだ。安全を願って想い人に渡すのが普通なんだが、この場合お前が皆に慕われているからってことだな」
 お守りを渡すとアステリオスは自分の腰布に付けた。確かにそこなら落としはしないだろうし、いつでも確認できる。
 あ、そうだ。こいつの服を作ってもらうのを忘れていた。いくら腰布で大事なところが隠れているとは言え、この季節だ。寒いだろう。帰ってきたら給仕か民に言っておこう。
 俺たちはどこから情報が漏れたのか皆の祝福を受けて港に着いた。
 港にはすでに生贄たちが大きな船に乗り込んでいた。俺たちが最後のようだ。
 船には俺が父上に言われた通り、黒い帆ではなく白い帆にしてある。
 船に乗り込もうとした時に遠くから走って来る女女性が見えた。それは俺がラビリンスに行く前に短剣と糸をくれたアリアドネーだった。
「テーセウス様!」
「アリアドネー!どうしたんだ!?」
 ここまで走って来るので体力をかなり消耗したのか、俺たちの近くに来た時には息を荒くしながら膝に手をついて呼吸を整えている。
「このひとは?」
「王の娘でアリアドネーと言う。しかし、アリアドネー。どうしたのだ?王の命令で俺と会うのは禁じられていたはずだが」
 呼吸が整ったアリアドネーは綺麗な髪を整えて俺たちの前に立った。
「お帰りになる前に一言言いたくてここまで来ました。お父様の罰は覚悟のうえです。アステリオス様、テーセウス様、またこの国にいらしてください。私はずっとこの国でお待ちしております」
 笑顔で見送りの言葉を言う。本当にこれだけを言う為に宮殿を抜け出してきたのか。この娘は馬鹿なのか、それとも……
「ああ、必ずこの国に戻って来る。アステリオスも随分ここが気に入ったみたいだしな」
「あと、これを……」
 そう言って渡してきたのは綺麗な色をした小石だった。
「これは私の宝物です。いつでもテーセウス様と一緒にいられるように……。テーセウス様が私の事を忘れないように……」
 俺はそれを両手で受け取ると大事に服の中に入れた。
 俺たちが船に乗り込み、出航するまでアリアドネーはずっと、いつまでも手を振っていてくれた。俺たちが、アリアドネーが見えなくなるまで。
 出航した船の上で俺は座ってアリアドネーから貰った石を見ていた。
 今まで見たことが無い色をした石。これは中々お目にかかれるものじゃない。
「てーせうす、あのひとのことすきなの?」
「ばっ……!何を言っているんだお前は!」
 突然変なことを言われた俺は取り乱して危うくその石を海に落とすところだった。
「だって、ずっとそのいしみてるし、それにあのひとのかおをみたときのてーせうす、なんだかうれしそうだったよ」
 こいつは変なところで洞察力を発揮する。こういうところで発揮しないでもっと別のところで使ってほしいものだ。
「別にアリアドネーのことは嫌いではないが、俺はミーノース王の支配下の国の王子。残念だが、あいつと釣り合うことはない」
 アステリオスはそう、と言って海を見ていた。
 何も変わらない船の上でこいつは海を見て一体何が楽しいのだろうか。
「なんでこのふねはみずのうえにういているのにしずまないの?」
「さあな。船が水に浮くなんて考えは最初のころ、誰も考えなかった。でも、川に流れる葉っぱが水に浮くことを発見した人物が船を考えた……だと俺は考えている。実のところ、誰もわからないのさ」
「ふしぎだね」
 アステリオスは興奮しているのか、船の上で小刻みに跳ねている。こいつの体重が重すぎるのか、そのせいで船は多少揺れている。
 船が揺れて生贄たちや船員たちは少しだけ慌てているようだ。
 クレタ島からアテ―ナイまで数日と言ったところか。それまで食料は持つだろうか。俺はその心配をしていた。

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