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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第7話 訓練

 子供たちが満足するまで少し時間が経った。俺たちは宮殿に帰る時間になった。
 子供を優しくつかんで地面に降ろしてさよならと言う。
「あすてりおす!今度はもっと遊ぼうな!」
「うん、もっとあそぼう!」
 子供と言うのは本当にすごい生き物だな。好奇心の塊で何でも興味を持つ。だが、そんな子供にしか出来ないことがある。それは恐怖を無くすと言うことだ。子供たちのお蔭でアステリオスは怪物として見られなくなり、街の人気者になった。
 宮殿に帰る間にアステリオスの為にと、食料を渡してくれるものがいる。アステリオスの為に布を渡してくれるものがいる。
 その人たちを見てこいつは本当に嬉しそうだ。
「民たちとはもう打ち解けたようだな」
「はい。アステリオスはこの国の英雄です。こいつがいれば戦争をしようと言う馬鹿な奴らも出てこないでしょう」
「せんそうってなに?」
「人同士が争うことだ。醜いものだぞ。血は流れ、肉は裂かれ、骨が潰れる。出来ればお前をそんな戦争に参加させたくない。ずっと清い心のままでいてくれ」
 うん、と大きく頷いた。
 そう、こいつを戦争になど出させてはならない。せっかくこいつは楽しい人生を歩んでいるのだ。その人生を壊してはいけない。
 王もアステリオスが戦争に参加するのは反対だったようだ。
 王に次の指示を貰い、その時が来るまで俺たちは別室で腹ごしらえをしていた。
 昨日の宴とはずいぶんと程遠いが、これでもこの国では、俺たちに対しては特別な扱いをしてくれているのだろう。
 俺の分はアステリオスに全部やることにした。
「いいの?てーせうすはたべなくてだいじょうぶなの?」
「俺はいいよ。さっき店で食べてきた。だからお前が全部食え。食って力を付けるんだ」
 食べたと言うのは嘘だ。俺は朝から水以外何も口にしていない。でも、こいつの為なら俺の分をくれてやってもいい価値はある。
 料理から目を背けていると、背中を軽く押された。アステリオスの方を振り向いた。
「てーせうす、なにもたべていないの、わかるよ。それってうそっていうんでしょ?ぼくのためにうそなんかつかなくてもいいよ。てーせうすもたべて」
 俺の目の前に俺の分の料理を差し出した。
 こいつって奴は……なんて優しいんだ。涙が出そうになり、目を抑えた。
「てーせうす、だいじょうぶ?どこかいたいの?」
「いや、大丈夫だ。目に……ゴミが入ってな。痛くて涙が出てきてしまった」
 アステリオスにバレないように涙を数滴流した。それに気づいていたのか、気づいていなかったのかわからないが、そっとしておいてくれた。
 飯を食って、衛兵たちの訓練場に行った。
 そこでは衛兵たちの休憩時間だったのか、誰も訓練をしている者はいなかった。
「ちょっと時間を間違えたかな。どうする?」
「あのたてとよこにならんだぼうはなに?」
 アステリオスが言っているのは人に見立てた人形のことだ。
 俺はそれで剣の使い方、槍の使い方、弓の使い方を練習するんだと教えた。
 するとそれに興味を持ったのか、アステリオスは置いてあった剣を人刺し指を親指で掴んでその人形に向かって行った。
「お、おい!何をするんだ!?」
「これって……こうするものだよね?」
 そう言って思いっきり剣を人形に斬りつけた。。
 ズバン、と音を立てて、人形が一瞬にして壊れる。その衝撃で持っていた剣も曲がってしまった。
 俺はさっきと同じように口を開けていた。武器を持つと、こいつはとんでもない力を発揮する。俺の今までの武勇伝がカスのように思えた。
「何事だ!?」
 音を聞きつけた衛兵たちが訓練場に集まってくる。
 アステリオスと壊れた人形、そして曲がった剣を見て衛兵たちは武器を持って俺たちを取り囲んだ。
「ま、待て!俺たちは何もしていない!本当だ!」
「嘘をつくな!その人形と剣はどう説明するのだ!やはり怪物は怪物、我々人間と同じように生活は出来ない!王はお前に騙されているのだ!」
 ダメだ、説得は出来そうにない。
 槍を突き付けられて俺たちは壁の方に追いやられた。
「ぼく、なにかわるいことした?」
「今回はそうみたいだな。……覚悟を決める時かな」
 俺は手を上げて抵抗はしないと証明した。アステリオスも同じ様に真似をして手を上げる。
「騒がしいと思ったらお前の仕業か、アステリオス」
 王が訓練場にやって来た。
「こ、国王様!今この者どもをひっ捕らえますのでどうかご安心を!」
「良い。武器を下ろせ。アステリオスは無害だ。恐らく遊びでその剣で人形に斬りかかったところ……と言ったところか。それで違いないな、テーセウス?」
「は、はい!そうです!」
「だと。さあ、早く武器をしまえ。これからアステリオスとテーセウスがお前たちの教官になるのだ。上司に無礼な行動は止めろ」
 王のその一言で衛兵たちは武器を下ろし始めた。
 どうやら俺は王に一つ貸しが出来たようだ。この恩は必ず返そう。
 衛兵たちが武器を置くまで王はずっと俺たちを見ていた。
 解放された俺はその場に座り込んだ。
「あ~、危なかったぜ。アステリオス、今度から勝手なことはするんじゃないぞ?」
「ごめん」
 反省しているようだ。
 王が去り、訓練場には俺たちと衛兵たちしかいなくなった。そろそろ訓練の時間のようだ。
 だが、さっきのことがあって、衛兵たちは俺たちのことをあまり良く思っていないようだ。この信頼関係を取り戻すのは難しそうだ。
「てーせうす、どうするの?」
「ああ、そうだな。では、お前たちのいつもの訓練を見せてほしい。出来るか?」
 最初はザワザワとしていた衛兵たちだが、渋々剣や槍を持ち、人形や他の兵に向かって稽古し始めた。
 衛兵たちの訓練は何だか子供が大人に向かって反抗しているような様子だった。これでは訓練と言っても実践では役に立たない。
 俺は手を叩き、皆を集めた。
「正直に言う。お前たちがやっていることは子供のようだ。そんなことでは戦では間違いなく負ける。だから、俺がお手本を見せてやろう。剣か槍を貸してくれ」
 その言葉にムカついたのか、中々俺に武器を渡してくれなかった。仕方がないので自分で武器を取った。
 俺が持ったのは槍だ。槍なら使い慣れているし、戦でも槍は先陣を行く。槍で勝敗が決まると言ってもいいぐらいだ。
 人形の前に立ち、人間の急所である場所を素早く突いた。それを繰り返し、そして最後の一撃として人形の頭に向かって槍を振りかざし、人形を破壊した。
「これが槍の使い方だ。急所を突き、鎧を破壊する。これが基本だ。これが出来ればお前たちは負けることはないだろう」
 そう言ったが、俺はこれが最初から出来るとは期待していない。これは俺の筋力を持って初めて出来る技だ。
 だが、これを覚えてもらわなければこの国はいずれ他国の勢力下の置かれてしまう。無理も承知で俺は言った。
 衛兵たちの中から、そんなこと出来るか、と声が出てきたがやって貰わなければ困る。例え出来なくてもこれを繰り返していればいつか慣れてきて、簡単に相手を倒すことが出来るだろう。
 半分の衛兵を槍の訓練をさせ、残りの半分を、剣の訓練としてアステリオスを相手にやってもらうことにした。
「この世界はまだまだ広い。隣国がアステリオスみたいな巨人を従えていてもおかしくないだろう。そういう時の場合に備えてアステリオスを相手にしてもらう。武器は本物ではなく訓練用の模造のものを使え。怪我をされては困る。アステリオス、俺の指示の通りに動いてくれ」
「うん、わかった」
 衛兵に訓練用の武器を持たせて、アステリオスは訓練場の中央に立ってもらった。
 指示したのは暴れるようにして動け、だ。本気の力でやられたら衛兵たちでは一たまりもないだろう。
 アステリオスを囲むようにして衛兵たちは動いた。
「そうだ。囲むようにして動くんだ。動きを止めるな。絶えず動いて相手の隙をつくんだ。背中が空いているのなら背中を、腹が空いているのなら腹を。そして腕や足の攻撃も忘れるな」
 俺の言う通りに衛兵たちは動いた。刃がない剣でアステリオスに斬りかかる。腕や足、背中や腹を。
 だが、皆怪物を相手にしたことが無いから横の奴にぶつかったり、こけたりしている。まあ、初見で怪物相手だとこの程度だろう。
 半日、ひたすら衛兵たちの訓練を見続けた。

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