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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第6話 注目の的

 次の日、固まった体をほぐしているとアステリオスがすでに目を覚ましていることに気付いた。
 横になったままで目を開けていると言うことはさっき起きたところと言ったところか。
「おはよう、アステリオス」
「? おはようってなに?」
「挨拶みたいなものだ。おはようって言われたらおはようって返すのが決まりなんだ。そんなことはこれから覚えていけばいいことだ」
「じゃあ、おはよう」
 アステリオスを起こすと俺たちは宮殿の中に戻った。
 宮殿内は何が起きたのか衛兵たちが騒ぎながらすごい勢いで走っている。一体何が起きたのだろうか。
 衛兵の一人が俺たちを見ると、他の衛兵に知らせに行った。なんだ、俺たちを探していたのか。別に逃げたりしないと言うのに、おお大袈裟な。
 複数の衛兵に言われて俺たちは王の前に行った。
「勝手にいなくなっては困る。ただでさえ、アステリオスは我らと違う恰好をしているのだ。民がその姿を見たらこの国から逃げるかもしれん。勝手な行動は慎んでもらおう」
 王のお叱りを受け、アステリオスは落ち込んでいた。こいつの反応はとてもわかりやすい。
「さて、いい朝だがお前たちには仕事をしてもらう。ただでこの国に住むことは民にも示しが付かないからな。仕事は民の手伝い、それと衛兵たちの訓練だ。お前たち二人なら簡単だろう」
 仕事か。確かに他国で貴族のように振る舞うのは俺の気持ちとしても嫌だ。この国の手伝いなら喜んで引き受けよう。
 アステリオスの仕事の意味を教えて、俺たちは衛兵に言われるがまま街に行った。
 街にはアステリオスを怖がって怯える民は沢山いた。怖がらずに来るのは子供か、それか命知らずの馬鹿者だけだ。
「ぼく、こわい?」
「これから街の人たちの手伝いをすれば、お前を怖がる人なんて誰もいなくなるさ。さ、仕事をしようか」
 俺たちの仕事は建物を作る仕事だった。
 建設途中の建物の傍で大工たちが朝の号令をしようとしていた。その途中で俺たちは混ざることにした。
 最初は大工たちも怯えていたが、衛兵が事情を説明すると納得したようだ。アステリオスを受け入れてくれた。
「おい、そこのデカいの。これ持ってくれねえか?」
 持てと言われたのはとても人一人では持てそうにないほどの大きな石だった。いくらアステリオスがデカいとは言え、これを一人で持たすなど非道だ。
 大工たちはニヤニヤと顔をニヤつかせている。嫌がらせのようだ。
「アステリオス、無理だったら言えよ。こんなのお前だけじゃとても持てないだろう?」
「だいじょうぶ。もてるよ」
 そう言うと、アステリオスは軽々とその石を持ち上げた。
 さっきまで笑っていた大工たちは顎が外れそうなほど口を開いている。俺もそうだ。まさかこいつがこんなに力持ちだとは思わなかった。
「これ、どこにおけばいい?」
「あ、ああ……ここにおいてくれ」
 驚きを隠せない大工たちの横を通って、持ち上げた石を言われた場所にズシーン、と大きな音を立てて石を置いた。
 その音にびっくりして街の人々がアステリオスを見に来る。元々隠れて見ていた奴は腰を抜かしている。
 いつの間にか、仕事場の周りにはアステリオスを見に来る人々でいっぱいだった。これでは仕事にならない。
「なんで、みんなこっちみるの?」
「お前があまりにも力持ちだったんで皆ビックリしているんだ。この調子なら人の三倍、いや四倍五倍の速さで仕事が片付くぞ」
 褒められたのが嬉しいのか、笑顔になった。だが、その顔は笑顔なのだが、とても笑顔とは言えない顔だった。目が笑っていない。その顔を見た周りの人々は怖がって逃げ出した。
 俺もさっきの石とは大きさは少し小さいが負けじと運ぶ。
 大工たちはもう慣れたのか、すぐに仕事に戻った。
 石を運び、木材を運び、接着剤の塗料を壁に塗り……
アステリオスのお蔭で建設途中だった建物はあっと言う間に完成した。
「デカいの、お前すげえな!何食ったらそんな力が出るんだ?」
 大工の親方だろうか、少し歳を取った男がアステリオスの体を叩く。
「うーん、わかんない」
 頬を指で擦る。
 そう言えば、こいつはあの迷宮の中で一体何を食って生き延びたのだろうか。生贄たちを食って生き延びたとは言っていない。あの中で食べ物になりそうなものがあったのだろうか。機会があったら聞いてみよう。
 仕事が思ったより早く終わったので、俺はアステリオスの為に食料を買ってやろうと思い、市場に行った。
 しかし、一緒にいた俺を怖がって店の主人は表に出てこない。
 俺は普通の人間だ。ただ、少しだけ人とは違う力と勇気を持っただけでそれ以外は普通の人間だ。腹も減る、喉が渇く、睡眠が必要。だと言うのに、こいつらは俺を怪物扱いしている。
 俺はそれが少しだけ不満だった。だから店の品物の果物を勝手にもらっていった。
 アステリオスの場所に戻ると、すっかり意気投合したのか、大工たちと仲良くしている。喜ばしいことだ。この調子でこいつがこの国に馴染んで、そして民の為に働き、死ぬのならこいつも本望だろう。
「アステリオス、土産だ。食え」
 俺は果物を放り投げた。
 それを見事に受け止め、俺が言った通り、果物に噛り付いた。
「おいしい」
 果物の感想を言うと、たった二口で食べきってしまった。俺はどんどん投げた。それを全部受け止めると一気に口に頬張った。
 口の中をいっぱいにして、果物をかみ砕く音が聞こえる。
「てーせうす、ありがとう」
「お前の体だと、それだけじゃあ腹いっぱいにならないだろ?後で宮殿に帰ってまた豪華な馳走でも作ってもらおうか」
「うん!」
 その会話を聞いた子供たちがアステリオスの周りに集まって来た。その子供を追いかけてきた母親がアステリオスの姿を見て怯えるが、子供はそんなこと関係ないかのように無邪気に近づこうとする。
「……おいで」
 大きな手で子供の前に手を伸ばすと、子供たちはその手の上に乗り、はしゃいでいた。
 その光景が微笑ましかったのか、優しい顔になった。
 その顔を見た母親たちは恐る恐るアステリオスの体に触る。筋肉質な体で体は固い。筋肉が盛り上がっている。その体をまるで品物を触るかのように丁寧に触っていく。
 誤解が解けたのか、母親たちは子供を遊ばせておくとどこかに行ってしまった。
 アステリオスの体をおもちゃのようにして、上ったり、ぶら下がったりして子供たちは遊ぶ。
 その光景を見て、俺は安心した。

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