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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第2話 テーセウス

 父上に反対されたが俺はやる。必ず怪物を退治してやるんだ。
 今まで父上に俺を息子と証明させる為に厳しい試練を乗り越えた。その俺がラビリンスに住むと言う怪物を倒せないわけがない。
 生贄の中に紛れて俺は怪物がいると言うクレタ島に行った。
 船の帆は国民たちの悲しみの印と言う黒い帆にしてあるが、それも今日で終わりだ。今日、俺が、怪物を倒す。ミノタウロスと言う怪物を倒す。
 クレタ島に着いた時には生贄たちは自分の運命を呪ったのか、それとも自分の人生を諦めたのか、目は虚ろだ。
 生贄たちを率いて、俺はクレタ島の王、ミーノース王に会いに行った。
 しかし、王は俺たちに会わないと言った。これから死ぬ奴の顔など見たくもない、だと。
 ふざけている。この国は、王は腐っている。
 怪物がなんだと言うのだ。人を越えた力、忌み嫌われる存在がどうした。そんなもの俺の前では何の意味も持たない。
 門の前にいた衛兵にラビリンスの場所を聞くと俺は生贄たちを連れて向かった。
 ラビリンスまでは少し遠く、歩いて半日と言ったところだ。ようやくラビリンスに辿り着いた。
 ラビリンスの中は迷宮で脱出不可能と言われている。だが、ミーノース王の娘、アリアドネーからもらったこの糸さえあれば迷うことはない。
 糸を扉に括り付けていると俺はあることに気が付いた。
 地面を見てみると明らかに人のものではない足跡を見つけたのだ。人ではないとすぐにわかる。何故ならそのサイズがあまりにもデカすぎるからだ。これは俺の身長の二倍近くあるのではないか。いや、もっとか。その足跡が扉から真っ直ぐ外に向かって続いている。
 そんなことはどうでもいい。問題は中にいるはずの怪物、ミノタウロスがここから出て行ったことだ。
 俺は生贄たちを入り口に待機しておくように言うとその足跡をたどった。手遅れでなければいいのだが。
 走った。走って走って走って走った。
 そして目の前に怪物を見つけた。デカい。人の体をしているがやはり身長がデカい。
 あの怪物はゆっくりと前に進んでいる。前には何もない。やるなら今しかない。
 怪物の歩く速度に合わせて俺は怪物の後ろに行った。
 息を殺して、足音を消して。……だが、俺はミスを犯してしまった。
「パキッ」
 俺は足の下にある木の枝を踏んでしまった。
 その音に気付いたのか怪物はゆっくりとこちらを振り向く。
 怪物は仮面でも被っているのか、顔がわからない。だが、頭に人間ではありえないものがある。角が二本、頭に生えているのだ。
「な……に?」
 言葉を発した!?こいつには知能があるのか!だとしたらやりづらい。今までは知能はあってもそれは動物のような低思考しか考えられないものばかりだった。母上の殺害は何とか回避できたが、果たしてそれと同じようにうまくいくのだろうか。
 怪物が体をこちらに向けると俺は距離を取った。そしてアリアドネーからもらった短剣を低く構え、攻撃の姿勢に入った。
 お互い、微動だにしない。緊張した空気が流れる。聞こえてくるのは風の音だけだ。
 最初に動いたのは怪物の方だった。怪物はこちらにゆっくりと右手を伸ばしてきた。そんな鈍い動きでこの俺を捕まえられると思っているのか。
 俺は手の横に避けて怪物の体に一つの切り傷を作った。
「うっ!」
 よし、効いている。
 流れる血は赤く、まるで人間のようだった。この怪物が食った人間の血が流れているのだろうか。
 俺は水が流れるように体を移動させながら怪物に無数の切り傷を作った。
「い……たいよ!」
 そりゃ痛いだろう。刀で体を切られているんだ。
 体が血で赤く染まると怪物は膝をついた。
 俺は止めの一撃として真正面に立ち、喉元に短剣を突き刺そうとした。が、その願いは叶わなかった。
 怪物の両手が俺の横から襲ってきて、俺をわしづかみにした。
「ぐぉっ!」
 力が強い。この俺が脱出出来ないほどこの怪物は力が強い。このまま握り潰されるのだろうか。
 ああ、こんなことならもっと慎重にやればよかった。目の前に走馬灯みたいなものが流れてくる。これが死を覚悟した時に見ると言う奴か。
 悪くない人生だった。悔いはない。このまま潔く怪物の手に潰されこの体の一部となろう。
 短剣を地面に落とし、俺は目を閉じた。
 しかし、いつまで経っても怪物の手は俺を潰そうとはしなかった。むしろ逆にどんどん力が弱くなっていく。
「……ごめん……ね。いたか……た?」
 怪物は俺から手を離すと俺の腕を優しく触り、そう言った。

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