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英雄アステリオス

しげぞうじいさん

第3話 友

 自分が殺されそうになっているのに、こいつは自分のことより他人の、俺のことを心配しているの……か?
 だが、相手は怪物。いくら優しい心を見せようともその心の中には怪物の心が眠っている。今ここで仕留めておかなければ確実に被害は増える。
 地面に落ちた短剣を拾い、距離をとった。
「……」
 怪物は手を伸ばしたまま固まっていた。もしかして死んでいるのか?
 少しずつ近づいてみた。
「……?」
 怪物の頭が少しだけ傾く。こいつはまだ死んでいない!
 驚いた俺は反射的に急いで怪物から離れた。
「なん……で、にげる……の?」
 逃げるに決まっているだろう。俺はお前を、お前は俺を殺すのだから。殺されるとわかっていて簡単に近づく奴がいるか。
 しばらく均衡状態が続いた。
「……きみは?」
 怪物が俺のことを問うてきた。いいだろう、死ぬ前に偉大な俺の名前を覚えて死んで行け。
「俺の名前はテーセウス!ミノタウロス、貴様を殺すものだ!」
「ころす?ころす……てどういういみ?」
 怪物はまた首を少しだけ傾けて意味がわからないと言う仕草をした。怪物にはこの言葉がわからないだろうな。
 俺は一歩踏み出す力を最大限にまで引き出して怪物に一瞬で近づいた。しかし、また怪物の左手は俺の速度を捉えて俺を捕まえた。
 必死に抜け出そうとするが全然抜け出せる気配がない。
 怪物の右腕が短剣を握っている俺の手を潰す……と思ったら。
 俺の短剣を虫のように掴み、地面に捨てた。
「こんなもの……あぶないよ?ぼくは……なにもしないから」
 俺から手を離すと怪物は正座をするような姿勢で俺を見た。
 ……こいつは害あるものではないのか?
 俺は確認の為にこいつに話しかけた。
「ミノタウロス!お前の名前は!」
「ぼくは……みのたうろすじゃない。ぼくの……なまえはあすてりおす……だよ」
 こいつの名前はアステリオスか。意味は雷光、星だったか。
「アステリオス!お前の目的は!」
「もくてき?……そうだね」
 アステリオスと名乗った怪物は顎があるであろう場所に手を置いて考え始めた。
 その時間は短かっただろうが、俺にとってはとても長く感じた。
「もくてきは……このせかいを……しりたい。じゃ……だめ?」
 アステリオスは人殺しでも破壊を望んでいるわけではない。知識を求めているのだ。
 俺は自分でしばらく考えた。この怪物をこのまま見過ごしてもいいのか、それともここで殺しておくべきなのか。
 その時、俺は父上から聞いた言葉を思い出した。
 この怪物の生贄の為に九年ごとに七人の男と七人の女、合計十四名の人間がこいつの犠牲になっている。それは確かな情報だ。
「お前は、あの迷宮の中で何人の命を奪った!九年ごとにお前の為に十四人が犠牲になっているのだ!それはお前が殺したものだろう!」
「ぼくはなにも……していないよ?あのひとたちは……ぼくのすがたをみたらはしっていっちゃった。ここは……あぶないからぼくとはぐれたらきけんだっていおうとしたのに。
 みつけたときにはみんなほそいぼうじょうのものになっていたんだ」
 この言葉に嘘はないだろう。アステリオスは本当に人を殺してはいないのだ。
 だが、こいつの顔を見るまでは判断できない。
「その仮面を取って素顔を見せろ!そうすれば俺もお前を殺しはしない!さあ、早く仮面を取れ!」
 俺がそう言うとアステリオスは自分の仮面をゆっくりと取った。
 その顔は……まるで子供のようだった。少年のようだった。何も知らない子供のようだった。
 仮面を取ったアステリオスは笑顔を見せた。
 ……ダメだ。俺にはこいつは殺せない。俺が殺すのは殺意を持っている相手だけだ。それは自分が決めたルールだ。何があっても曲げることは出来ない。
「……すまなかった、アステリオス。お前を誤解していたようだ。俺は……無害なお前を殺すところだった」
 俺は自分の唇を強く噛んだ。そのせいで口元に血がにじむ。
 その血をアステリオスは大きな指で拭うと俺にこう言った。
「このあかいのが……ながれるといたいこと……なんだよね。だいじょうぶ……?いたい?」
 ハハッ!あまりにもおかしくって涙が出そうだ。こいつは自分が血まみれだって言うのに、俺が流したほんの数滴の血を見て痛いって聞いてきたのだから。
 俺は自分の流した血を自分の腕で拭うとアステリオスに提案した。
「アステリオス、俺と一緒に来ないか?お前に知識を与える、世界を見せてやる。お前が知らないことを俺が教えてやる。このまま一人で彷徨っているのも寂しいだろ?」
 アステリオスはしばらく考えた。
「……ともだち、できる?」
「ああ、出来るさ。だって、お前はこんなにも優しいんだから」
 大きな指に手を置いて俺は父上がよく見せてくれた笑顔を真似してみた。……うまくできているかな。
 その言葉を聞くとアステリオスはこれ以上ないぐらいの笑顔を俺に見せてくれた。
 立ち上がって、俺を見下ろす様は俺が子供に見える。
 俺は前に手を出した。
 しかし、アステリオスはこの意味がわからないのか悩んでいる。
「アステリオス、この手を握れ。俺がお前の初めての友達になってやる。俺は今まで友達と言うものを持っていなかった。お前と一緒だ。……俺が友達だと嫌か?」
「いやじゃ……ないよ。うれしい……!ありがとう!」
 俺の手を潰さないように優しく握ると、俺たちは今日初めて友達と言うものを持った。

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