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一話完結型短編集

阿久津 太陽

りあるたいむ

ここは、セブンスキングダム。
全ての者に入国(ログイン)が許された非現実世界の王国。…とはいっても、国王はおらず、玉座には魔王が鎮座しているため、選ばれし伝説の勇者が、戦いを続けている。
一般国民プレイヤー達は、伝説の勇者を助けながら、好きなように生活プレイしている。
しかし…本当に残念で、突然なのだが、伝説の勇者は闇堕ちした。別に、悪の手先に何かされたということでは無い。現実世界の勇者本体が精神を病んだために、非現実世界バーチャルワールドであるこの世界の勇者アバターが、連動してこうなってしまったのだ。
そういう経緯もあって、
「明るく勇敢な勇者様を取り戻そう!」
というのが、現在、一般国民たちの主な目標クエストである。

一、魔法使いの憂鬱

私の名前は、ピース。勇者のパーティで魔法使いの枠を与えられている者。
そして、私の隣で虚ろな目をして佇んでいる男の子が、伝説の勇者・アルジェント。
事の発端はひと月前。現実世界の彼が、心に深い傷を負ってしまったようで……。まったくもって迷惑な話ですが、魔法使いたるもの、ここは、冷静に、知的にいきたいところです。
「あ、アル君!…クエスト、行こう!」
「クエスト……村人狩り……?」
「ち、違うよう!!なんで魔王軍みたいなこと、わざわざやるの!!」
「…別に…どんなクエストしようが、俺の勝手だろ、ちんちくりん」
「ち、ちんちくりん……」
こんなに口が悪いけど、前はもっと優しかったのですよ。闇堕ちとともに、今のような乱暴な口調に……。
「おい、チビ」
「なーに、アル君」
ログアウトする帰るわ」
「えぇ!?」
「村のひとつも焼けないなら、やることないしさ」
「待って、アル君!」
「じゃあな」
「アル君!!!!」
こうして今日のアル君は、現実世界に帰ってしまったのだった。



二、勇者様は眠りたい

面倒だ。本当に、面倒だ。村のひとつでも焼きたくなる。
あの日、興味本位で購入してしまったそのゲームは、普通とは違った。ログインした瞬間、「適性検査」というものを受け、職業を決定され、「伝説の勇者」になってしまった。なぜ自分が伝説の勇者なのか、とその場で騒ぐと、「システムなので」とだけ告げられた。
アバター(?)がmaleだったことにも文句を言いたい。「私」は正真正銘、純度百パーセントの女子高生である。そう、「女子」高生なのである。まあ、もうすっかり男性アバターにも慣れてきたから、諦めがついてるのだけれど。
さて、今日は日曜日だ。明日は学校に行かねばならない。そして、現在時刻は午後十一時。大人は寝る時間、学生は勉強する時間である。しかし、私は勉強する気などさらさら無いので、眠りにつくことにしよう。

…………眠れない。



二・五、???

『午前一時二十一分。おめでとうございます。貴方はセブンスキングダムへの入国を承認されました。直ちに適性検査に移行します、しばらくお待ちください。適性検査開始──アバター:female。スキル:魅了。適性検査終了。職業──歌姫』




三、高校生勇者

「酷い顔だな…寝不足か…?」
担任は、開口一番そう言った。
お察しの通り、結局昨日は眠れず、オールで草刈りをしていたので、当然のように寝不足である。
「フラフラだな、保健室で寝てろ!」
おい、担任。それでいいのか。
しかしここはご好意に甘え、保健室で休ませていただこう。
「失礼しまーす…」
「はーい…って、ちょっと!?酷い顔よ、寝不足!?ベッドで寝なさい!」
養護教諭もこれである。先生たち、ほんと好き。
ああ、ベッドという単語を聞いたら眠気が襲ってきた。
「あ、寝不足がもう一人いるから、2番目の使…」
──ドサッ
「…ぅ」
今、うめき声が聞こえたような。
「大丈夫ですか!?」
誰だ、養護教諭じゃない、男の声が私を心配している。ああ、さっきのうめき声は、私のか。
「せ、せんせ!…この子が」
ダメだ、意識が遠のいてい…く……

「……っ…!?ヒィッ!!」
次に目覚めた時、私の傍らには、ふわふわ柔らかい…モフモフした何かが横たわっていた──!?
「ん…?ああ、おはようございます」
「…ど、どちら様、ですか」
「僕ですか?…僕は、どこにでもいる普通の高校二年生ですよ」
「…何故、ここで寝ているんです」
「寝不足で」
「…は、はあ。じゃなくて!」
「ん?んんん?…うわああああ!!ごめん、ごめんよ!!」
どうやら、ただのお寝ぼけ兄ちゃんだったらしい。
「いやあ、本当にごめんねえ…悪気はないんだよう…」
「ああ…はい…まあ、私も気にしてませんし…気にしないでください」
気まずい沈黙。おい、頼むよ。なにか言ってくれ。
「君、一年生?」
ものすごく、普通の質問だ。
「そうですね、一年生です」
ものすごく、普通の返答だ。
自分でもびっくりするくらいの普通さに、目眩がした。
「…そうだ、君の好きなものはなんですか?」
「え、なんですか突然」
「僕はですね、よくゲームとかしたり、お菓子作ったり、本読んだり。楽しいですよ」
言葉に詰まった。どうも調子が狂う。なんなんだこの男は、わけがわからない。
「……他には?」
「歌が好きだよ、聴くのも歌うのも。僕、ちょっぴり体が弱いから、インドアなことくらいしかやることないんですよ。スポーツは、得意じゃないですし」
「なるほど」
だめだ、そもそも低いコミュニケーション能力を突然発揮しようというのが、間違っている。
「そうだ、お散歩行きましょう。先生、お散歩行ってきますね!」
「行ってらっしゃい」
いや、ダメでしょ。
「行こう」
「え、あの」
こうして(どうして)私とお寝ぼけ先輩は、学校外に出ていくことになってしまった。



四、おさんぽ勇者

こうして、お寝ぼけ先輩と私は、お散歩を始めた。しかし、真夏の昼間に外に出ても暑いだけなんじゃないかと思う。そのことを彼に訴えると、「じゃあ日傘でもさそうかぁ」などと呑気に白い傘を広げた。
「はいって、はいって」
促されるままに、私はお寝ぼけ先輩と相相日傘をするハメになった。初対面なのに。初対面なのに!。
「今日は、空がきれいですねえ…真っ青です」
つられて空を見上げると、目が覚めるほどに広く青い空が目に入った。と、同時に、この先輩と自分との身長差に驚いた。そういやこの人、男の人だったな。
「先輩って、割と高身長なんですね」
「そうですか?一八〇ないんだけどなあ」
こんな、とるにたらない会話をしたのは久しぶりだ。私はまた空を見た。そして、先輩の横顔を見た。
「…空の色、似合いますね」
ふと思ったことを言葉にすると、先輩は驚いた顔をしてこちらを見た。
「似合いますか」
「はい、似合います」
「どうしてですかねえ」
愉快そうにしている彼に、私はぽつりと言った。
「生きてるって感じがします」
隣に立つその人は、にこにこしながら、「生きていますよ」と言った。




五、勇者ミーツ歌姫

不思議なことが起こったような、ふわふわした気持ちだ。あのお寝ぼけ先輩は、実は人ならざるものなんじゃないだろうか、と考えてしまう。
こういう時は、あの国で草刈りをするに限るな。と、思いつき、私はログインの準備をし始めた。

伝説の勇者だけが装備出来る聖剣(笑)は、切れ味バツグンである。それ故に、気持ちよすぎておかしくなりそうな程、草刈りが楽しい。
今日も颯爽と草を屠り、木陰で休息(という名の昼寝)としゃれこもう。そんなことを考えながら気に入りの木の元へ向かう。そこに近づくにつれ、いつもと違うことに気づいた。近づけば近づくほど、美しい歌声が近くなる。私の胸は大きく速く脈を打ち、自然と駆け出していた。
息を切らしながら目的地にたどり着くと、そこには、水色ともまた違う、えもいわれぬ淡い青色の衣を纏い、歌を歌う美しい女性がいた。
「──。」
声に出して、言葉を紡ぐことが出来ない。使い古された表現を用いるなら、「雷に撃たれたような」衝撃が、私の体全体を駆け抜けていったのだ。


・・・


私の記憶だと、こんなにきらきらと輝く瞳のアル君を見たのは初めてだ。
「ものすごい、衝撃的な出会いだったんだ!!」
と、息を切らし、大きな声で語るアル君によると、世にも美しい歌声と類稀な容姿の歌姫が現れたらしい。さらに、あんなところやこんなところが、むちっと、ぷるんとしてたとかしてないとか。男の子というものは、やはりそういうふうなのが好きなのですね。…幼児体型で悪かったな!!。
こほん、失礼話が逸れたのです。赫赫云々、アル君の闇度が若干下がっているように感じるので、それはその歌姫さんに感謝したいというか、なんというか、なのですが……アル君曰く、
「あの人とは、もう会うことが出来ないかもしれない…まるで…雲上人のようだったんだ…」
ということなので、謝辞を述べることすら不可能に近いみたいですね。
とはいえ…とはいえです。これは、この国にとってもたいへん良い傾向なのです。伝説の勇者が復活すれば、魔王を倒しに行けるのです。しかし、アル君はむしろ興奮しすぎて草刈りに熱が入ってしまっています。これに関しては、たいへん由々しき事態です。


・・・


あの歌声が忘れられない。
あの麗しい姿が忘れられない。
気持ちが昂りすぎて、草刈りが止められないのは、どうしたらいいのだろう。
そうして感情の赴くままに、草を刈り続けること一時間。さすがに体力の無駄遣いを感じ、また木陰に向かうことに決めた。もしかしたら、あの人がいるかもしれない、と期待を込めて。

嬉しい誤算だった。
あの人が、木陰ではなく、水辺にいたのだ。
水辺は、今日私が草刈りをしていた村とあの木の間にある。そこであの人は、水に足を浸しながら歌っていた。まるで水の女神のようだ。
私は、少し離れた場所から、彼女の姿と歌声に夢中になった。なぜ、こんなにも魅了するのだろうかと、体を火照らせた。
そうこうしているうちに、彼女は歌を中断し、水から離れた。思わず「あっ」と声をあげると、彼女はこちらを見た。目が合う。言葉が出ない。私たちは、しばらくそうしたままで、お互いにただ突っ立っていた。

「はじめまして、かな」
口を開いたのは、彼女のほうだった。歌声と同じように綺麗な声だ。
「そう、ですね。はじめまして」
「その剣を持っているということは、あなた勇者様?」
「一応、そうなります」
「そうですか、それはよかった!ずっとあなたを探していたの、あなたから来てくれてうれしい!」
探していた?。私を?。思いがけない言葉に鼓動がはやくなる。
「…俺も、あなたを探してた。初めてあなたの歌を聴いたときから、ずっと…」
思わず飛び出した言葉たちが、とても恥ずかしかったことに気づき、私はみるみるうちに顔を火照らせた。
「歌を…聴いていたの?」
「はい、とても、美しかった。歌声も、その姿も。すぐに魅了されてしまった」
「…ありがとう、そう言ってもらえるなんて、うれしい」
なんて清らかな笑顔だろう。青色の似合う爽やかさが滲み出ている!!。
「ねえ、勇者様。アバター無しで、会いませんか?また、この場所で」
彼女の提案は、突然で、衝撃的なものだったけれど。不思議なことに、私はそれを承諾してしまった。私たちは、次の日に、彼女が指定した場所で会うことになったのだった。



六、ガールミーツ歌姫

まったく恥ずかしい話だ。そもそも非現実世界の人間を信じきってしまった私が悪いのだが、これは予想していなかった。
「こんにちは、勇者ちゃん」
例の場所に行ってみたら、そう声をかけてきたのは男だった。いや、ただの男ならよかったんだけど、そいつは、あの時のお寝ぼけお散歩先輩だったのだ。
「……まさか、あなたが」
「うん、歌姫ソレイユだよ、伝説の勇者アルジェント様」
「知ってて、私をここに?」
「うん、リアルの君に会った時、すぐに分かったよ。雰囲気が似ていたし。まあ、確証を得るために、ちょっといろいろといじったりしたけどね〜」
え、何この人、凄いな。
じゃないよ、なにをいじったんだよ。怖いなー、もう。
「さて、君はまだ、ソレイユの歌声しか知らないよね」
「そうですね…」
「…ソレイユじゃない、僕の歌を、聞いてくれるかな?」
この人は、本当に変な人だ。突然おかしなことを言うのに、素直に従わせる。
「聞かせてください!」
私は、期待していた。何となく、自分を変えてくれそうなこの先輩に。
先輩は、無言で頷き、すうっと息を吸い込んだ。
お腹に響く。胸を震わせる。痛いくらいに私を音が貫いてくる。違う、この人は、あの歌姫であって歌姫ではないのだ。そう思わざるをえない、歌声だ。歌姫のは、流れる水のような澄み渡った歌声。この人のは、広い空のように、全てを包み込むような歌声だ。
変わった。私の中で、なにかが変わっていった。一瞬、いつも一緒にいてくれている魔法使いを思い出した。
──私は、ひとりじゃなかったんだ。

「勇者ちゃん、どうだった…?」
「すばらしかった、です」
「嬉しいけど…泣くほどかな…」
「え…?」
涙が流れたのなんて、いつぶりかな。

・・・

「なるほど、そういうことでしたか…アル君が実は女の子で、歌姫が実は男の子で、奇跡的ボーイミーツガールが発生していたとは…」
「うん、なんかよく分からない解釈だけど…ピース、今まで本当にごめん…それと、ありがと」
「礼には及ばないのです!私は私にできたことをしたまでなのです!」
アル君が、きれいになって戻ってきました。アル君を浄化してくれたのは、噂の歌姫様、ソレイユさん。リアルでアル君に会って、アル君は、色々とよくしてもらったみたいですね。
「それで、ピースちゃん。ひとつ、聞きたいんだけど…」
「なんです、ソレイユさん?」
「…この後は、どうするの?魔王軍を倒しに行くの?」
ソレイユさんが、噂通りの美しい声でそうたずねてきたので、私はそれに答えます。
「そうですね、それが無難でしょう。見たところ、アル君の能力値に異常はありませんし…むしろ、きれいになって上がってるかも?。それにソレイユさん。あなたは戦力としては素晴らしいです。どうです?私たちのお仲間になりませんか?」
ソレイユさんは、歌による体力回復と敵の足止め、挙銃による攻撃をこなせるようです。私の治癒魔法は、傷を治すことだけしかできないので、ありがたいのです。
「いいの?」
「もちろんです!」
「勇者ちゃんも、いいの?」
「あなたがいてくれると、心強いです」
「じゃあ、決まりなのです!!」
こうして、私たち勇者御一行は、リスタートしたのでした!。



七、決戦

「──よう魔王、待たせたな」
私の声は、魔王の城に朗々と響いた。
「ああ、待っていた。待たせすぎだよ、勇者さん」
地を揺らすような不気味な声は、魔王のもの。
「勇者様、と呼べ」
「ならお前も魔王様って呼べよ」
「これから消えるやつなんて、敬称略でじゅうぶんだ」
「はぁぁぁぁ!?あー、今ので完全に怒っちゃったわー!もう手遅れだわー!なあおい勇者よ、吾輩が笑いながら魔王軍の下っ端たち惨殺したときの話ってしたっけ?」
「こいつ、イキリオタクかよ…付き合いきれないな!!」
私たちは、戦闘準備に入った。魔王はむくむくと巨大化しているが、まあなんとかなるだろう。三人揃っていれば、大丈夫。私は…俺は、もうひとりじゃない。
ピースの氷魔法で、雑魚を足止めし、ソレイユが銃弾で撃ち抜く。俺も聖剣で敵を薙ぎ払いながら、魔王に近づいていく。
「…さて、と…呆気ないな、ラスボス戦。せいぜい楽しませてくれ!!」
魔王の弱点は右目。魔力のコアがそこにあるらしい。(ピース調べ)
「舐めやがってぇぇぇ!!!!」
切り込みながら、体力を削ってはいるが、この調子だと、体力切れは俺のほうが早いかもしれない。イキったのは俺も同じだ。
「キエェェェェ!!!!!!」
「ッッッッ!!!!」
魔王の攻撃で受けたのは、かすり傷のはずだが、体力の減りを考えると致命傷にもなりかねない。
(ちょっと、マズイな…)
そう思った次の瞬間、俺の体はふわりと宙を舞った。
「ん?」
「アル君、治癒と体力回復が済んだら、このまま弱点を狙ってください!」
ピースの声だ。
「負けないで!!」
ソレイユのその叫びと、歌声が体の疲れを吹っ飛ばした。
「ありがとう、いけるよ、これ!!」
ピースの浮遊魔法に乗って、一直線。
「小賢しい真似をーーーー!!!!」
「終わりだ──!!!!!!!!」

──パリンッ

硝子が割れたような音がした。
魔王は、耳を塞ぎたくなるような断末魔と共に消えていった。

「…アル君!!」
「…勇者ちゃん!!」

なぜか、2人の声が遠い。


?、???


──ピロリン♪ピロリン♪

メールの通知音で、目が覚めた。

『おめでとうございます、あなたは入国を許されました!』


始。

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