短編小説 「忘れ島」

峠のシェルパ

貴方ハ今ココニ居マスカ?

私が東方の地図を見てそこへ向かうと決めたのはは50年ほど前まで存在していた国がここ最近の地図から存在ごと抹消されていることに気づいたからだ。
周りの人々にその事を尋ねてみたがその事を認識する人はいれどその疑問を解消に動いいた者は帰ってこないという不思議なことになっていた、
「半島の先にある極東の島は異次元の扉だ」や「あの島は今は地獄と化していて魑魅魍魎が右往左往している」などなんとも現実離れした事を言う輩もいて面白半分のオカルト話が横行している様で嫌になりかける…

「あの島は周辺諸国の中では一際特殊であったしもっと言えば我々の中で一番優れていた時もあった」
デマなのかも分からない資料と史料に埋もれながらポジティブな結論としてそんなところに行き当たったが讚美だけでは面白くない。
ネガティブな意見も当然無視することは出来ず、
「あの国には情などない、国家全体が洗脳装置であり「クウキ」が支配していて人を壊すまで働かせる」とまでいう文献は作者を疑いたくもなったがここまで賛否両論は私の興味を駆り立てたのだった。

しかし、その島国に渡ろうにも現在そこへ行く航空機や客船はほぼ皆無に等しく最早誰も近づきたがらないのだという、
かの土地は禁じられ、忘れ去られた土地になりつつある。
私は極東の地域の人間ではないため尚更渡航の許可は降りないので密航という形を取りざるを得なかった。

本島へ行くにはまずは今は琉球と名乗っている形式上の自治共和国へ行かねばならない。
本島とその周辺三島は閉ざされているが北方の蝦夷共和国連邦とこの国は諸外国と国交を樹立し私が目的地としている国の事実上の後継国家と認知されている… 

地図上にも列島の名称は消えており前提知識がある私にとっても違和感があるがそれは飲み込んで
私は琉球共和国首都の那覇空港行きの飛行機に乗り込んだのだった…
乗り込んだはいいのだが、私はある失念をしていた。

「暑い…こんなに湿り気のある高気温があるのか…油断したな」
春とはいっても亜熱帯気候に位置するこの島々に到着した時には思わず売店に駆け込んでアロハシャツ無いし Tシャツくらいはこの際だからと買ってしまった。
「あんたどっから来たんだい? 随分とまぁ暑そうな恰好だねぇ!?」
そんなように売店の妙齢の貴婦人から言われてしまって自分の不準備と情報収集の不足を密かに恥じたがおみやげは衣服ということにしておこう。
さて、私が探しに来た島々は
今はこの国の北西方にあって蝦夷連邦の間にある諸島群である。
大小様々な諸島群からなることはこの琉球共和国と類似しているのだが実は
国際的にも歴史的に見ても存在そのものが抹消されているという奇妙キテレツな事態が発生している、
我が国の地図から姿を消したのは約50年前のこと、偶然に私が祖父の遺品から発見したものである。
それまでは極東、ユーラシアから大平洋にかけては蝦夷共和国連邦 と琉球海洋共和国飲み込んでという二か国が存在するのみと思っていたが…どうやら帝政国家が存在していたのだというが
現在その国家を承認している他国は存在していない…実にあり得ない話ではないか

地元の大学でも研究会で度々話には上がるが研究チームこそ立ち上がるが一向に渡航許可が下りないというのだ。
地図から抹消された土地は現在も存在しているのだというから最早驚きを私は隠さない、
空港から地元大学に案内してくれるといって待ち合わせをしていたアポをとっていた助教授さんにモノレールの中で聞いてみた。

「あー、あの島ですか…もう誰も住んでいないそうですよ、地域研究とかでむかしの文化について調べたりはするんですが近年に入るとめっきり資料が消えてしまいまして、年輩の方に聞いてみても口を次ぐんでしまって何も聞き出せませんし、若い者の間ではあの島々を「忘れ島」と呼ぶものもいるとか…
よく子どもに悪いことをすると忘れ島においてきちゃうぞ~だなんて私も母に言われたのですが一種の畏敬の対象になりつつある様ですね。」

若いのに国際文化学の助教授をしているらしいその女性は記者の仕事をしている私を大学まで案内してくれた、この国の住人はやけに気前がいいというか害意が無い。
もう見ず知らずでいくら国際記者の肩書きを持っているとはいえ少し警戒しても良いくらいなのに…

「この国には少なくとも貴方のような外国の方を蔑んだり罵り、付け狙い犯罪を犯す様な人は居ませんよ、それは恥ずべき行為ですから」

何とも素晴らしい道徳観だろうか、首都には浮浪者もほとんど見当たらずスラム街も無いと聞いたときにはかなり驚かさせたものだ。
「本島への渡航するにはご存じかと思いますが密航しか手だてがありません。
私はそこまでの勇気はありませんがどうしても忘れ島へ向かいたいと言うのであれば途中までは案内します、琉球共和国最北の島は三原島ですがそこからの船での渡航は固く禁じられていますから壹岐か対馬が一番警戒が薄いです、
とは言え琉球共和国側からの渡航は禁じられていますが彼方からほとんど時たま船が漂着することがありますので住人が存在しないわけでは無いようですが…難民の扱いを受け共和国政府保護法によって厳重に管理されていますから…面会も私の立場であっても難しいですね」

大学の教授の部屋に案内されて忘れ島の現状の一端を聞くことができたが私の目標の達成はかなり現実味が薄なっていくを感じて琉球に滞在する期間が長くなればなるほど焦りばかりが募り募っていくのだった。

ホテルでの宿泊費もばかにならないので実家で暮らしているという助教授の物置部屋になっているアパートにお邪魔させてもらうことになったのだがそれも私から言い出したのではなく、
あの人が自ら提案したのに押しきられてしまう形となってしまったことを私は少しだけ違和感を感じつつも好意に甘えることにした。

「いえいえ、お気に召す場所というには何にもないところで、ベットを貸すのは流石に御免なさいですが持ってきてある寝袋で寝起きしてくれる分には大丈夫ですので
…たまに男の人とかいれないと女の人の一人暮らしはなにかと物騒ですので」

そうはにかみながら言われてしまうとこちらとしても無下にしずらいのをあちらは分かってやっているのだろうか…。

その後数日間をかけて忘れ島から移住した2世の世代の方との交流をすることが出来て大体の忘れ島の概略が見えてきた。

1 忘れ島はひとつの島ではなく複数の島々で構成されていた。

2 忘れ島からの移民は50年ほど前から発生しており今ではほぼゼロである。

3  忘れ島に行ったものは先ずもって帰ってこない為琉球政府は渡航を禁止した。

といったことまでは収集出来たが謎めいたことだらけでうやむやになっているのが何とも気持ちが悪い、
移民一世の方ももう平均年齢が上がっていて対話に応じてくれる方は見つからず仕舞いだ。
数週間もすると行き詰まってしまいそうになったある日ことかなり興奮した様子で助教授が部屋に戻ってくるとひどく興奮した様子で戻ってきたので何事かと思ったが

「見つかったんですよ!忘れ島に案内してくれる方が!」 
資金が尽きかけてきた所に我天啓を得たりとはよく言ったものだ。

「私は大学の関係もありますから行けませんが報告をお願いします!!」
一度行けば最後戻ってこれないと二世の方々にも太鼓判を押されたが密航の案内人からは一週間から二週間おきに戻ってくると釘を刺された。

「行くのは簡単なんだが戻ってくる奴がほぼいなくて…
まぁ、どうなっても俺は責任を持たんからな頼むから戻ってきてくれよ?」

漁船に乗せてもらい琉球共和国最北端ではなく私は屋久島と言うところへ連れていかれた。
途中海が嵐のため何日間か動けなかった事もあったが私達は無事に「ありあけかい」まで到達する、ここからは「忘れ島」の領域らしく注意する点が必要らしい、

「詳しくはワシは忘れ島出身ではないからあんま知らんが戻ってきた奴が言っていたのはそこで人に出会ったら返事は全ていいえで済ませろとのことだ」
「戻ってきた人が居たのですか!?」と聞き返すと「昔の話で最近はめっきりご無沙汰さ」
と別れる際に随分と悲しげに密航の漁船の船長は言っていた。
密航は案外と簡単に出来てしまったが船長に言わせると密航を取り締まろうにも琉球政府にそんな広域を完全に監視する程の船を持っていないというのだ。

「忘れ島には近づきたくないのが漁師達の本音だな、別に近づく必要もないし港湾機能が残っていることも無いことは無いが…誰も住んでいないのに何故か設備が生きてるってのはゾッとしない話だぜ?」
ありあけかいから北へ少しいった所で港があったのでここでいいと漁師に告げた。

「そうかい…この島の中心部に行くにゃ五島列島を通過しなきゃいけないが流石にそこは警戒海域だからな、ありあけかい経由が正解だ、降りた港から北西の方向に山地を避けて北上すれば忘れ島のうちの一大都市…何つったかな…フ、フクオカだ
そこに着くぜ、忘れ島が今どうなっているかは俺もわからん。
基本的には忘れ島の国境は機能してないから侵入するには簡単なんだが…出るのがなお前さん本当に行くんだな?
俺は少なくとも忘れ島に行くのは薦めねぇよ、地図も便りも無いのにこんなでっかい島を探索しようなんざ」
琉球の方は皆さん口を酸っぱくして言っていましたから大丈夫ですよ、私は記者ですので一番は自分の得た情報を読者に伝えることが目標であり生き残らなければ何にもなりません。
と漁師兼密航の手助けをしてくれた中年の男性に礼を言って私は忘れ島の土をふんだのだ。
都市部の明かりも存在しないためか満天の星空に息を呑まれながらも私はフクオカに向けて歩み始めた。
50年前の資料を境にして忘れ島の資料は琉球共和国にすら殆ど存在せず過去の事を調べようにも紙の資料からインターネットまで殆どサイトが凍結されているこの島の全貌とまでいかなくとも外界との連絡を遮断した理由くらい聞き出せないものだろうか…

明かりの一つも灯っていない異様に静かな街並みを私は人はいないかとただの独りで歩くのであった。
忘れ島の正体が高濃度の放射線廃棄物に汚染された土地であって人が住めなくなったというようなオチなら私はそのうちに血へどでも吐いて死ぬのだろうななどと琉球の助教授とのやり取りを思い出す、

「資料から何からこーんなに探しても無いなんてぇ!」
「移民の第一世代の方もまるで話したがらないですからね…不思議ですね」
「ぜぇーーったいなんかあるのは確かなんだけどそのなにかが分かればいいですけどねぇ?なーんにももうわかんなーーーい!!」
「飲み過ぎですよ助教授さん、明日は何時に起きられるので…寝てますね…」

酒も入り助教授の下宿先でそんな話をしたな…
何かこの忘れ島の記事で一山当てて祖国へ帰りたいものだが果たしてどうなることだろうか、
胸の中にある大きな不安とそれ以上に忘れ島というこの巨大な未知を手探りで無鉄砲に探すというのは案外と宝島を見つけた少年の様に背筋から電撃が走るようなビリビリとした高揚感に浸りながら私は歩みを進めるのであった。

次回予告 

一人の少女がおり墓守をしている、
珍しい客人に向けて彼女は言った。
「ここにはむかし日出る国という太陽の国があったのですよ…」
ふと空を見上げると春の日差しが僕らの真上に来ている、
何時もなら朗らかにそして暖かく僕を照らしてくれるはずの太陽が悲しげに想えた。

「今ではこの国は忘れ島と呼ばれて久しいのです。
忘れ島…ここは人として何か流れ落ちた者が流れ着き消えていく地
貴方は此処で無くしたものを得るのでしょうか、それとも…」

短編小説の予定ですのでさくっとご覧くださいね。

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