貴方のためのカタストロフ
桃太郎 第1章 (3)
「自己紹介が遅くなって申し訳ない。 私は高橋、高橋緋鞠だ。よろしく、少年」
 薄暗い居間で無表情だが、しっかりと力強く僕に右手を差し出した。
 そんな彼女の手は繊細で美しく、そんな筈はないのですが、僕には陶器か何かでできているように見えたのです。
 触れれば壊れてしまうのではないか… 
 恐る恐るだが、高橋さんの手に軽く触れ、人の手である事を確認して僕の名を告げ、高橋さんの手をしっかりと握り返す。
 僕の手にすっぽり包まれる形で握られた彼女の手はちゃんと暖かかった。
 無表情だが、暖かい彼女は淡々と語る。
「それでだが少年、君の物語をどうやって取り戻すかを考えようか」
 まだ、僕の内側で彼女の手の温もりが冷めやらないでいる。
 僕に物語を取り返す手段がわかるはずがない。それでも考えてみるが、僕の頭の中は、一陣の風に舞い散る木の葉のように、雑多な考えが狂い舞う。しかし、もう考えなくても良いようだ。
「少年、考えて貰っているところ、すまないが、まず先に片付けなければならない事が出来たようだ。 今すぐ裏口から外へ出て左へ進み、真っ直ぐに進めば大きなお屋敷があるだろ、うん、あるな!? 兎にも角にもそこで匿って貰え。 私も後から追う。」
 鬼気迫る表情で、刀を利き手に持ち替えた彼女は、僕に構う事なく語り続ける。
 何か、外にいるのだろうか…
「急げ、わかってるな。大きなお屋敷だから間違えはしないと思うが… 何があっても振ってはいけない。 約束できるか?」
 玄関から視線を外す事無く語る彼女。
 「約束、します」
 「うん、良い子だ。何があっても走り続けるんだ、さぁ! 行け!」
 背中をドンっと押され裏口から外へ出された僕は、何処までも続く闇の中、赤く染まった道を僕は、屋敷を目指して走りはじめた。
          *      *       *
 少年を逃せた事を確認し、再び玄関へ向き直る。
 あの少年は気づいていないのだろうが、この町自体があの子の物語、早く思い出して、自分の物語を。君は消えてはいけない。
 私がここを防いでみるが、あの少年の物語の力は如何せん強すぎる、私だけで倒すのは不可能に近い。 物語さへ思い出してくれれば形勢は逆転するのだが… 
 今はもうあれこれ考えたところで、もう遅い…
 刀の鞘を静かに抜き、構える。
 鬼が、来る。
ドガァァァンと爆発音の後、扉と柱が数本、粉砕されたのを確認し、もうもうと立ち上がる土煙を睨む。
「よお、綺麗なお姉さん。悪いけど、この村の人間は皆、殺さないといけない、だからお姉さんも大人しく死んでくれよ」
 土煙の中を軽快な足取りで、やってくる鬼。
 他の住人を全員殺してきたのだろうか。血の匂いがここまで漂ってくる。
「おぉい、無視かよ。綺麗なのに勿体無いね、お姉さん」
 私が考えている間にも距離はどんどん縮まってゆき、煙が晴れ、鬼の姿が顕になる。
「ッ!」
 そういう事か… ややこしい。
 これではますます勝つ確率が大幅に下がる。
 白い髪、額の角と、らんらんと輝く黄金の瞳、違うのはそれだけ、この鬼は多分、少年そのものだ…
 鬼の少年の持つ刀は不気味な動物を思わせる青黒い光を放っている。
 その刹那、鬼の少年の姿は消え私の背後に斬撃が降る。
「チッ、どんな目してんだよ、お姉さん」
 間一髪で受け止めるがこの速度、キツい。
屋内にいては、不利だ。一瞬で間を詰められる…
 大きく跳躍し、玄関であった場所を抜けて外へ、その間も変則的な斬撃が私を追ってくる。
 流石にこれは厳しい、わかってはいたが、厳しい。息を整える暇すら与えてくれない。
 月光の中で、氷のようにきらめきつつ振り回させる刀の光が言い様もなく恐ろしい。
 このまま押し負ける訳にはいかない。
 受け流す事をやめ、攻めに入る。
 ここで、できるのならば終わらせたい。
「お、やるねぇ、お姉さん。 やっとやる気になった?」
金属音が響き渡り、刀と刀が闇夜の中で火花を散らしながら交差する。
 薄暗い居間で無表情だが、しっかりと力強く僕に右手を差し出した。
 そんな彼女の手は繊細で美しく、そんな筈はないのですが、僕には陶器か何かでできているように見えたのです。
 触れれば壊れてしまうのではないか… 
 恐る恐るだが、高橋さんの手に軽く触れ、人の手である事を確認して僕の名を告げ、高橋さんの手をしっかりと握り返す。
 僕の手にすっぽり包まれる形で握られた彼女の手はちゃんと暖かかった。
 無表情だが、暖かい彼女は淡々と語る。
「それでだが少年、君の物語をどうやって取り戻すかを考えようか」
 まだ、僕の内側で彼女の手の温もりが冷めやらないでいる。
 僕に物語を取り返す手段がわかるはずがない。それでも考えてみるが、僕の頭の中は、一陣の風に舞い散る木の葉のように、雑多な考えが狂い舞う。しかし、もう考えなくても良いようだ。
「少年、考えて貰っているところ、すまないが、まず先に片付けなければならない事が出来たようだ。 今すぐ裏口から外へ出て左へ進み、真っ直ぐに進めば大きなお屋敷があるだろ、うん、あるな!? 兎にも角にもそこで匿って貰え。 私も後から追う。」
 鬼気迫る表情で、刀を利き手に持ち替えた彼女は、僕に構う事なく語り続ける。
 何か、外にいるのだろうか…
「急げ、わかってるな。大きなお屋敷だから間違えはしないと思うが… 何があっても振ってはいけない。 約束できるか?」
 玄関から視線を外す事無く語る彼女。
 「約束、します」
 「うん、良い子だ。何があっても走り続けるんだ、さぁ! 行け!」
 背中をドンっと押され裏口から外へ出された僕は、何処までも続く闇の中、赤く染まった道を僕は、屋敷を目指して走りはじめた。
          *      *       *
 少年を逃せた事を確認し、再び玄関へ向き直る。
 あの少年は気づいていないのだろうが、この町自体があの子の物語、早く思い出して、自分の物語を。君は消えてはいけない。
 私がここを防いでみるが、あの少年の物語の力は如何せん強すぎる、私だけで倒すのは不可能に近い。 物語さへ思い出してくれれば形勢は逆転するのだが… 
 今はもうあれこれ考えたところで、もう遅い…
 刀の鞘を静かに抜き、構える。
 鬼が、来る。
ドガァァァンと爆発音の後、扉と柱が数本、粉砕されたのを確認し、もうもうと立ち上がる土煙を睨む。
「よお、綺麗なお姉さん。悪いけど、この村の人間は皆、殺さないといけない、だからお姉さんも大人しく死んでくれよ」
 土煙の中を軽快な足取りで、やってくる鬼。
 他の住人を全員殺してきたのだろうか。血の匂いがここまで漂ってくる。
「おぉい、無視かよ。綺麗なのに勿体無いね、お姉さん」
 私が考えている間にも距離はどんどん縮まってゆき、煙が晴れ、鬼の姿が顕になる。
「ッ!」
 そういう事か… ややこしい。
 これではますます勝つ確率が大幅に下がる。
 白い髪、額の角と、らんらんと輝く黄金の瞳、違うのはそれだけ、この鬼は多分、少年そのものだ…
 鬼の少年の持つ刀は不気味な動物を思わせる青黒い光を放っている。
 その刹那、鬼の少年の姿は消え私の背後に斬撃が降る。
「チッ、どんな目してんだよ、お姉さん」
 間一髪で受け止めるがこの速度、キツい。
屋内にいては、不利だ。一瞬で間を詰められる…
 大きく跳躍し、玄関であった場所を抜けて外へ、その間も変則的な斬撃が私を追ってくる。
 流石にこれは厳しい、わかってはいたが、厳しい。息を整える暇すら与えてくれない。
 月光の中で、氷のようにきらめきつつ振り回させる刀の光が言い様もなく恐ろしい。
 このまま押し負ける訳にはいかない。
 受け流す事をやめ、攻めに入る。
 ここで、できるのならば終わらせたい。
「お、やるねぇ、お姉さん。 やっとやる気になった?」
金属音が響き渡り、刀と刀が闇夜の中で火花を散らしながら交差する。
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