貴方のためのカタストロフ

朝夏 彗

桃太郎 第1章 (2)

  しかしながら、返ってきた答えはこれであった。

  「……これからどう生きていくつもりなのかな、少年。 君は近々、死ぬぞ。今晩辺りにでも殺られるだろうな」

  こうして、僕の期待していた甘美な答えでは無く。

  あまりにも唐突で非現実的な返答に、僕の粗雑な思考回路では追い付かない有り様で、大きく開いた口は塞がらず、僕の目は先程とは違う別の目で彼女を見つめ返しておりました。

  「で、どうするつもりなのかな、少年。」

  彼女は虚ろな僕に、二つの選択肢を提示し、選んでと、逃げ腰の僕に問いかけた。一つは死ねると、一つは共に生きようと。

  そうして僕は迷うことなく、後者を選んだ。嘘だ、迷いに迷い、前者を選ぼうとする自分もおりました。

  この世界から逃げ出そうと思ってしまいました。

  僕の、僕達の物語を忘れたカラッポな僕なんて、本当は存在すらしていては、いけないんだと。 

  僕の目の前にいる女性は、僕をここから救い出してくれる、僕の救世主メシア なんだって。

  そう、思いたくて、思いたくて、仕方がなくってどうしようもない僕は、結局、前者の死ぬ事すら選べずに、後者を選び、この女性と共に僕の物語を思い出す、旅に出る事となりました。 

  心底意外だったのは、彼女が物語と言う者達を知っているという事と、僕なんかを助ける為に尽力してくれる事だ。

  彼女がいなければ僕は、まだ、何処ぞの街を、彷徨い続けているのだろうか。

   それとも死ねたのだろうか。


  僕、吉備津 命が彼女と接触していたのと同時刻の頃。

  既にこの街は、手遅れだったのかもしれない。

  住人だった人達の残骸がそこらじゅうに転がっており、そこには白髪の少年が最後の老夫婦を艶めかしい顔で見つめておりました。

「鬼ッ…」

  そう、俺はこの懐かしい香りのする老夫婦が今、細い喉笛から最後に絞り出した言葉の通り、俺は鬼だ。

  俺は幸せそうに眠る老夫婦だった物を静かに床に下ろし、虚を眺める。そこにあるはずの者はそこに無く、愛しい者達も、手にかけた。 

  しかし、幸いな事に物語に死は許されない。

  俺の歩く道は己が物語の血に濡れて、赤く 鈍く 染まっている。

  ──── あぁなんと醜い。

          あぁなんと憐れな。

          僕が皆を救うから。

          俺が皆を救うから。

          だから安心して死に続けろ。

  思いっ切り、刀を振り下ろし、飛び散る赤に目を細め、頭に走る黒い良心ノイズ に言い聞かせる。

「俺は正しい」

  そう、俺は正しい。正しいのです。

  誰からも理解されずとも、非難を受けようとも、関係ない。

  俺は進み続ける。

  俺らのただ一つの願いを成就させるために。

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