転移してのんびり異世界ライフを楽しみます。

深谷シロ

9ページ目「ゆえに僕は学習する」

今、僕は宿で本を読んでいる。読んでいる本は魔導書だ。遂に僕は魔法を覚えるのだ。


「タクト、何を読んでるの?」
「あぁリル。これは魔導書だよ。魔法を覚えるんだよ。」


合点がいったようだ。頷くとどこかへリルは去った。食事にでも行くのかもしれない。今は朝だ。朝食を食べていなかったのだろう。僕は朝食は抜きだ。魔導書を読むのに今は必死だからね。


炎、爆、水、氷、風、雷、土、星、光、闇、無の11属性が主属性。その他に多くの副属性が存在している。僕が今、読んでいるのは〈無属性〉だ。何故、無属性を覚えようとしたのか。僕は無属性の汎用性に注目したのである。


無属性は属性を持たない魔法を指す。これは攻撃性のない魔法などが多いため、あまり好まれないが、それは間違いだ。


国家に仕える実力のある魔法使いなどは、無属性を覚えている場合が多い。無属性には、各属性では出せない高威力の大魔法も含まれている。


当然だが、魔法には階級が存在している。
魔力のある者であれば、誰にでも使う事の出来る〈基礎魔法〉
ある程度の鍛錬を積めば使用できる〈中位魔法〉
魔法の素質があり、その上でかなりの鍛錬を積んだ者が使える〈上位魔法〉
大抵の人が使用できないかなりの素質と鍛錬を要する〈特異魔法〉
魔道を極めた大魔法使いなどが使用できる大魔法に分類される〈極致魔法〉
ここまでが無属性以外の属性の魔法階級だ。無属性にはもう1つ上の階級が存在している。極致のその先────要するに実在が有り得ないはずの魔法〈虚無魔法〉
この6つに分けられる。虚無魔法は、史実上の人物でも使えた者は少ない。それだけ難しい魔法なのだ。


魔法とは本来、実在しないものであった。後に『始祖』と呼ばれる人物が虚無から沢山の属性を生み出した。これが魔法である。そして、沢山の属性を生み出した魔法────それが〈虚無魔法〉なのだ。虚無から何かを生み出す魔法。


虚無魔法は、別に〈真なる魔法〉や〈1なる魔法〉、〈原初魔法〉、〈創造魔法〉、〈概念魔法〉、〈神法〉とも呼ばれる。〈虚無魔法〉は、虚無から新たなものを生み出すため、その概念自体をイメージする必要がある。これはとても難易度が高く、成功する確率が天文学的数字にもなる。だから有り得ないのだ。


全ての魔法使いはこの頂点を真なる極致として、太古より魔法の発展に努めてきた。が、未だこの命題を達成することは出来ていないのだ。


僕が魔法を覚えて辿り着きたいのはここなのである。虚無魔法。ワクワクする響きじゃないか。


しかし、無属性の魔導書に書かれている内容は、〈基礎魔法〉では実生活向きの魔法。〈中位魔法〉では強化魔法となっている。本当に攻撃に使えない属性なのだ。取り敢えず強化魔法は覚えようと思う。強敵と戦う時に強化魔法は有用であろう。リルが帰ってきたら試すつもりだ。


因みに『グレイリルザードダンジョン』で使用した【刻印マーク】は〈中位魔法〉である。ダンジョンなどで使う魔法は大抵が〈中位魔法〉だ。


閑話休題。そろそろ読書────もとい勉強に戻るとしよう。


僕は無属性の魔導書を閉じた。大体を読み終えたからだ。小さい頃から読書が好きだった僕はある程度の速読が出来る。1時間で文庫小説が200ページほど読める。これは本を読む者しか分からない例えだろう。誇れる才能でも無いので、わざわざ言い換えるつもりもない。


「炎属性と爆属性はリルの魔法攻撃と相性が悪い。風属性とか雷属性を覚えようかな。」


別に覚える属性に意味がある訳では無い。ただ単に覚えたかったのだ。風遁!とか雷遁!とか言いたいもん。流石に恥ずかしいから言わないけど。理由を付けるとすれば範囲攻撃が多い属性だからだ、とでも言おう。


……タクトは本を読み耽った。1冊の魔導書は見開き1ページがA3のサイズで大きいのだが、さらにそれが700ページほどある。読み終えるのには、速読だとしても長い時間が掛かる。読み終えた頃には、夕食前になっていた。


「ただいま……。」
「あ、リルおかえり。」
「……1日中、それ読んでたの?」
「うん、そうだよ?」
「………すごいね。」
「何、その間!?微妙に溜めたの何でなんだい?教えてくれるかな?引きこもりか何かかと思ったのかな?」
「……」


あ、黙秘権を行使された。どうやらリルは僕のことを変人扱いしたいらしい。恐ろしいよ、全国の読書家を敵に回すとは……!リル、怖い子。


そんな脳内思考が読み取れるはずもなく、リルはベッドダイブした。


「あれ?リルは今日どこに行ってたの?」
「隣の隣の国に遊びに行ってた。」
「……はぁ。」


リルは竜に姿を戻して、他の国まで行ったようだ。隣の隣の国はここから数千kmほど離れている。人間ならば日帰りで行き来できないだろう。ドラゴンだからできること。心配を掛けさせないで欲しいよ。いや、見てなかった僕が悪いけどさ!


「あ、リル。強化魔法試させて?」
「……いいよ。」
「ありがとう。じゃあいくよ。……【身体硬化Ⅲフィジカル・ハーダー】」


ミスは無かった。強化魔法にはそれぞれにローマ数字によるランク付けがある。ランクはIからXまである。算用数字で言う1~10だ。今使ったのはランクⅢだから算用数字でのランク3だ。無事に成功した。


『〈魔導神の加護〉を得ました。〈特別スキル:魔力操作〉、〈特別スキル:無詠唱〉、〈特別スキル:全属性強化〉、〈スキル:無属性強化〉を得ました。〈称号:魔導神の保護〉を得ました。手にいれたスキルがレベル10になりました。』


お馴染みのやつですね。今回も加護を得られたらしい。人生ちょろいですわ。あ、これフラグかも……。などと思うタクトであった。

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