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俺が斬ったの、隣国の王女様らしい……

矢追 参

大魔法祭

 ☆☆☆


 午後の講義が終わり、帰り支度を整えている最中で隣のフィーラが俺の裾をチョイチョイと引っ張ってきた。チラリと視線を向けると、満面の笑みを浮かべるフィーラが口を開く。

「ねぇ、今日こそ街に出かけようよ。私、フェルディナン王国の街を見てみたい」
「……お前なぁ。前に言っただろ、仮にも一国の姫さんなら自分の立場を考えて、大人しく家に帰れ」
「え〜」

 ここ一ヶ月、毎日のようにフィーラは俺を街へと誘ってくる。ダメだと断るのだが、それでも毎日毎日しつこく誘うのだ。全く、毎度迎えにくる黒服の人たちを困らせるなよ。可哀想だろ……。

「別に、私……そこらの人が相手だったら大丈夫だもん……」
「俺に負けた奴が何を今更……」
「むぅー!!」

 フィーラは悔しそうに頬を膨らませ、どこか可愛子ぶって見せる。俺はそんなフィーラを一蹴し、ふと教室の扉近くまで黒服が来ていたのを見て指差した。

「ほれ、お迎えだぞ」
「…………また誘うから」
「ご勘弁を……王女サマー」

 態とらしく戯けて言うとフィーラは頬を膨らませたまま、怒りで顔を真っ赤に染める。眉尻も釣り上がり、怒髪天を突く勢いで俺にその端正な顔を寄せた。

 瞬間……不覚にも心拍数が跳ね上がる。

「…………とにかく!今日は諦めるけど……明日は絶対だからね!じゃ〜」

 フィーラはドタバタとそう言って、脇目も振らずに迎えの黒服たちのところへ向かった。

 フィーラがいなくなったタイミングで、ザッとクラスメイトの視線が俺に向けられるが……俺はそれには全く触れずにそそくさと荷物を纏めて教室を出ようとしたところで、不意に出入り口の扉の前に三人ほど男子生徒が俺の行く先を遮るように待ち構えていた。

 まるで、これから文句でも言われる雰囲気を察した俺はそこの出入り口とは逆側に向かって歩き出す。それを見た男子生徒等の一人が、慌てて言った。

「っ!お、おい!ちょっと待てよ!」

 はて、だーれのことを言っているのか皆目見当もつかない。だから俺はスタスタと歩き、二つある出入り口から教室を出る。それでも、なお後ろから声を投げかけられるが……いやいや、誰に対してか分からないからな。

 肩に手をかけられようとしたタイミングで身体を逸らしたり、とにかく俺に対するアクションすべて華麗にスルーしながら学院の昇降口までやってきた辺りで……ふと、後ろを振り返ると肩で息をしている無様な貴族の子息共がいた。

 愚か愚か、滑稽滑稽。

 俺は最後に内心で嘲笑いながら、貴族子息たちを無視して帰路へと立った。


 ☆☆☆


 王立魔法学院は全寮制だが、こと俺に限っては違う。平民であるということから、学院から徒歩一時間ほどもかかるフェルディナン王国王都の端にあるスラム街……俺はそこから学院に通っていた。

 スラムは俺が生まれ、育った場所だ。いわば、俺の故郷にも等しい。

 スラム街の入り口は一つしかない。王都の賑やかしい街並みに潜む……とある裏路地。そこを真っ直ぐにすすめば、全ての裏にして、全ての貧困を一手に担う王国の闇……スラムに辿り着く。

 俺がスラムへと入ると、まず最初に数人の悪漢達が影から出てくる。そいつらは俺の周りを囲み、俺をこれ以上進めないようにする。

 はぁ……またかと俺は嘆息しつつ、この後に現れる相手に先んじて声をかけた。

「毎度飽きないもんだな……ミラ」

 俺が言うと、スラムにある建物の屋上から……フワッと何者かが俺の目の前に降り立った。そこそこの高所からではあったが、おそらく【ブースト】か【ディフェンス】を使用したことで着地したのだろうと推察できた。

 そして、俺の前に現れたのは……王女のフィーラにも劣らない見目をした美女だ。高身長で抜群のプロポーション……加えてエメラルドの長い髪と、双眸が俺をスッと捉えていた。黒い革で作られたブーツと手袋、そして黒革ジャケットを着た如何にも悪の女幹部的な雰囲気を醸す美女は――ミラ・テキラノード。

 ミラは、スラム街を統括するテキラファミリーのボスだ。つまり、王国を裏から操る影のボス的な女である。

「おう、リューズ!帰ってきたっていうから、迎えに来たまでさ。アタシの出迎え、嬉しいだろう?」
「悪漢引き連れて何言ってんだか……」

 と、俺は俺に向かって「オスッ!お帰りなさいっス!」などと言っている悪漢達にため息を吐く。おい、やめろ……なんか俺が裏ボスみたいじゃないか……。

 はたして、どうして俺とミラがこれだけ親しそうにしているのかというと……それは俺とミラが幼馴染・・・だからだ。ミラは魔女っぽいツバの帽子を悪戯げに人差し指で持ち上げ、口角を吊り上げる。

 ミラは俺よりも少し歳上で20歳だ。とはいえ、姉というよりも手の掛かる妹というのが俺の認識だ。しかも、相当な悪餓鬼である。

「ふふん?こいつらはアタシの家族同然さ……ほれ、さっさと家に帰ろうじゃないかい」
「お前の家じゃなくて俺の家なんだよなぁ」

 と、俺はどうせ聞き届けられないと知っていてもらなお……肩を竦めながらそう言った。

 それから、テレテレと俺はミラと一緒にスラム街にある我が家へと帰ってきた。悪漢達はその前にはいなくなり、今は俺とミラの二人だけとなっている。今更、美女と二人っきりだからと興奮しない。何せ、相手は幼馴染のミラだから。

「さて、そんじゃ今日は肉食べるぞ〜」

 ミラは鼻歌交じりに簡素な煉瓦造りの我が家の棚を漁り、香辛料を塗して保存してある肉を取り出した。ガサツでだらしなさそうに見えるミラだが、これで中々家庭的な奴だ。料理や掃除はお手の物、どうしてスラムのボスやってるのか分からないな……。

 暫く俺はリビングにある椅子に座り、直ぐ目の前のキッチンでコトコト料理をしているミラを眺める。帽子を外し、エプロンを着ている姿は……どっかの新妻にも見える。だから、俺は自然と呟いた。

「なんか、新妻みてぇだな」
「なっ……」

 パリンッ

 ミラが皿を落とし、白い陶器が割れた。ミラが皿を落とすなんて珍しいと思いながら、俺は皿の破片を片付けるべく立ち上がる。

「おいおい、大丈夫か?俺が片しとくから……ん?」

 ふと、そこでどうにもミラの様子がおかしいことに気が付いた。口をパクパクとさせ、頬を真っ赤にしている。視線もあちらこちらを彷徨い、まるで照れているかのようだ。

「なんだ?照れてるのか?」

 なんて、俺が冗談交じりに笑いながら言うと……。

「ッッ!?こんのぉぉぉ……馬鹿ァァ!!」
「っ!?」

 俺は妙な回転の掛かったミラの拳が眼前にまで迫ってきて……咄嗟に首を捻ってそれを回避する。

「ちょっ……お前、今の殺す気か!?」
「死ね!リューズを殺してアタシも死ぬ!
「あ、愛が重すぎる……」
「はっ!あああぁ……愛とか、そんなんじゃないし!?」
「いや、冗談だし……」

 そんな風に、俺たちは賑やかに夕食を食べ終えた。ちなみに、ミラが割った陶器の皿は俺が『創造魔法』で作ったものだ。さすがに、陶器なんて高くて買うなんてできないから自前で拵えている。

 ミラが丁寧に焼いた肉を食べ終えた後は、ミラが珍しく入手したという酒を飲み交わす。あまり酒は嗜まないが、偶にはということで飲んでみたが……やはり、口に合わない。

「お子様だなぁ!リューズは!」
「うっせ……」

 精神年齢餓鬼みたいなミラに言われても全然ダメージないし……うん。

 で……最終的に就寝する際に、俺のベッドにミラが入り込んできたので家の外につまみ出しておいた。酒が入り酔っていたミラは、俺の家の前で餓鬼のように泣きじゃくっていたので仕方なく家に入れてやったが……こんな姿、とてもじゃないがファミリーの連中には見せられないだろう。


 ☆☆☆


「大魔法祭の選抜戦……ですか」
「えぇ、はい。世界各国の魔法を学ぶ魔法使いの卵達……それらを競い合わせることを目的とした、一種の集団戦争の縮図。……大魔法祭です」

 そう……我がクラスの担任であるコーラス先生が言った。

 大魔法祭は年に一度の世界的行事であり、全世界の国々から優秀な魔法使いの卵達が一箇所に集まって行われる……まあ、一言でいえば新しい戦争の一体系である。これで各国の魔法使いのレベルが把握できるというものだ。

 で、フェルディナン王国においてもそれは同じであり……毎年学院の二年から三年の学生の中から、大魔法祭に参加する学生を選ぶ。それが我が学院の恒例行事、大魔法祭の選抜戦だ。

 選抜戦は、各クラスから優秀な三名を輩出して行う。トーナメント戦方式で、上位三名がフェルディナン王国代表として大魔法祭に出場する資格を得るという。これは魔法使いとしてはこれ以上ない栄誉だ。何が何でも出場資格を得るため、成績を頑張って上げる奴が多い。

「それに僕をクラス代表の一人として出場させると……そういうわけですか」
「そういうことです」

 コーラス先生は温厚な笑顔を浮かべ、メガネの奥で瞳を俺に向けてくる。

「…………俺は平民です。俺の出場に反対する輩も出るんじゃないんですかね」
「まあ……そうでしょう。しかし、選抜戦には優秀・・な成績の生徒を出すんだ。その点、君は学年首席だからね。僕は何も心配していないよ」
「首席って……選抜戦の学生発表は来週にある中間試験の成績で決めるのでは?」
「でも、君は一番をとるのでしょう?」

 コーラス先生という男性は、どこまでも真っ直ぐに俺を見つめていった。彼は子爵家の次男であるらしく、身分に対して非常に大きな理解を示している。だから、俺へも他の学生と変わらず接してくれるし、俺はそれを有難いと思っている。

 …………。

「まあ、トップになったら考えておきます」
「うん。それじゃあ、それでよろしくお願いしますね」

 コーラス先生は人好きされそうな柔らかい笑顔を浮かべて言った。





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