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俺が斬ったの、隣国の王女様らしい……

矢追 参

衝突、そして再会

 石畳の道を疾走しながら俺は、背後から迫り来るに対して舌打ちした。

「しつこいっ!」

 俺は悪態を吐きつつ、狭い路地などを駆使しながら逃げ続ける。それでも敵を撒くことは叶わず、敵は尚も俺を追い続ける。

「――――――ッッ!」

 敵は俺の背後で何やら叫んだ。しかし、それはノイズが掛かったように搔き消えて俺には何を言っているのか理解できなった。

「ふっ」

 俺はその場から跳躍……およそ15メートルほど跳び、住宅街の屋根上に乗った。それから、直ぐに駆けると俺が跳び乗った屋根が瞬時に抉れて崩壊した。チラリと尻目に確認すると、崩落した屋根上に敵がいた。片手に美しいカーブ描く刀を握り、その身体には黒いモヤのようなものがかっていてシルエットも捉えられない。奴は俺と目話合わせると間合い詰めるべく屋根を蹴る。

 俺はさらに屋根を蹴り、再び特大ジャンプ……数十メートルの跳躍をするものの奴もそれに合わせて跳んだ。どこまで逃げても奴は俺を追い続ける……こんなことも毎晩のように続けばいい加減ストレスが溜まるというもの。

「いい加減に――」

 俺は刹那……右脚を軸に身体を反転させて迫り来る敵と対峙した。奴はこの時を熱望していたかのように狂喜し、己が握る刀を俺に向けて突き出す。

 屋根を蹴り、勢いの乗った奴の突き攻撃を避けるのは至難だ。鋭さ、速さ、正確さ……どれをとっても恐ろしく的確である。が……俺はその突きをサッと身体を捻ることで掠る程度にギリギリ避ける。

「――――ッ!?」

 奴から驚愕の気配を感じたが、俺は気にも留めずに過ぎ去る奴の背中に拳を叩きつける。

 ズンッと衝撃が突き抜けて、敵の身体は屋根を破ってその下まで落ちていく。俺はそれを見届ける間も開けず、直ぐに駆け出した。

 今はただ……逃げる他俺に出来ることはない。

 だが、やはりというべきか……案の定奴は落ちたところから飛び出てくる逃げる俺を再び追い始めた。

「くそ……拉致があかねぇな」

 奴の回復力は桁違いだ。どれだけダメージを与えても数瞬、数秒の後に復活して俺を追いかける。

 俺が奴に追われ始めたのは一週間前から……それから毎晩のようにモヤを被った謎の敵は俺を殺そうと追い続けている。今までは、ありとあらゆる手段で奴を行動不能にすることでその夜を凌いでいた。

 奴は一定時間過ぎ去ればその日は襲ってこなくなる。逃げの一手……不死身の相手と真面に戦ってもこちらがガス欠になるだけだ。だから、戦闘は必要最低限。俺には逃げる選択肢しかない。

「――ッ!」
「ッぐ!?」

 ふと俺の脇腹が大きく抉られ、血が飛び散る。猛烈な痛みが俺を襲った。

「いってぇ……なっ!」

 俺は脇腹を斬りつけた敵の腹部を蹴り上げ、それで悶絶した敵の頭を掴み上げると、俺はそいつを宙に投げ飛ばした。奴は軽々と宙に投げ出され、目を見開く奴に向けて俺は手のひらを向けて言い放つ。

「【ファイア】」

 己の内から魔力が引き出され、それは事象を改変して俺の手のひらから紅蓮の塊が打ち出される。その業火は敵に命中して爆ぜ、敵は遠くへぶっ飛んだ。

 だが、奴は空中を飛んでいる間にダメージを回復させるとそのまま宙に止まった。まるで重力を無視する動きでフワリと浮かび、その要領でこちらへ向かって滑空してくる。

 俺は本当にいい加減にして欲しいと、流石に我慢の限界に達して臨戦態勢をとる。

「こいッ!」

 そう叫ぶと俺の手の内に奴と同じ美しい曲線を描く白刃が顕現し、直後――奴が振るった刀と俺が振るった刀が衝突し合い、金属音が轟き、鈍く重い衝撃が全身に走った。

「いい加減に失せろ!黒いの・・・!」
「――し――ッ!」

 キンキンッと金属音が鳴る度に俺と奴の剣が交わり、剣戟は苛烈。互いに急所を狙った斬撃と突きの嵐。一切の手加減なく、俺と奴は相対する。

 奴が足を払うように振るった刃を、その場で跳ぶことで回避し、俺は体重を乗っけて奴に刀を振り下ろす。勢いと体重……それだけではない何かが上乗せされた攻撃に、奴は耐えきれずに態勢を崩した。

 俺はそれを見逃さず、好機はここだと空かさず振り下ろした刀を返して敵の身体を斬った……。

「っらぁぁぁ!!」

 過去最高の一振りに確かな手応えを感じ、しかし奴の回復力を考慮して油断せず構え……そして俺は思わず素っ頓狂何か声を上げてしまった。

「……は?」
「……え?」

 それは誰の声だったか。いや、誰の声かは分かった。それは今までノイズとなって聴こえていた奴の声……それが今ははっきりと聞き取ることができ……だから、俺は今の状況がどんな風になっているのか理解できなかった。

「「…………」」

 二人して黙り込み、ただ目の前の相手に目が釘付けとなる。

 俺の目の前には女がいた。腰まで伸びた黒い髪、月の光を受けたように輝く瞳、きめ細かで白い肌、スラリとした身長と長い手足、手のひらにぴったりとしそうな形の乳房が丸々はっきりと見えた。

 そう、見えた・・・

「…………お、女ッ!?」
「い……いやぁぁぁああ!?」


 ☆☆☆


 王立魔法学院はウラヌス大陸のフェルディナン王国にある魔法を専門に学ぶ……学舎だ。元は軍学校として建てられたものだが、今はどちらかといえば貴族の子息女が通うことがメインなところになっている。平民が通うには学費が馬鹿にならない。

 そのため、貴族の中で将来的に魔法使いとして国の役に立ちたいという奴か……或いは示威目的で入学するふた通り。それが王立魔法学院。

 俺――リューズ・ディアーは、その学院の学生であり、将来的には魔法使いを志す者だ。とはいっても、我が身にかかる苦難は多い。例えば、俺は貴族ではなく平民だ。周りの学生からはいびられるし、貴族講師からも嘲笑されている。そんな境遇だからか、当たりが強い。講義も一部貴族講師の講義を受講できない状況で、卒業も危ぶまれている。

 したがって、目下のところ俺は奴らの鼻を折ってやるために常に成績上位である必要があった。

 学院に入ってもう一年……今年は二年で来年には卒業を迎える。進級要件は何とか満たせそうだが、奴らの見返すにはそれ相応の成績が必要だ。

 俺は一年の進級試験を首席で通っている。これを維持継続していけば……と、思っていた矢先だ。進級して直ぐに、俺はあの女に追われ始めた。俺は王立魔法学院では兎角悪目立ちしている。俺のことが邪魔な貴族の仕業かと思っていたのだが……。

 と、俺は昨晩のことをツラツラと思い出しながら学院の廊下を歩いていたところ目の前から何やら行列がこちらへ向かってきていたのが目に入った。

 先頭には綺麗に巻かれた煌びやかに輝く金髪を靡かせ、少し長身な女が歩いていた。豊満な胸は学院の仕立てが良い制服の生地を押し上げており、膝上くらいのスカートからは黒タイツに包まれた美しい脚がスラリと伸びていた。

 ふと、その女の青い瞳が俺に向けられたかと思うとそれは勝気に歪み、行列は俺の前で止まった。

「あらあら、こんなところで何をやっているのかしらド平民のリューズ・ディアー」
「これはこれは……ド貴族のシンセスティア・ローズ・キャメロット様ではありませんか。ご機嫌麗しゅう……んじゃ」
「待ちなさいな!ここは、平民のアナタがこのスーパー貴族たるわたくしに道を譲るのが礼儀というものでしょう!礼儀も分からないのかしらね〜この田舎者はっ!」

 シンセスティアがそう言うと、金魚の糞みたいな行列がクスクスと笑いだす。一匹一匹だと大したこともできないような連中だが、集まると羽虫の羽音のように鬱陶しい。

 クルクルと巻いた髪を、「素晴らしいドリルっすね。穴掘れますね」なんて貶してやりたくなる。そんなことしたら、外野がいきり立つから言わないけど。

「では、どうぞお通りください」
「ふんっ!腰抜けが」

 そう言い放ってシンセスティアが歩き出したところで、たまたま・・・・スッと足が出てしまい……結果シンセスティアは俺が出した足に躓いて無様に前のめりに転んだ。

 その際にスカートが盛大に捲れて純白のパンツが丸見えになり、金魚の糞となっていた男子生徒は頬を赤くして魅入り、女子生徒は慌てふためく。

 無様無様、滑稽滑稽。

 シンセスティアは直様俺に駆け寄り、顔を真っ赤にして俺の胸ぐらを掴む。

「なっなななな、何をするのよ!」
「えーワタシ、ナニモ」
「惚けても無駄なのよ!アナタがわたくしの前に足を出したのでしょう!?」
「はて……」
「――ッ!!」

 もはや声にならないくらい怒ってるらしい。俺は無表情を貫き通し、内心嘲笑しつつ、一礼してこの場を離れた。

 平民の俺が貴族に楯突けば極刑ものだが、シンセスティアに限ってはそんなことはしない。シンセスティアはあれで伯爵家の人間だ。傲慢で高飛車、プライドが高いという欠点があるものの貴族としての誇りはたしかなものだ。

 だからこそ、シンセスティアは成績で平民に負けているという事実が許せず、日夜俺に勝つために勉強に励んでいる。だから、シンセスティアとしては俺に勝つその時までそういう排除行為みたいなのをするつもりはないらしい。その割には、今みたいなちょっかいはかけてくるのでよく分からない。

 そんなこんなで、伯爵家の令嬢であり、成績では俺に次いでの二位となるシンセスティアが何もしないからか、他の貴族も俺への当たりが強いだけで強硬手段はとらない。正直、そこのところはシンセスティアに感謝している。が、やはりウザいのは変わらないので足引っ掛けるくらいは別に構わないだろう。

「さて」

 シンセスティアのパンツを見て、新しい弄りネタも出来たことだし教室にいくかと俺は足を運ぶ。そして、教室に着いた俺は何となく教室内が騒がしいことに気づき、首を傾げた。

 どうしてみんなソワソワしているのか尋ねる友達もいないので、気にしつつも俺は大人しく自分の席に座る。そらから暫くして、うちのクラスの担任講師が教室へ入ってくるなりこう言った。

「みなさん、席に座っていらっしゃいますね。それでは、まず編入生を紹介致します。お入り下さい」

 それ続いて、教室へ入ってきたのは……俺が昨晩、刃を交えた黒髪の女剣士だった。クラスメイト達は彼女の登場に驚愕し、ザワザワする。が、そんなことを気にしている場合でもない。

「なっ……」

 思わず絶句していると、黒髪の女剣士は俺を見つけてその端正な顔立ちに僅かばかり笑みを零すと担任に促され、クラスメイト達に自己紹介する。

「私はフィーラ・ケイネス・アグレシオです!フェルディナン王国の隣国にあるアグレシオ公国から留学してきました!これからみなさん、仲良くして下さい!」

 その自己紹介を皮切りにクラス中が炎上した。それぞれの表情に驚愕が満ち、まさかと口をポカーンと開けている。

 フィーラ・ケイネス・アグレシオといえば……アグレシオ公国の第一王女だ。王女……隣国とはいえ、その位は他のどの家よりも格上であり、口出しなんて同じ王族でもなければ不可能……。

 まあ、正直そんなことすら俺の中ではどうでもいい。問題は、なぜである奴がここにいるということだった……ふと、その俺の疑問に答えるようにフィーラは口を開いた。

「ここには将来のお婿さんを探しに来たんです」

 それでピンっと反応したのは貴族の子息共である。アグレシオ公国第一王女の婿……つまり、次期国王。フィーラに見染められれば一気に大躍進だし、何よりもフィーラのような美人と結婚できるなんて!みたいなことを考えているに違いない。

 しかし、その子息たちの想いを折るようにフィーラは続ける。

「でも、実はお婿はもう実は見つけていまして……」
「「え!?」」

 子息共のあからさまな落胆。

 そして、その答えを求めるように撃沈した子息達はフィーラを見て……またフィーラもその答えを示すように指先を動かす。

 なんだか嫌な予感がする……。

 ゆっくりと持ち上げられたフィーラの指先はある一点で止まり、その先に目を向けると……指の先には俺がいた。



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