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俺が斬ったの、隣国の王女様らしい……

矢追 参

根に持つ王女

 ☆☆☆


 俺は阿鼻叫喚の教室内から核爆弾よろしく隣国王女のフィーラ・ケイネス・アグレシオの手を引き、早々に教室から退去していた。手を握った際、またもクラスメイト達が発狂したり色めきだったりしていたが……いや、今はそんなことよりも重要なことがある。

 俺はフィーラを人気の少ない学院の講義棟裏まで連れて、ここでいいかというところでその手を離して後ろを黙ってついてきていたフィーラへ振り返る。

「ん?もう、ここで大丈夫なの?」

 ここまで来るのに走って来たのだが……男である俺に引っ張られる形であったため女のフィーラ――しかも王女なんて言ったら体力なさそう――なんて思っていたが予想外。フィーラは全く息を上げた様子も無く、どこか余裕を見せていた。

 ふと、俺は昨晩のフィーラとの戦闘を思い出す。

 この世界には魔法という概念が存在する。魔法には大きく分けて五つの種別が存在し……、

『攻撃魔法』
『防御魔法』
『付与魔法』
『創造魔法』
『無効魔法』

 と、大体こんな感じになる。昨晩、俺やフィーラが数十メートルも跳躍したりするアクロバットは『攻撃魔法』に属する身体強化魔法【ブースト】によって可能になる動きであり、刀を無から顕現させたのが『創造魔法』になる。

 俺は【ブースト】で強化されていたからこそ、女の身であれほどの力が出ていたのだろうと思っていたが……そういえばと思い出した。

 身体強化は飽くまでもの身体能力を強化するだけに過ぎない。したがって、普段から身体を動かしていないような奴が身体強化を行っても俺のようなアクロバットができるとは限らない。

 つまり、この女が男の俺並みのアクロバットをしてこれたのは……こんな女の運動能力が並外れているということに他ならない。

 おいおい……単なるお姫様じゃないのか?なんて内心で馬鹿なことを考えたと自分を罵った。普通のお姫様が、毎晩のように男を追っかけ回したりしない。

「おい、アンタ……いったい何のつもりだ?」
「え?何のつもりって?」

 フィーラはすっとぼけたように小首を傾げる。俺が言わんとすることを理解しているはずなのに、これはワザとだと俺は眉を寄せて語気を荒げた。

「クラスであんなこと言えば、ああなるって分かってだろって話だ!アンタ……俺に何か恨みでもあんのか?」
「……?ないかって訊かれると……そりゃああるわよ。だって私……あの時全部見られちゃったもの……」
「あ」

 言われて気付いた。俺がこいつを斬った時、たしか俺はこの女の生まれたままの姿を見てしまったのだ。不可抗力だけど……そこは男として、何となく申し訳なくなってしまう。

「それはまあ……悪かったけど……でも、俺のせいじゃないだろ……あれは」
「ふうん……?男のくせに、言い訳するんだー」
「ぐっ……そういうつもりはねぇ。だが、俺は断固として悪くない!社会が悪い」
「急にどうしたの!?…………まあ、私もそこまで気にしてるわけじゃないからいいんだけどね。あれで仕返しも出来たし」

 仕返しじゃない。あれでは百倍返しだ。正直、この女の裸を見た程度ではお釣りが出てくるレベルだが、それを言ったら次は何をされるか分からないため俺は肩を竦めるに留まった。

 それから暫くの無言……最初に口を開いたのはフィーラだった。

「……何も訊かないんだね。私が、どうしてアナタを追っていたのか……とか」
「別に、訊く必要がない。お前程度が襲ってきたところで、また斬ってやるよ」
「うわっ!失礼しちゃうなー。今度はああはいかないもんっ。次は私がアナタを斬ってスッポンポンしてあげるからね」
「スッポンポン……身も蓋もねぇ。まあ、精々頑張れ……」

 そうは言うが、今はフィーラからそんな敵意みたいなのを感じない。あの黒い靄に包まれていたフィーラは、狂ったように敵意剥き出しで俺を追っていた。何か恨みでもあるのかと思っていたが、どうやらそういうわけでもないようだ。

 フィーラがそんな気配すら押し殺し、俺の寝首を搔こうとしているのだとしても色々と不自然な点もある。一先ず、信用はしていないけど警戒の必要もない。だから、今のところフィーラに対してはプロポーションが良かったなとか、そういう認識しかしていない。

「俺は細かい理由を聞いて、それに配慮してやれるほどお人好しじゃないんでな。自分のことで手一杯だから、お前のことはどうでもいい」
「じゃあ、私のお婿さんの件もどうでもいいの?あれでもそこそこ本気だよ?私は」

 と、今更そんな巫山戯たことを抜かす。ちょっと何を言っているのか分からないが……どうやら、意趣返し以外の意味もあったようだ。だが、こいつが俺に対して恋愛的な感情を抱いていないのは分かる。そこまで俺の脳味噌はお花畑じゃない。

「冗談抜かせ……あんな出会いでお前のことを好きなるわけないだろ。ちょっと見た目が可愛いからって自惚れるなよ。この戯け」
「ひ、酷い!そこまで言わなくてもいいじゃないっ……。あ、でも可愛いとは思ってくれてるんだ」

 どうやら俺ではなくフィーラの脳味噌がお花畑らしい。少し認めただけで、ニマニマと嬉しそうにしている。お世辞で言ったわけではなく、紛れもない本心だが……それでも王女なら言われ慣れてそうなフィーラがこれくらいで喜ぶはずがない。実に安い女である。

「あ、ねぇ……そういえば私、アナタの名前聞いてないや」
「……む、そうだったな。それは……すまん。礼儀を欠いた」
「え?きゅ、急に謝らないでよ……いいから、早く教えてよ」

 俺は己の行動を恥じ、素直にフィーラへ頭を下げるとフィーラは調子が狂ったように慌てて言った。俺は直ぐに頭を上げると、自分の名前を口にする。

「俺はリューズ・ディアー。身分は平民だが……今更、王女様相手に畏る気分でもないからこのままで構わないだろう?」

 俺としては、フィーラの人となりを理解しての発言だった。そして案の定、こいつはそんなことを気にする性質ではなかったようで、うんうんと頷いて微笑んだ。

「うん!改めて……私はフィーラ・ケイネス・アグレシオ。隣国、アグレシオ公国の第一王女だけど今更畏まられても困るし……このままでいいわよ。宜しく」
「ああ、俺からも宜しく」

 そう言い、俺とフィーラは互いに手を出して握手する。女らしい、小さく、細く、だが同時に力強さがフィーラの手から伝わってきた。女らしからぬ手のマメ……昨晩、こいつは俺と同じように刀を握っていた。そして、このマメである。

 相当な努力を積んできた証拠だ。

 俺は目を伏せ、目の前の女との握手を終える。それから、俺はフィーラの月光が宿ったかのように光る瞳を見つめる。奴もまた、俺の目を見て……俺たちは互いに視線を逸らすことなく見つめ合う。

 フェルディナン王国王立魔法学院……何となくだが、こいつとの出会いで俺の中の何かが変わる予感していた。




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