英雄様の非日常《エクストラオーディナリー》 旧)異世界から帰ってきた英雄

大橋 祐

閑話 出会い④

「おー、やっぱりここにいた」

 パン屋で働いてた女の子を見つけた。
 急に居なくなったのでもしやと思いパン屋に来て見ればやはりそこにいた。
 後ろを向いているので、表情までは読みとれない。

「私は今日ここを出ていきます」

「どうしてだ?」

「勇者様には関係ありませんよ……」

 彼女のステータスはさっき見た。昨日から挙動不審だったのでとりあえず調べておいたのだ。

「なあ、俺と来ないか?」

「え?」

「いや、俺と一緒に魔王を倒さないか? ってこと」

「勇者様の提案は嬉しいのですが私のステータスは戦闘向きじゃないので……」

 戦闘寄りのステータスではないことは確かだ。
 なら。

「なら、俺のメイドをしてくれ衣食住はちゃんとするし給料だってあるぞ」

「なんでそこまでするんですか? 勇者様とは会ってまだ二日程度ですよ? どうして私なんかに構うんですか」

 何故か?
 別に大した理由じゃない。
 怖い。

 勇者にとって場違いな感情が今の俺にはあったからである。

「俺はこの世界に来てめっちゃ不安だった。何も知らない場所に放りだされて家族とも離れて」

「だからなんなんですか」
 
 うつむき、振り向かない彼女に言葉を続ける。

「一番不安なのは一人ぼっちてことだ。この人達はいつか俺を殺しに来るかも知れない。だから怖いんだよ」

 俺の目には涙がたまっていた。
 その姿は滑稽極まりないものだった。

「だからさ、俺の味方になってくれ、信用させてくれ、また・・俺を一人にしないでくれ」

 最早それは説得でもお願いでもなんでもなかった。
 小さな子供のわがままだった。

「分かりました。そのかわり何があっても私を裏切らないで下さい」

「おう! よっしゃ、行こうぜイム!」

「私、名乗りましたっけ?」

「あー、パン屋のオッチャンに聞いたんだ! ほら行くぞ」

「ちょっ、どこに行くんですか」

「メイド服買いに行くに決まってんだろーーー」



 勇者と魔物の物語。
 勇者の非日常はとっくに始まっていた。

コメント

  • 伊予二名

    異世界召喚から帰った後の話はちょっと珍しいから、家族との人間ドラマが見られると思っていたのですが、今のところ異世界寄りの要素が多いですねえ。
    家族との和解どころか、義父なんて名前すら出てないような。

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