異世界の領主も楽じゃない〜うちのメイドは毒舌だけど最強です〜

長人ケッショウ

反撃の確信

体は血液が沸騰しているかのように熱く、力一杯に握った拳は自分の爪が食い込み内出血を起こしていた

大量に魔力を放出したせいか体が少し重く、脱力感を感じる
でも、それらの症状を感じさせないくらいに心には憤慨が居座っていた

煌々と輝く魔力によって吹き飛んだティンデッヒはピクリとも動かない
すかさず審判が確認しに行こうとすると、ティンデッヒが俯いたまま立ち上がった
そしてゆっくりと顔を上げ、今まで見たことないくらいの怒りが顔に現れ、こちらを激しく睨みつける

「痛いことしてくれじゃねぇかよぉ!」

鋭い眼光はそのままに長い銀髪を乱暴に掻き乱し、気だるげに手を向け、その手から瞬時に膨大な量の魔力が業火の塊となって放たれた

「ーーっ!!」

業火は容赦なく迫ったが、間一髪回避した

「っぶね……!!」

回避から間髪入れずにティンデッヒから更に威力の高い業火が四、五発放たれる

またもそれをギリギリで躱しティンデッヒの攻撃を警戒しつつ息を整える
右手で顔から滴る汗を拭きとる
右腕が顔に近づくと何かの焼けた異臭がした
変に思い右手を見ると黒く焦げ、肘から先が消え、焼けた腕から骨が見えていた

「う、うわぁぁぁぁぁ!!」

右手から熱く鋭い痛みが全身を駆け巡った
体の穴という穴から汗が噴き出す
痛みに耐えきれず駄々こねる子供の様に地面をのたうち回っていた

「ぐっ、はぁ、がっぁ、がぁぁぁぁ!!」

痛みで精神がどうにかなってしまいそうで、意識が飛ぶのを必死に堪える

「ち、治癒……ま、ほうをか……ければ……」

狂いそうな痛みを堪え、左手に魔力を集中させる
柔らかな光がゆっくりと左手に集まりやがて右手を覆う様に輝く
しかし、いくら魔力を放出しても傷どころか、痛みは消える事が無い

「なん、で、治ら、ない……どうし、て……」



「くっくっくっ、あはははははははははははははははははは!これは傑作傑作、こんな面白い喜劇は見た事が無い!」

ティンデッヒは目の前で起きている寸劇を見て腹を抱え、狂ったように笑い、楽しんでいた
会場でも嘲笑や悲観の声がちらほら聞こえてくる

「……ハル様」

一方でリルは自身の手を手で包み込み、強く握り締め静かに目を瞑り、一縷の望みを祈った

「あははは、いや、お前を勘違いしていた
謝ろう、お前は無能ではない、お前は滑稽な領主だよ」

狂ったように笑いつずけるティンデッヒ
その視線の先にあるものは、あるはずの右手にただひたすら治癒魔法をかけ続ける、俺だった



痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

焼けるように痛む右手はいくら治癒しても治ることはなく、無駄に魔力を消費し続けていた

激痛の渦の中、不可解な事にきずいた
絶好のチャンスで攻撃する気配がないティンデッヒ
派手なパフォーマンスに無反応な観客たち
そして、重症の俺に全く声をかけないリルとシオン
考えれば、考えるだけ不可解な事は増えつづけ

まるで、自分だけ違う世界にいる様な気分がした
……そう違う世界
……違う……世界
……まさか!

ぼんやりとした疑心が明確な確信に変り、心なしか痛みが和らいでいく
まだ少し残った痛みを我慢してゆっくりと立ち上がり、ないはずの右手に魔力を集中させると魔力が流れる感覚があった
現実だと思い込んでいた、その思い込みが痛みや傷を本物に仕立て上げていた

これは、この世界は、ティンデッヒが魔力で作った幻覚世界
だから、いきなり腕が消えたり、傷に治癒も出来なかった

この世界を脱出しなければ勝利は不可能だろう
そうと決まれば、やる事はただ一つだけだ


左手にありったけの魔力を集中させる
煌々と輝く魔力は、自身の心に共鳴するように、強大なものとなっていく

反撃の準備は整った




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