異世界の領主も楽じゃない〜うちのメイドは毒舌だけど最強です〜

長人ケッショウ

最終局面

圧巻と言うべきなのか、流石と言うべきなのか
戦いを終えたリルに何と声をかけたらいいのか
分からず、硬直していた。
正直言えば、リルの殺気に気圧され、今まで抱いていたリルへの勝手なイメージが崩れ、上手く接せそうにない気がする。

降伏したフェンリルを送り出し、リルはこちらに戻ってくる。

何を言えばいい、何と声をかけたら
そう考えているうちに、薄紫の髪の小さなメイドは尊敬する人の元へ一直線に駆ける。

「し、師匠流石です!」

「ふふっ、ありがとうシオン」

「それに比べて僕は……」

「いいのよ、シオンが気にすることは何も無いんだから」

自身の失敗を悔やみ、俯くシオンを優しく撫でる、まるで子をなだめる母の様に

……そうだ
リルはリルだ
深く考える必要も、心配もいらない
いつもどうりで良いんだ

そして2人の元に駆け寄り
「お疲れ様、リル」

「はい、ありがとうございます」

穏やかな笑顔を見せて一礼を
その動作はいつも通り丁寧だった

「次はハル様の番ですよ」

「……あぁ」

泣き言を言えば、今すぐにでもこの試合を取りやめて屋敷に帰りたい
でも、2人が懸命に繋いだ結果を踏みにじる様な無様をできようか、いや出来ない
あ、これ反語表現だ
……それよりも

「なぁ、俺さっきから気になってるんだけどさ……」

「はい?」

「おかしくないか?」

「ハル様だったらいつも通りおかしいですけど?」

「疑問を疑問で返してからの毒舌どうも!」

「いえいえ、お構いなく」

「感謝した覚えないんだけど……ちげぇよ、あの領主の事だよ!」

「と、言いますと?」

「考えてみろよ、1ヶ月前は負けたらあんなに仲間を罵倒しまくってたあいつが、今日は1回も罵倒も叫びもしないんだぞ?
おかしいと思わないか?」

「……そう言われてみれば確かにそうですね……」

「あいつ何を考えてるんだ……」

考えれば考えるほど分からなくなってきた
一瞬あいつのいる方を見ると、やっぱりティンデッヒは不敵な笑みを浮かべていた
まるで、もう自分が勝っているかの様に

「最終戦を行います、選手はフィールドへ」

遂に俺の番が回ってきた

「ふーーーっ」
ゆっくりと深呼吸を繰り返す

「……」
行かなければ、でも、やっぱり足が、体が前へ進もうとしない
手の震えさっきより激しくなり、恐怖が俺の心を包みこむ

行けよ、行けよ、行けよ、行けよ、行けよ、行けって!早く行けって!なんで!なんでなんでなんでなんで動かないんだよ!早くいー

後ろから俺を心地よい温もりが優しく包みこむ

「大丈夫、ハル様なら出来ます」

リルは子をなだめる様に耳元で囁く
俺も前で交差しているリルの手にそっと触れる
深く呼吸し、怖じ気ずいた心を落ち着ける

「……リル」

「はい」

「……ありがとう」

「いいえ」

心地よい温もりが離れて行く
そして、俺の足は自然と前に進んでいった

さぁ、最後だ……

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コメント

  • 長人ケッショウ

    いつも読んでいただきありがとうございます

    1
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