異世界の領主も楽じゃない〜うちのメイドは毒舌だけど最強です〜

長人ケッショウ

最強メイド

目の前の出来事に理解が追いつかず会場が静まるが、刹那すぐさま盛大な歓声に変わる

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!」」」

その歓声を裂く様に

「ちょっと待った!」

歓声は一瞬にして静寂に変わった
声の主は不敵な笑みを浮かべた領主ティンデッヒだった

「この勝負、俺の勝ちだろ?」

「……は?」

一瞬言葉の意味が理解できなかった
「この勝負、俺の勝ちだろ?」だって、間抜けにも程がある
誰が見たってシオンの圧勝だった

「何言ってんだよ!シオンが勝ったじゃねぇかよ」

ティンデッヒはもう一度不敵な笑みを浮かべ

「確かにシオンだっけか?が勝ったのは認めよう」

「はぁ?ならー」

「ただ、そのシオンとやらは元は俺の奴隷だ」

「なっ!」

ティンデッヒはゆっくりと腰を起こして
銀色の顔色かかっている長い髪をかきあげる

「これで思い出したか、なぁアリエル」

髪で隠れていた顔は、片目が眼帯で覆われていた

「俺の目を奪ったお前の事を思うといつもいつもこの目が疼いて仕方なかったよ」

シオンは何かを思い出したかの様に
驚きを隠せず、手足が震えている

「そ、そんなの言いがかりだろうが!」

「だったらそいつの背中を見てみろ、俺の領印があるはずだ」

審判がすぐさまシオンに駆け寄り背中の服をめくると
焼印が痛々しく付いていた

「結果を訂正いたします、この勝負ティンデッヒ様の勝利とさせて頂きます」

「あいつ!これを知ってやがったのか!くそっ!せっかく一勝を、一勝を勝ち取れたのに!もし後一勝でも取られたら俺はー」

「落ち着いて下さい」

頬に冷たく、柔らかい感触があり、その冷たさは心の中で燃えたぎっていた怒りを鎮めて行く

「シオンは仕方ないですが、まだ負けてはいませんよ」

優しい、でも芯を持った真っ直ぐな瞳は、まだ希望を捨てていなかった

「……そうだな」

「では、2回戦を行います。選手の方はフィールドへ」

審判に出場を促されリルはフィールドに向かう
と同時に相手が登場する
相手見えた瞬間に血の気が引いて行くのがはっきりとわかった

「何だよ……あのバケモンは……」

全長はリルの2倍、いや、それ以上かもしれない
綺麗になびく白い獣毛、口元からうっすら見える鋭い牙
見る者を恐怖のどん底につき落とす様な眼光

「始め!」

「さぁ、やってしまえ!フェンリル!」

「がぁぁぁぁぁ!」

白く血に飢えた獣は獲物めがけ一直線に飛び込んだ

「リル、避けろ!」

突っ込んでくる獣をひらりと躱し双剣を構えるが、一歩も動かない
その隙に獣は身を翻し、もう一度飛び込む

「リルぅぅぅぅぅ!」

そう叫ぶと同時にリルは異常なまでの殺気を放つ
突如、獣は足を止めて、獲物を見据えると服従するかの様に、リルにゆっくりと近づき頭をつきだす
本能が言っている、もし飛び込めば確実に待っているのは死であると

服従したフェンリルをそっと撫でるリルは柔らかな笑みを浮かべるいつもにリルだった

「しょ、勝負あり!勝者ハル様の戦士です!」

リルはメイドらしく観客に向かって礼をする
その姿は見る者を圧巻させた

あと一勝で……

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コメント

  • 長人ケッショウ

    いつも見てくださってありがとうございます

    1
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