異世界の領主も楽じゃない〜うちのメイドは毒舌だけど最強です〜

長人ケッショウ

戦火は呆気なく切られる

「ヴォル・イグニール!」
「ミロ・フュドール!」

火と水の二つの対を成す魔法が激しくぶつかり合い爆音と共に白煙を起こす
爆発の熱気はここまで伝わる
白煙の中から、再び男の雄叫びが聞こえ、重なり合う金属音が鳴り響く

「しねぇぇぇ!」

「うぉぉぉぉ!」

現代では到底有り得ないこの光景を俺は忘れる事は無い
そしてこれは今から永遠と見なければならない光景でもある

「これが……戦争……」

「……はい」

「俺はこれをするのか……」

「……はい、そうなります」

「俺も参加するのか……」

「……場合によってはですが……」

「……そうか」

沈んだ気持ちが声に現れていたのか、リルが優しい声で答えてくれる

「がぁぁぁ」

「おぉぉぉぉ!」

物思いにふけている間に闘いの決着がついた
自分が強者だと言わんばかりに血塗れの剣を掲げて雄叫びをあげる男
それを見て一層狂ったように喜ぶ観客
拍手を送る領主たち

「な、なぁにやってんだぁぁぁ!!」

ピタリと拍手喝采が止む
灰色の長髪で、やせ細った男が倒れている戦士に罵声を飛ばす

「てめぇにどんだけ注ぎ込んだか分かってんのかぁ!
なのに負けやがって、ふざけんじゃねぇぞ!!!」

その男は近くにあるグラスや食器などを死んだ戦士に向かって投げつける

「まぁ、はしたないこと。ふふっ、でもあの戦士の死に方は滑稽ね」

「あぁ、テンディッヒ領主は終わりだな」

それを見て嘲笑い、倒れている戦士を卑下する領主達

こんなの間違ってる、人の命はこんな物に使って言い訳が無い
心の奥底から沸々と煮えたぎるものが込み上げてくる
思わず拳を握る力が強くなり怒りで肩が震える
負けた領主はもう動かない死体をまだ罵倒していた

いつのまにか俺はVIP席の先頭にあるマイクまで歩いていたら
そして、マイクを持ち観客に怒りを露わにして叫んだ

「ふざけんじゃねぇぇ!!!!」

会場の空気が一気に凍りつき視線が一斉に俺に向く
蔑んだ視線を後ろから向けられている気がするが憤慨するあまり俺は周りが何も見えなくなっていた

「なぁんだてめぇ!」

「黙れ、カス領主が!」

「な、なんだと!」

「聞こえなかったのかよ、じゃあもう一回言ってやるよ。このカス領主って言ったんだよバーカ!」

「てめぇ、俺は今気が立ってんだ余計な口出しはやめてもらいたいねぇ!」

「てめぇに気を立てる資格なんてこれっぽっちももないんだよ!」

「さっきから、大人しく聞いてりゃたわ言抜かしやがって、てめえ名前を名乗りやがれ!」

「上等だ!俺は神崎晴って言うんだよ覚えとけ!!」

「カンザキ……は、ははっ、お前があのハル・カンザキか。
あははははははっ、こりゃ滑稽だ。あの無能領主が俺に喧嘩売ってくるとは、身の程を知れバカが!」

「はぁ、何の事だ!」

名乗っただけ、特に可笑しい事ではないが、一瞬にして静まり帰った空気が笑いに変わった

「なんだお前自分の悪評さえしらねぇのかよ、やっぱり無能だな!」

気が付けば会場全体から笑いが起きていた
背後の領主達も冷ややかな視線で笑う

「な、何だよ!何が面白いんだよ!」

「あっはははははは!傑作傑作!劇にしたらさぞ面白くなりそうだ」

「てめぇさっきから何言ってんだ!」

「やめてくれ、やめてくれ、もう腹がよじれそうだ。あはははははは」

「くっ……」

「……良いだろう。受けてやるよお前の挑戦を!」

「は?」

「一ヶ月後、サードゲームで挑戦してやるよ」

「なんかよくわかんねぇけど……受けて立つ!後悔すんなよ!」

「それはこっちのセリフだよ……落ちこぼれの領主」

呆気なく戦火を切ってしまった……



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