異世界は神様とともに
第一章 009 「死」
――おかしい。
なぜバルケルは追ってこないんだ?
わざわざ俺を攻撃してきたのに、なんで追ってこないんだ?
罠なのか?
罠だとしても、ミーニスたちの情報をどうやって知ったんだ?
ホープが悩ませていると、おもむろにホープの胸元が光始めた。
(カルトか!?)
(ずいぶんとまぁ悩まされとるな)
(ちょうどいいところに出てきた。ミーニス達は無事か?)
(出てきたそばからその反応か。なぜあの女のことが気になる?あの女には捨てられたのだぞ)
(別にそうは思ってねぇよ。人にはそれぞれ事情があるからな。それに、どんな奴でも助けてやるのが普通だろ)
(そうか。儂には理解できん。3人は無事だ。なんとか戦えておる)
(よかった。でも、早く行かないと)
(お前、もっと気になる事があるのではないか?)
(あぁ、色々とな。わかってるなら一つ一つこたえてくれよ。なぜ追ってこないんだ?あと、なぜミーニスや俺の居場所を?)
(追ってこない理由はわからん。だが、蛇車にいた頃につけられていたのはわかった)
(くそ。まったく気づかなかった)
(お前さん。なぜ疲れないのか、どうして自分にこんなに身体能力がついたのか、気にならないのか?)
(気になるよ。さっき気づいた。ジャンプ力えげつねぇし、足早くなってるってレベルじゃねぇし、体力も。ありとあらゆるものが上がっている)
(まぁ、この世界ではこの程度の身体能力、中の上ほどだがな。だが、スピードはかなりすごいの)
(ありがてぇ。そろそろつくか?)
(まだちょっと掛かりそうだ。それと、あの女等と戦ってるやつはとてつもなく強いぞ。手加減しておるが、それでも技術も力も半端ない)
(俺、勝てるのか?そんなやつに)
(無理だな)
(マジかよ……)
(だが、儂とこのリンクを繋げたまま戦えばなんとかなるかもしれん。儂が相手の攻撃を見極める。リンクしているお前は儂と同タイムでそれがわかる。そこでお前の素早さで攻撃しろ)
(よくわからんが、とりあえず避けて攻撃すればいいんだな。それで勝てるか?)
(かなり厳しいが、可能性はある。せめて魔法が使えればの)
(魔法の名前って、ノーヒントでわかるわけ無いだろ)
(意外と身近に隠されてるものだぞ)
(わからねぇ…………時間食ったな。もっと速く走らないと)
ホープは脚にもっと力を入れ、スピードを上げた。元の世界では考えられないような速さで、ホープはミーニスのもとへ走る。
「ちっ。全く手応えがねぇ。時間潰しにもなんねぇぞ」
「戦っても退屈なら、私達に話ししてくれてもいいんじゃない?これから死ぬとか言っといて、すごい手加減しているように思えるけど」
ミルバはそう言いつつも、剣を握る手を緩めない。
ミルバは剣術に長けていて、力も強い。剣で、相手を抑え込むくらいの事は今までできてきた。それを攻撃魔法に特化したミーニスが援護をする。そしてタルボがサポート魔法で治癒などを行う。仕事をするときはタルボはいないが、3人揃っているときはこの戦法であった。
たが、今3人の前に立ちはだかる男にはちっとも歯が立たない。
「じゃあ、せめて自己紹介をしてやろう。俺ぁ、無の神カルトの第六使徒。ケルロス・スケールスだ」
「無の神の、使徒?」
ミーニスが過敏に反応する。
自分の大切な人達を殺した憎い奴らが今目の前にいる。
「殺す…………」
とても小さな声で囁く。だが、確かな殺意を持って囁かれたその言葉はミルバの耳に届く。
まずい。止めないと、ミーニスが危ない。
瞬時にそう悟ったミルバはミーニスより先にケルロスの方へと走る。ミーニスに悲しい思いをさせた連中への怒りを込めて。
剣を振りかざし、ケルロスへ斬りかかる。
「殺意が、足りてねぇんだよ…………」
ケルロスはミルバの攻撃を腰についている小刀で受け止める。ミルバは更に剣に力を込めるが、ビクともしない。
ケルロスが小刀でミルバの剣をそらし、体勢を崩したところに蹴りを入れる。
「ぐっ!」
ミルバは低い呻きをあげ、蹴りの衝撃で吹き飛ぶ。そのまま地面に着地できずに転がり、先にある気にぶつかる。
「ミル姉!」
タルボが慌ててミルバに近寄り、安否を確認する。
呼吸はしているが意識がない。
タルボは治癒魔法をミルバにかけて応急処置をした。
「あーあ、めんどくせぇ。殺すなって言われてるけど、もう我慢の限界だ。せいぜい足掻いてくれ」
ケルロスは背中の剣を抜き、殺意に溢れるミーニスの方に剣を向ける。
そして足を後ろに引いて、構えた。
「あなた達にとって、弱者は殺す価値すらないのね……この殺意もすべて無意味。いまここで生き残れるなら、強者になってあなた達を一人残らず殺したいわ。でも、それもできない。仇すら取れないまま、私達は死ぬのね。正義のヒーローがいるのなら、助けてほしいわ…………」
「永久(とわ)に眠れ……」
ケルロスがミーニスの言葉を最後のまで聞いてからそう呟き、剣を振り下ろす。
そこまで見たところでミーニスは目を閉じた。
もうこの目を開くこともなく、光を見ることもないのだろう
死んだら“無”に行くんだよね。
怖いところなのかな。
ミーニスはそこまで考えたところで気がついた。
自分が斬られていない事に。
恐る恐る目を開いた。
「よぉ、ミーニス。ギリギリセーフ、かな?」
正義のヒーローがいた。
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