二重人格の主
6
 いつまでも、楽しい時間は続かない。
 楽しいことには、必ず終わりが来る。
 そんなこと、分かっているのに……
 俺は、願わずにはいられない。
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 風邪を引いてから一週間が経った。
 主と一日中ずっと一緒に過ごす期間が終わるまで、あと一週間半となっていた頃。
 この本丸では、雪が降っていた。
 外からの冷気が、僅かに空いたふすまの隙間から流れる。
 だが、俺に届くはずの冷気は、ストーブによって遮られていた。
(明るい……オレンジ色?)
「あ、長谷部さん、起きちゃいましたか?」
「主……?主が先に起きているなんて珍しい。何かあったんですか?」
「ふふ……。実はですね、雪が積もっていたんですよ!私、気になって触っちゃいました。」
(ああ、いつもより寒いと思ったら、雪が降っていたのか。)
 布団をかぶっていない顔が冷たい。
 俺は温かい布団の中に包まれていたいと思う心を振り切り、起き上がる。
 かすかに当たるストーブの熱が、少し冷えていた俺の手をじんわりと温めた。
「少し手が冷えてしまいましたから、ストーブをつけたんですけど。…起こしちゃいましたね。」
「構いませんよ。それより、ストーブをつけるの大変だったでしょう。どこか怪我したりしていませんか?」
「大丈夫です。いつも長谷部さんのつけてる様子、見てましたから!」
「そうですか。それなら良かった。」
 無邪気に笑う主の姿に、俺は安心する。
(ストーブをつけるのは、意外と難しいからな…。怪我していなくて良かった。)
「そんなことより、ご飯を食べて早く雪合戦したいです!」
「そうですね。朝餉を食べに行きましょうか。」
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 朝餉を食べ終わると、主は走って中庭へ向かう。
「綺麗な雪を……。こうして丸めて……えいっ!」
 主は俺に向かって、雪玉を投げる。
(ふふ、主……。俺はこれでも、起動には自信があるんですよ。)
 俺は雪玉に触れる寸前で避ける。
「むぅ、お強いですね……!皆の者、集え!」
 そして、一緒に主と遊んでいた短刀が、俺に向かって雪玉を投げる。
 四方八方から来る雪玉は、流石の俺でも避けられない。
「……。やりましたね〜?」
 俺は、短刀達や主に向かって、仕返しの雪玉を投げる。
 投げた玉は短刀にぶつかり、綺麗に割れる。
 そしてまた、短刀は俺に投げ、俺は雪玉を投げ返し……。
「みんなー!!ご飯できたよー!!」
 と、光忠に言われるまで雪合戦し続けていた。
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「今日は、畑当番の日ですね!私も、お手伝いさせていただきます!」
 今日も今日とて、主は俺に優しくしてくださる。
 他の刀剣より優しくしてくださることに、少し優越感を感じつつ、あと三日ほどでそれがなくなってしまうのかと思う不安を抱えていた。
「……ありがとうございます。」
 俺が了承を伝えると、主はニコニコと作業を始めた。
 かじかむ手に息を吹きかけて作業をする健気な主の姿に、俺は笑みをこぼした。
「…どうかされましたか?」
「いえ、なんでもありませんよ。」
(いつまでも……こんな楽しい時間が続けばいいのに。)
 そんなことを考えているとき程、時間は刻一刻と迫ってくるもので。
 気づけば、主と一緒に過ごす時間は、あと一日となっていた。
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