絶生

烈空醒

3245日

何も見えない。暗闇ばかりだ。どこを歩いても、どこにも辿り着かない、自分しかいない世界で、永遠に終わらない旅、     
  そもそもなぜ俺はここにいる?この悪夢はどれくらい続いている?
  分からない分からない分からない分からない分からない
これからずっと深い深い水の底を彷徨い続けるしかないのか、そんな矢先、深い闇の中に、すっと一陣の光が差し込み、俺は何も考えずにその光に手を伸ばした。とにかくこれからの希望にすがるしかなかった。この悪夢から抜け出すために.....
 光を掴むと、そこには驚きと歓喜に満ちた男の顔が目の前にあった。

  「ゆ、ゆうま!、優真、俺だ、俺が分かるか?!先生、ゆうまが、優真が目を覚ましました!!」

  父親と思われるその男は、そう言って部屋を飛び出していった。

  「なんと?!!優真君、ここがどこか分かるかい?」

  「え、え、と、、その、お、俺は、あり、むら、ゆ、う、ま。」

 「そうだ、お前は優真だ、俺が誰か分かるか?。」

  「と、とう、さん?」

  「よかった、本当によかった、」

  涙を流す父親を見て、俺はひどく困惑した。
  自分がなぜ病院のベッドで寝ていたのか、分からなかったら 。
  (そうだ、確か俺はビルの屋上から落ちて、あれ?なんでビルから落ちた?確か、えっと、うぅっ!)

思い出そうとする程、頭に白いモヤがかかり、ひどく頭痛がした。これ以上思い出すのは今は無理だった。
立ち上がって歩こうとしたその時、足がもつれ体を床の上に強く打ち付けてしまった。心配そうに駆け寄る父と医者の様子に、またも困惑した。

(なぜ歩けない??俺の体はどうなってるんだ?)

その瞬間、優真の脳裏に最悪の仮説が浮かび上がった。
 
「なぁ?!?俺は一体どれくらい寝ていたんだ?!?」

 その問いに対し父は、覚悟したような、どこか絶望した表情を浮かべて静かに答えた。

  「今は、2027年11月12日、お前は、あの日から9年間眠っていたんだ、そのうえ....」

感極まって涙を流す父に代わり、医者が俺に更なる追い討ちをかけた。

「...........」

それを聞いた瞬間、現実が受け入れられなかった。まだ夢を見ているのではないかとさえ思った。目の前の世界がガラガラと音をたてて崩れていくようだった。とてつもない虚無感が全身を襲ってきた。

「う、うそ、だろ」

3245日とは、9年の合計日数のこと。

俺はその膨大な時間と共に失ったものの大きさを、ただただ呆然と受け入れるしかなかった。


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