Dランクの無能力者

皐月 遊

1話 「無能力者」

2030年。 日本は大きく変わった。 少し前までは行われてなかった"人体実験"が活発に行われるようになったのだ。
その人体実験の目的は………

能力開発だ。

能力。 それは、普通の人間には決して使うことのできないもの、架空の世界の話だと思われていた。 だが、ここ数年で科学力は大幅に進化し、人工的に超能力者を作ることに成功したのだ。

能力と言ってもいろいろある。 有名なものは、発火、放水、透視、透明感などだ。

だが、この能力開発には1つ問題がある。 
それは、能力が開花するのは10歳から25歳の間のみ。
という点だ、もちろん、この間に能力が開花すれば25歳以降も能力は使える。 だが、能力が開花しないまま25歳を越えれば、二度と能力は開花しないのだ。

そこで、日本政府は10歳から25歳までの若者達を集めたある巨大な実験施設を作った。
その施設は、巨大な街で、周りは壁に覆われ、外出する際は何重もの審査が行われる。
だが、その中にはたくさんの学校、会社、ファーストフード、レストラン、ホテル、スーパー、コンビニなど、様々な建物がある。

しかも、そのどれもが高レベルなものだ。 そして、この街にいるものならその店のものを安く買う事が出来る。
学費も安い。 だが、学校のレベルは高い。 

そんな実験施設の街を、皆はこう呼ぶ。


楽園パラダイスと。

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「……はぁ…またDランクかぁ…」

楽園内の私立楽園第三高校に通う黒髪の普通の高校二年生の俺、神田春馬かんだはるまは、自身の手で持っている紙を見て帰り道を歩きながら呟いた。
俺の手にあるのは、能力者のランクを表すもので、そのランクで優遇度が変わってくる。

1番上がSランク。 Sランク能力者は、簡単に言えば最強だ。 だが、Sランクの能力者はこの楽園に5人しか居ないらしい。 まぁ、会ったことないけどな。

そしてその下にA、B、Cと続いていく。 だが、今回俺がもらったDランク通知。 これは最悪だ。
Dランクとは、なんの能力も持たない者、つまり、無能力者を意味する者だからだ。

「はぁ……小5から能力開発続けてきてDランクって…才能ないのかねぇ…」

最近では中3で楽園に来た奴が5日で能力開花させてたしなぁ…それを聞いた時はマジで落ち込んだ。

「なになにお兄ちゃん、またDだったの? まぁ落ち込まないでね!」

まぁ、その5日で能力開花させた奴が今隣にいるんだけどな。
こいつの名前は神田春香かんだはるか、中学3年生。 俺の妹だ。 髪色は黒で長さは背中まで伸ばしている。
ランクはB。 まぁそこそこのランクだな。 Dが言うのもおかしいけど。

「…うるせぇよ…いきなり楽園に来やがって…」

「だってさ! 能力使ってみたいじゃん? お母さんに頼み込んだよー、お兄ちゃんだけずるいし!」

「あっそ…能力使えてよかったな」

「うん! まさか浮遊能力だとは思わなかったけどねー」

そう言って春香は俺の横で実際に浮いてみせる。
そしてそのまま俺の上をグルグルと飛び回る。

……はぁ…自慢のつもりだろうなぁ…

「…やめろ春香。 パンツ丸見えだぞ」

「えぇっ!?」

そう言うと、春香は顔を真っ赤にしてスカートを抑えながら着地した。
そして赤面したままゆっくり歩き出した。

…ふむ。 ここはもっと攻めてみるか。

「…春香…お前さぁ、中3なんだから白じゃなくてもっと色っぽい下着を…」

「この変態!!」

春香はまた浮くと、そのまま猛スピードで俺に飛び蹴りをかまして来た。
俺はそのまま地面をゴロゴロと転がってしまう。
いてぇ……こいつの飛び蹴りまじで痛いんだよなぁ…

「それじゃあ私の寮こっちだから帰るね! バイバイ変態お兄ちゃん!」

そしてそのまま走って中学生の寮の方へ走っていった。
俺はゆっくりと立ち上がり、溜息をついてから歩き出した。

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あれからスーパーで買い物をし、俺が住んでいる格安のアパートに帰ってきた。 本当は寮に入るべきなんだが、俺にとってはアパートの方が安いからアパートに住んでいる。

この楽園は、能力者にとっては楽園だろうが、俺みたいな無能力者にとっては地獄でしかない。

街を歩けば指を指されて笑われ、いつも差別の対象。
なにかを言われれば従わないと能力で痛めつけられる。

そして、無能力者には割引は適用されない。 Cランクからは施設や食品が格安で利用出来るが、Dランクの奴らは割引は適用されず、外と同じ料金を払わなければいけない。

つまり、Dランクは楽園にいる価値はないと言うことだ。
だから俺はこの街が嫌いだ。 だが、この街から出ようとは思わない。
俺はこの街でやらなければいけない事がある。

だから、耐えなければならない。

「……あ、卵買い忘れた…もう一回行かなきゃなぁ…」

部屋に入って冷蔵庫を見ると、卵が一個しかなかった。 仕方ないので買ってきたものを冷蔵庫に入れ、また外に出た。

スーパーに向かって歩いていると、歩道の真ん中に座っている3人の男達がいた。
ガラの悪い奴らだ。 こう言うのは黙ってスルーが1番。 と思って通り過ぎようとしたら、俺の足が少し男の背中に当たってしまい、男はバランスを崩した。

……やっべ…

「あぁ? てめぇ何しやがんだ!」

「い、いや! すみませんちょっと当たっちゃって!」

「わざとだろ? わざとだよな? あぁ!?」

「わざとじゃないですよー! ははは…」

うわめんどくせぇ! なんだよ見逃してくれよ…

いつの間にか俺は3人の男に囲まれていた。 周りの奴らは見て見ぬ振りをして通り過ぎていく。

そして、2人の男が俺の両腕を掴み、目の前の男が俺の顔に右手を向ける。

「ガキがよぉ、ちょっとお仕置きしてやるよ!」

「っ!? ーーーっ!」

あれっ? 息が出来ない…? 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい!!

「はい終わり!」

「ガハッ! はぁ…はぁ…」

「ははははは! どうだガキ、俺の能力は空気を無くす能力だ! それをお前の顔の周りに使った!」

…空気を…なくす…? こいつも能力者かよ…なんで、こんな奴が能力者で、俺が無能力者なんだ…!

「んじゃもう一度だ」

また、空気が無くなる。 そう思っていると、突然、目の前の男が消えた。
いや、横に飛んでったと言うのが正しいか。

男が飛んでいく直前、物凄い突風がきた。

「アンタ達。 3人で1人を囲んで恥ずかしくないの?」

女の子の声が聞こえ、首を声の方に向けると、銀髪の肩までの髪の少女が立っていた。
中学生くらいか? 背の高さは春香と同じくらいだ。

「あぁ!? なんだガキ!」

「うるっさいわねぇ…"吹っ飛べ!"」

また、さっきと同じ突風がやってきた。 その風により、俺を掴んでいた2人の男が後ろに飛ばされた。
銀髪の少女は俺の横に来ると、俺の身体をジロジロ見る。

「…怪我はないわね」

「…あ、あぁ、ありがとう」

「どーいたしまして」

気が抜けるような返事をすると、銀髪の少女は3人の男に近づいていき、3人の男を見下す。

「さぁ、今すぐここから消えなさい。 さもないと、また飛ばすわよ?」

「が、ガキが調子にのるなよ! 俺たちは全員Bランクだ! テメェなんかに負けるか!」

「へー、Bランク。 Bランクなんだー。 へー」

銀髪の少女は馬鹿にしたように言うと、3人の男は怒ったのか、一斉に少女に襲いかかった。
だが、少女の周りに風が集まり、3人の男を纏めて吹き飛ばした。

3人の男は怯えながら少女を見上げる。

「自己紹介がまだだったわね。 私は有栖川美羅ありすがわみら。 風のSランク能力者よ」

え、Sランク…能力者…? あいつが? あんな女の子がSランク能力者?

それを聞くと、3人の男は悲鳴をあげながら走って行った。
そして、女の子…有栖川は俺の前に来る。

「アンタ。 弱いんだったらあんな奴らに絡まない事! いい?」

「い、いや…ちょっと足が当たっただけなんだが…」

「あ、そうなの? ならあいつらが悪いわね。 でも、今回は私が通りかかったからいいけど、次からは気をつけなさいよ?」

「あ、あぁ」

「それじゃっ、私行くから」

そう言うと、有栖川は来た方向に歩いて行ってしまった。

「Sランクか…」

俺なんかとは住む世界が違うんだろうな……
Sランク。 正真正銘最強の能力者。
実際に目で見ると、ほかの能力とは比べ物にならねぇな。

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あの後、スーパーで卵を買い、暇だから散歩をしていた、ここら辺は人通りがまったくない。

この辺りはきた事なかったな。 確か…この辺りは使われなくなった廃工場があったっけ。
…ま、俺には関係ないけどな。

「…だ…か…!」

「…な……でも……つか……えるんだ!!」

…ん? 今、なんか聞こえたか…?
いや、そんな訳ないよな。 こんな場所誰も来る訳ないし。

「誰か…! 助けて!」

「! やっぱり聞こえる! 方向は…廃工場の方か!」

俺は、廃工場の近くにある柵を乗り越え、声のした方へ走る。

確か、この工場は2年前に老朽化によって使用禁止になったと聞いた。 だが、全然老朽化してるように見えない、むしろ綺麗なくらいだ。

周りにはクレーンや鉄骨が無造作に置かれている。

ガコンッと、突然廃工場の中から音が聞こえた。 無人なのに音がするわけがない、つまり、廃工場の中に誰かがいると言う事だ。

扉を開け、建物の中に入る、当然だが電気はついてないので暗い。

足音を殺して歩いていると、前からドタドタと走って来る足音が聞こえた。
誰か来る…!

いつでも走れるように構えていると、足音の正体が見えた。

「きゃっ!?」

「…お、女の子…?」

足音の正体は、金髪の長い髪の女の子だった。
女の子は、俺を見て一瞬驚いたあと、俺の手と足をジロジロと見た。

「ね、ねぇ君! 何でここにいるの!?」

「え、こっちから助けてって聞こえた気がしたから…」

「あー…あたしのせいかぁ…」

そこで、俺はある事が気になった。 それは、この女の子の服装だ。
この子が着ているのは洋服でも和服でも制服でもない。 
教会の人が着るような、礼装? を着ている。
…日本人じゃないのか?

「いたか!?」

「いや! こっちにはいない!」

「と、とにかく逃げよう! 君を巻き込むわけにはいかない!」

そう言うと、女の子は俺の手を引っ張って近くの階段を駆け上がった。

「お、おい! あんた、一体何者なんだ!?」

「言えない! でも、捕まったら確実に殺される身って事は教えとくよ!」

「殺っ…!?」

こんな軽々しく殺されると言うなんて、普通の人間じゃない。
年齢は俺と同じくらいなのに、一体どんな人生を送ってんだ?

「とりあえずこの部屋に入るよ」

勢いよく扉を開け、部屋の中に入ると、女の子は膝をつき、両手を合わせ、目を瞑る。

「主よ、我々を見守ってくださっているのならどうか、わたくしたちをお護り下さい。 ーー存在消滅デリート!」

すると、一瞬だけ扉が薄く光った。 そして女の子は目を開け、立ち上がる。

「さて、これで30分くらいは見つからないはずだよ。 その間に、どうやって逃げるか考えよ!」

「今何やったんだ?」

「ん? 魔術だよ。 この扉の存在を消したの。 だから向こうには気づかれないよ」

「ま、魔術…?」

「うん! …あ、そういえばこの街の人たちは魔術を信じてないんだっけ?」

確かに、テレビとかで見る偉い人は「奇跡なんてものはない! 全ては科学で証明できる!」
なんて言っているな。

「いや、信じるよ。 魔術なんて初めてみたよ」

「! そっか! 君変わってるねー」

「うるせ。 んで、どうやって逃げるんだ?」

本題に入ると、女の子は腕を組んで考えだす。
俺も一応考えるが、肝心の相手がどんな奴か分からないので何をすればいいか思い浮かばない。

だが、魔術を使えるこの子が逃げるくらいだ、相手も普通じゃないだろうな……

「んー…ぶっちゃけね? ここに逃げ込んだ時点で100%逃げられないんだよね」

「………はぁ!?」

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