世界がゲーム仕様になりました

矢崎未峻

やるべき事

「で、さっきから後回しになってる話ってなんだよ?」

「・・・話逸らしたのはお前らだろ。まあいいや。俺少し前、出発直前に気絶したろ?その時に見た夢が、そこで伸びてるクズに突き飛ばされた南雲が、さっき倒した魔物に殺されるって内容だったんだ」

「ちょっと待て。誰がお前の夢の話しろって言ったよ?」

「バカね。その夢が現実に起こったっては、な・・・し?」

「待ってよ。それが本当なら、聡樹は、黒鉄がその夢を見てなかったら今頃・・・」

 話の筋を理解した途端、みんな黙り込んでしまった。
 だがそれも当然の反応だろう。むしろ行動できた自分が不思議なんだ。

「って事だ。でもまあ、助かったんだから南雲の事はもう良いんだ」

「ちょっと!そんな言い方「早苗」

「だって・・・」

「いいから。悪いな黒鉄。お前のおかげで命拾いした、ありがとう。で、本題は?」

「近い将来、多分数ヶ月後。白亜が死ぬ」

「・・・ぇ」

「悠、お前!冗談でも言っていい事と悪い事があるだろ!?」

「じゃあ聞くが、お前は俺がこんな事言いたくて言ってると思うのか?冗談で言えると思ってるのか?」

「んなこと思ってねーよ!でもな、幾ら何でもそんな事信じられるかよ!ありえねぇだろ!?」

「そうよ。結衣が死ぬなんて、いえ、そんな予知や予言みたいなこと、あり得ないわよ」

 まあ、そうなるよな。俺だって信じたくないさ。なんだったらまだ何処かで疑ってる自分がいる。そんなはず無いって証拠を探そうとしてる自分がいる。
 でもな、そんなはず無いって証拠は見つからないけど、その可能性が十分あり得るという証明がたった今立証されたんだ。
 ・・・信じてなくても、信じるだろ。それに

「こんな世界になったんだ。今までの常識なんてクソ食らえだ。あり得ないなんて事は無い、か?」

「ああ。さすが、本当なら死んでる人間は言う事が違うな」

「伊達に助かってねーよ。それくらい気付けるだけ、みんなより冷静だ」

「南雲は今、俺と似たような精神状態なのかもな」

「ん?混乱とか動揺とかがキャパオーバーで、一周回って冷静になってる状態のことか?」

「そう。ただ、俺はもう一周回ってる」

「oh・・・ご愁傷様」

「あははは、はぁ。まあなんだ。そんな訳だから、俺は自分の見たものを信じるよ。そんで、どの道にも辿りつかないよう違う道に進めるだけの力をつける」

「ダメだよ」

「言うと思った。もう抜けるなんて言わないって約束したろ?だから言わないよ。その代わり、多少の無茶は許容してくれ」

「いや」

「そっか。なら、勝手に無茶するだけだ。最初から許してもらえるとは思ってなかったしな」

「ダメだよ!黒鉄君が無茶するくらいなら、私は大人しく死ぬ!だって、黒鉄君の夢だとそれでみんなが守れるんでしょ?」

「だから無茶すんだよ」

 そうじゃないと、アレを見た意味がない。
 そうじゃないと、あの世界線の俺が報われない。
 そうじゃないと、未来の俺に顔向け出来ない。
 だってそうだろ?予知夢でも何でもなく、アレらは実際に未来で起こるかもしれない可能性の全てなんだから。
 そう、アレは、これからの俺の行動次第で分岐するパラレルワールドの未来なんだ。
 そしてどの分岐でも、白亜は生存していない。
 当然だ。未来の俺が見せてくれているんだから。白亜が生存している世界線の俺には、無意味な行動だ。そんな無意味なことを、他でもない俺自身がするわけが無い。
 だから

「な、ちょっと待ってよ!」

「結衣、諦めて。今回は私も悠に一票よ。それに今の悠は、誰にも止められないわ」

「だな。おい悠、無茶するにしても死ぬのだけは許さないからな?」

 だから

「死なないし、死なせねーよ。白亜が死ぬなんて未来、"この"俺が消してやる」

 今度こそ、あの分岐点でアイツを倒すんだ。
 ・・・とは言ってもなぁ、ザッと見積もって未来の俺は今の俺の数倍の強さ。アイツはさらにその数倍の強さだ。
 未来の俺がどんな風に強くなったのかは全く分からないけど、俺は俺の出来る限りで強くなるしか無い。

「決意固めてるとこ悪いけど、この後どうするよ?」

「・・・どうしよ?何も決めてないわ」

「じゃあまず、いいか?」

 無言で頷いて続きを促す。

「おれと早苗はどうするのが正解だ?」

「どうって?」

「予定通りお前らと別れるのが正解か、このままお前らとパーティ組むのが正解か」

「別れるのが正解だ。悠の話だと、時間を無駄に出来ない。だから、出来る限り戦闘経験を積んだ方が良い。そのために人数は少なくしないと」

「分かった。別行動だけどおれも協力するから、具体的な時期が分かったら教えてくれ」

「ああ。サンキューな」

 黙ってる女性陣が怖い。特に白亜と上月がやばい。
 白亜はまあ、分かる。相当勝手なこと言ってる自覚はあるし、白亜が嫌いそうなことばっかりだったし。
 でも上月はなんで?意味分かんないんだけど?

「っておい、南雲。大丈夫か?顔真っ青だぞ」

「ん、ああ大丈夫。ようやく死ぬ寸前だった現実を受け止めただけだから」

「そ、そうか。じゃあとりあえず、ここで一休みするか」

 多分、俺も近いうちに同じ状態になるから。
 とまあ、予想通り色々現実を受け止めて、というより夢=未来だという事実を受け入れて、複雑な心境になっております。
 具体的な時期はなんとも言えないが、アイツを越えるのに時間が圧倒的に足りない事が判明して、正直めちゃくちゃ焦ってる。
 この数日でルーン魔術の基礎の基礎はできるようになったが、あと数ヶ月で魔術中心に強化した未来の俺には絶対届かない。
 逆に肉弾戦に特化したスタイルならば、近距離中心の未来の俺を越えられる可能性がある。
 どちらもこなすタイプの未来は、1番中途半端な結果になってるな。
 魔術中心のほうがいい線いってるパターンが多いけど、良い時と悪い時が極端すぎてあまり参考にならない。
 となるとやっぱ近距離戦闘か。夢で見た未来も、近距離戦闘が1番安定してるし。
 近距離7割、魔術3割だな。
 魔術は最悪未来の俺のを真似するしか・・・ダメだ。肝心なルーン文字や魔法陣がぼやけてて分からない。
 近距離はひたすら経験を積むしかないな。どれだけ未来の俺を参考にしても、反応出来なきゃ意味がない。
 よし、まとまってきた。

「ふぅ〜」

「悠、平気?」

「ああ。だいぶ落ち着いた」

「そう」

 どうやら心配かけてたみたいだ。
 こんな世界になってから、心配かけてばっかりだな。まあ半分は突然見せられる未来のせいなんだけどさ。

「ねぇ黒鉄君」

「なに?」

「死なないよね?」

「もちろん。死ぬ気なんてないよ」

「ほんと?」

「なんだよ、嘘ついてると思ってんの?」

「茶化さないで。黒鉄君の言う未来で私に代わって、黒鉄君が死ぬなんてこと、ないよね?」

「無いよ。白亜は死なせないし俺も死なない。そのために命以外の何かは賭けるかもしれないけど」

 俺に賭けられるものがあれば、だけどな。
 賭ける、代償、か。・・・試してみる価値はありそうだな。

「命以外の何かって何?」

「さあ?悪いけど、そこまで考えて言ってないよ」

「何も、賭けないのが1番だよね?」

「そうだな。出来る限りそれを目指すつもりだ」

「・・・分かった。私も頑張る」

「頑張るって、何を?」

「内緒。怪我したら隠さず言ってね」

「ぜ、善処する」

「言ってね?」

「・・・はい」

 まあ、うん。いいや。何かよく分かんないけど無茶するの許してくれるみたいだし。
 あ、でも大怪我するような無茶は止めよう。絶対白亜が泣く。
 ・・・前途多難だなぁ。

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