世界がゲーム仕様になりました

矢崎未峻

確信

「黒鉄君、大丈夫?」

「え、ああ。うん、大丈夫。って俺、どうしたんだっけ?」

「分かんないけど、急に倒れて・・・。心配したんだからね?」

「ご、ごめん。ほら、この通り大丈夫だから。ひどい頭痛があったけど、それも消えてるし。倒れる前より元気かも」

 あり得ないよな。未来なんて。きっと寝ぼけてそんな発想になったんだ。そうだ、きっと、そうだ。
 消えない。薄れない。さっき見た光景が。倒れる直前から続いている映像が。
 違うな。映像なんて生優しいもんじゃなかった。あれは、そう、経験だ。いや、だからそれは無いって。それ認めたら未来なんて突飛な発想を肯定することになる。夢だ。あれは夢。
 いくらリアルな夢でも、いつもなら消えるだろ!薄れるだろ!白亜が"あいつ"に殺される夢だってそうだろ!?なんで今回はこんなにハッキリ覚えてるんだ!
 ・・・待て。白亜が殺されるいつもの夢を、どうしてはっきり覚えてる?毎回内容が変わるのに、どうしてその全てが明確に思い出せる?
 おかしい。おかしい。そんな事ある訳ない。あっちゃならない。もしこれが本当なら、現実にあり得るなら、白亜は近い将来、南雲は今日このあとすぐ!死ぬ。

「黒鉄君!ほんとに大丈夫!?どうしたの!なんかおかしいよ!?」

「はっはっはっ、はぁ、はぁ・・・」

 気付かないうちに呼吸が早く浅くなって居たらしい。かなり心配させてしまった。
 考えても、わかる訳ない。なら、確かめる他ない。今日これからさっきの通りになるなら、信じよう。

「大丈夫。落ち着いた」

「本当に?もし体調悪いなら、今日は「大丈夫だから」

「悠?」

「今日のあんたはダメよ。外に行くのはやめた方が良いわ」

「いや、行くよ。今すぐに。確かめなきゃならない事ができた。そういう訳だから、アンタに構ってる暇はない。じゃあな」

 言葉は違ったが、さっきと同じようにその場から離れて外に出た。そして、同じ方向に歩き始めた。
 みんなには申し訳ないが、半強制的について来てもらっている。

「南雲、あの家のあたりで北側だけでいい。索敵しろ。敵が1体引っかかるはずだ」

「おいおい、いくら自分が探知出来てるからって教えたらおれの練習にならないじゃないか」

「バカ言え。俺も探知なんて出来てねーよ」

 夢に従ってるだけだ。さあ、指定した家まで来た。

「は?何言ってんだ?探知出来てないのに分かるのかよ?・・・って本当に居るよ」

「・・・ああ、居るな」

「?まあいいや、倒してくる。早苗、行くぞ」

「うん」

 居た。夢で探知したのと同じ方向に同じ数だけ居た。
 俺の気絶のせいで、夢での時間より少し遅れてるため敵の位置が少し時間分近いが、そのおかげであの問題の戦闘は夢と同じ時間になりそうだ。
 2人が危なげなく倒して帰ってきたのを見届けて、今度は問題の場所の方に歩き出す。

「次は、外れてくれよ」

 そう願いを込めながら、夢で探知した距離から索敵してみる。
 ・・・同じ方向、同じ場所に3体。寸分違わず夢と同じだ。
 そして夢と同じタイミングで、南雲がその3体に気づいた。自分達だけで倒すという視線も同じだ。

「南雲、接敵直前に右に大きく跳べ。絶対だ」

「は?なんでだよ」

「良いから、頼む」

「嫌な予感ってやつか?」

「・・・ああ」

「分かった」

 その時が来た。
 俺と雅人の間を通り抜ける影。今度は分かってたから即座に追いかける。忠告通り右に跳ぶ南雲。しかし一瞬遅く、乱入者と接触。戸惑い、驚き、その上空中での接触。当然バランスは崩れる。俺を追い越す魔法。南雲に迫る残った1体。
 少しだけ違うが、同じシチュエーションになった。
 これぐらいのズレは、想定内だ。だから

「間に合った!」

 俺が迎撃した直後、体制を整えた南雲が一閃。流れのままその奥の魔法で怯んだ敵もトドメを刺した。
 ほぼ同時に、乱入者の戦闘も終わる。

「どうだい!ぼくの実力は!こんな凡人共より、ぼくのほうが強いだろう!」

 夢と同じセリフだ。
 南雲を救えても、ここは変わらないんだな。

「てめぇ、何言ってやがる!自分が何したか分かってんのか!?」

「ストップだ雅人。南雲が助かったんだだから良いじゃねーか」

「な、んだよそれ!悠!お前らしくないぞ!」

「良いんだ。死ぬはずだった南雲が生きてるんだから」

「そりゃ確かにおれ、あのままじゃ死んでたと思うけど・・・」

「そういう意味じゃないんだけど、まあ後で話す」

 不思議だ。現実になって欲しくなかった事が全て現実に起こったのに、妙に落ち着いてる。
 南雲が助かった安堵のせいか?いや、事実を受け止めて覚悟が決まっただけか。

「悠、やっぱりお前、今日ずっとおかしいぞ」

「だな。俺もそう思う。でもごめん、今は流してくれ。・・・さて、放置して悪かったな」

「ふん、その謝罪で許してやろう」

「あんたほんと何様だよ。まあいい、白亜はお前にはやらねーよ。俺のだ」

「へ!?」

 なんで白亜が真っ先に反応すんだよ。ってそうか、散々"俺たち"のとは言ったけど、"俺の"とは言った事なかったもんな。
 驚いているのは白亜だけじゃなく、他の4人もだった。特に幼馴染2人は色々ごちゃ混ぜになった複雑な表情をしていた。
 ていうか白亜顔真っ赤じゃん!どうした!?りんごみたいだぞ!

「どうしよう加耶。オレなんか泣きそう」

「大丈夫よ。私もう泣いてるから」

 おいお前ら、いくらなんでもそれはおかしいだろ!?泣くってなんだ泣くって!!
 空気ぶち壊しだわ!バカやろう!

「なんか、雰囲気もクソもなくて、ほんとにごめんな」

「いや、なんていうか、苦労してるんだな、君は」

 先に謝ってしまったのは俺だが、こいつにまで同情されると流石に凹むな。

「いや、うん。それはいいんだ。とにかく、白亜は俺のだから。お前は諦めろ」

「嫌だね」

「あっそ。まあどうせ、お前が白亜に好かれることは、この先死ぬまであり得ないけどな」

「なんだと?どういう意味だ!何故君にそんな事が分かる!?」

「白亜が1番嫌いな事したからな、お前。ちなみにそれについては俺もキレてる」

「なに?」

「お前、自分の事しか頭に無いだろ。その結果がさっきの南雲殺人未遂だ。同時にそれが、白亜の1番嫌いな事で、俺がキレてる原因でもある」

「はっ!ぼくは悪くないね。ぼくの邪魔をしてた彼が悪い」

「そうか。それを聞いて安心したよ」

 地面を思いっきり蹴って顔面に拳を叩き込み、そのままぶっ飛ばすのでは無く地面に叩きつけた。
 もちろん、擬似強化有りの手加減なしだ。

「・・・遠慮せず思い切り殴れる」

 ああ、後頭部から叩きつけたから、もちろん気絶した。
 後ろからヒュッ!と息を飲む声が聞こえたが、気のせいということにしておこう。

「おれ、絶対に黒鉄を本気で怒らせない。間違いなく死ぬ」

「人聞き悪いな!殺してねーよ!?」

「よく言うわ。殺意あったじゃない」

「無かったらそれは悠じゃないわよ」

「加耶さん?それはどういう意味かな?」

「そのままよ」

「ちょ、おい。殺意あるのがデフォルトみたいに言うのやめて。マジでショックなんだけど」

「黒鉄君。悪い意味じゃないよ。良い意味だよ?」

 そんなバカな。明らかに悪口じゃん。どう捉えたら良い意味になるんだよ。

「悠」

「なんだ?」

「お前が怒る時がどう言う時か分かるか?」

「んなもん知らねーよ」

「お前が少しでも大事に思ってる奴に何かあった時だよ」

「は?・・・・・ああ、言われてみればそうだな。って待て、自分の事でも怒るぞ?」

「そんなことほとんど無いだろうが。それは一旦置いとけ。加耶が言いたいのは、人のために怒ってる時の悠は本気で怒ってる時だから、殺意があって当然だって事だ」

 だからそれ悪い意味じゃね?どゆこと?

「つまりだ。お前は自分の事で怒っても、そうそう殺意なんて湧かないだろ?でも人のために本気で怒れば、殺意が湧くほど怒る優しい奴って事。分かったか?」

「・・・俺が優しいかはどうかはさて置き、まあ、言いたいことは分かった。良い意味ってのがどう言うことかも」

 納得がいくかは別だけどな。
 でもまあ、なんでもいいや。なにがどうでも、南雲が助かったんだから。
 今度は、白亜の番だな。いや、むしろそれが本命か。

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