世界がゲーム仕様になりました

矢崎未峻

可能性

「悠、おま、ちょ、ぶっはは!っくそ、さいっこう」

 いや、サムズアップされても反応に困るんですが?
 雅人に次いで南雲も堪え切れなくなって抑えていた笑いをオープンにしだした。
 あの、だからさ、フォローして?手助けして?助け舟出して!お願いだから!!

「君は本当に失礼な奴だな」

「いやだから盛大なブーメランだってば。なに、なんで同じやり取りしなきゃなんないの?お前バカなの?」

「なっ!失礼なことしか言えないのか、君は。なんだってこんなクズが結衣とパーティを組んでるんだ」

 もう、良いよね?突っ込まなくて良いよね?なんで今余計な一言付け足した?また盛大なブーメランになったじゃん。やっぱりこいつバカだ。
 あの、やめて。突っ込み期待すんのやめて。やんないから、やんないから!

「またブーメラン」

「白亜やめて。言わないで。また同じやり取りになっちゃう。もう良いよこの流れ!飽きたから!」

 もうヤケだ。全力で同じ流れになるのを阻止しよう。
 問題はこのイタイ有名人が何を言ってくるかだ。

「君はもういい。結衣、ぼくとパーティを組もう。いまのパーティより絶対に安全だ。待遇だって良い。保証する。だから安心するといい」

「黒鉄君」

「・・・え、あ、はい!なんでしょう?」

 手招き?なんていうか珍しいな。白亜がこんな事するなんて。
 素直に白亜の所に行くと、腕に抱きつかれた。
 うん。なんで?ああ、なるほど。
 目の前でワナワナと震え出したナルシストを見て、白亜の行動の意味を理解した。

「ほんっとに君は!ぼくの邪魔ばかりする!」

「ごめん、それもブーメランだわ。出発の邪魔してきたのお前だから」

 "じゃあな"そう言おうとして、言葉を飲み込んだ。少し前から感じている嫌な予感がぐっと存在を主張してきたからだ。
 この面倒をちゃんと処理しないと、大変な事になる。
 確証は無いが、確信はあった。そして、こういうのは絶対に当たる。特に俺の場合。
 幼馴染2人に目配せして、今度こそ真剣に手助けを求めた。
 急に真面目な感じで目配せが来たので驚いた様子はあったが、そこは付き合いの長さが幸いして即座に行動してくれた。

「そういうわけだ。今お前に構ってる時間は無いんだよ。話があるなら、オレたちが帰ってきてからにしてくれ」

「そうね。それに、悠の言い分も最もだわ。今の貴方はただの邪魔者でしか無い。分かったら今は引いて」

「分かってないのは君たちの方だ。ぼくが用があるのは結衣だけだ。口出ししないで貰えるかな」

「ならあんたの用事は終わりだな。白亜は答えを示した。食い下がる気なら容赦しないぞ。俺は本人の意思がまかり通らないのが大嫌いなんだ」

「口出しするなと言っている」

 何様だよ。

「なら、今度はちゃんと言葉で言うわ。貴方とは絶対にパーティを組まない。私は黒鉄君と一緒にいる」

「何故だ!なぜこの凡人なんだ!ぼくのほうが完璧だ!ぼくのほうが君を守る事ができる!君は凡人とは釣り合わない、君は、君はぼくと居るべきなんだ!!」

 な、なんて自分勝手な。あそこまで言われたらもういっそ清々しいわ。
 まあだからと言ってそんな言い分が通じるわけないし納得も出来ないんだけど。
 さてさて、どうしたもんか。無理矢理話終わらせて出発するのも一つの手だが、どうもそれはやっちゃいけない気がしてならない。やろうと考える度に気持ち悪い胸騒ぎがして踏み出せない。
 ああ、もう。めんどくさいな。頭痛くなってきたわ。

「もう、良いだろ。いい加減面倒だ。勘弁してくれ。お前に白亜はやらねー。白亜は俺の、仲間だ」

 良いや、考えるのめんどくさい。1番手っ取り早くて楽な方法を取ろう。こいつは無視してさよならだ。
 俺は胸騒ぎを無視して話を終わらせるために口を開き、名も知らない有名人に背を向けた。
 あー、頭痛いな。

ーーーーーーーーーーーー

 学校を出発してしばらく、俺は幼馴染2人に文句を言われ続けていた。
 まあ今回のは仕方ない。目配せしてまでちゃんと話を終わらせられるよう協力を求めたのに、結果はあれだ。怒らない方がどうかしてる。
 文句くらい、甘んじて受けようじゃないか。
 ああ、もちろん索敵はやってるよ?そこサボったら大問題でしょ。危ないにも程がある。
 おっと、見つけた。でもまだ言わないでおこう。今回のは南雲達の練習にしよう。なんせ数が少ないからな。
 俺に遅れること約2分。南雲が気づいた。昨日までは完全に目視できるまで気付かなかったことを考えると上出来だ。
 そしてそいつらはというと、上月の魔法の範囲に入った途端、焼き尽くされた。
 そういえば、頭痛が無くなったな。胸騒ぎも無くなって、嫌な予感もほぼ消え去ってる。
 まあ、心配事の9割は起こらないっていうもんな。
 あ、敵。3体だ。こりゃ南雲達だけじゃしんどいかな?ってありゃ、2人だけでやる気だ。
 雅人とアイコンタクトを取って、いつでもサポートに行けるように準備しておく。
 始まった。
 と同時に、俺と雅人の間を何者かが通り抜けた。反応出来ないほどに早かった。いや、意識外からで気付けなかった。
 そいつは接敵寸前の南雲を押し退け、戦闘に割って入った。
 敵は3体。押し退けられ、バランスを崩した南雲を見逃すはずがない。
 割り込んできた奴が相手をしているのと、上月の魔法で足止めされたのを引いても1体残る。もちろん、南雲は迎撃なんて不可能な態勢で、加耶の魔法は間に合わない。
 走るより魔法の方が早い。つまり俺と雅人も間に合わない。
 待て。おい、待てよ。
 無情にも攻撃は迫る。そして、貫いた。

『あ、いや、いやよ。聡樹ぃ!!』

 上月の叫びと同時に俺と雅人が到着し、南雲を刺した敵と上月が足止めした敵を瞬殺する。
 くそ!血が、血が止まらない!何かないか!?何か!そう、そうだ、回復魔法。白亜!

『どうだい!ぼくの実力は!こんな凡人共より、ぼくのほうが強いだろう!』

『邪魔!どいて!!』

 割り込んできたのは、あいつか!いや、どうでもいい。白亜の行く手を阻んでるんだ。退けないと!
 地面を蹴って、クズ野郎を勢いのまま吹っ飛ばした。
 即座に反転し、白亜を抱えて南雲のところに戻る。
 治療が始まった。これで、きっと助か

『みん、な。ご、めん』

 待てよ、嘘だろ?そんなわけ無いよな?

『さ、なえ』

『なに?後で聞くから。治ってから幾らでも聞くから。今は、喋らないで』

『まも、れ、なくて・・・ごめ、ん』

『そんな事ない。そんな事ないよ!』

『・・・あり、がとう』

 ・・・は?・・・え?・・・死?
 それを証明するかのように、白亜の回復魔法が弾かれた。
 唐突に、今朝の南雲との会話を思い出した。
 いや、違うだろ。こんな、こんなのは違うだろ!

『聡樹?ねぇ、返事してよ。・・・ねぇ、いつもみたいに、わたしの名前、呼んでよ。お願いだから・・・』

『くそ、ふざけんな・・・!』

『嘘、でしょ』

『ごめんなさい、ごめんなさい。私の力が足りなかったから。・・・ごめんなさい』

 違う、そうじゃない。
 そう、言いたかった。慰める気力が湧いて来なかった。

『・・・は、ははは。・・・ちくしょうが!!』

 ふざけんな!こんな気持ち、二度と味わいたくなかったのに!!
 ・・・アイツは、何処だ?今何処に居る!?

ーーーーーーーーーーーー

「くろ、ねくん!黒鉄君!」

「・・・あれ、学校?・・・夢?」

 あれが夢?そんなバカな。リアルにも程があるだろう。
 感情も、衝撃も、感触も、光景も、匂いも、記憶も!こんなにハッキリ覚えてる。消える気配もない。
 ・・・夢じゃ、ない?なら

「未来、なのか?」

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