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矢崎未峻

プロローグ

 なんだ、何が起こってる?どうして俺は倒れてるんだ?ここはどこなんだ?
 くそ、全身が痛い。どうなってる。首くらいなら何とか動くな。

 辺りを見渡すが、全く知らない景色が広がっているだけ。
 いや、周りの景色はともかく、この場所は、学校だ。
 学校だけは、原型を留めてる。

 あぁ、思い出してきた。敵が襲って来て、ボコボコにやられたんだったな。
 あいつらは?・・・!?

「まさ、と・・・か・・・や」

 2人までやられたのかよ。あいつ、強すぎだろ・・・。
 あれ?○○は?いつもなら、回復してくれてる頃なのに・・・。

「まさ・・・か」

 痛む身体を酷使して無理矢理立ち上がって、あいつの気配のする方に向かって歩き出した。
 おかしい、あれだけ暴れていたはずのあいつが微動だにしてない。
 あいつのいる場所は、屋上か。
 身体はガタガタ。だが、嫌な予感がする。無茶を承知で強行で行くしかない。
 現在、俺がいるのは校庭の真ん中。もう少し進んだら、屋上まで飛ぼう。

「くそ、もっと・・・早く、早く!」

 この身体でもギリギリ屋上まで届く距離に辿り着いたので、強化魔術による脚力特化の強化で全力の跳躍を行う。
 何とか、本当にギリギリ屋上に届いたが、着地はまともにできず、屋上を転がった。
 転がったことにより増した痛みに悶え、耐えながら再び立ち上がり、正面を向く。
 運良く正面にあいつがいたのだ。・・・○○と共に。

「おい、早く、こっち、来いよ、○○。何、やってんだよ・・・?」

「ふむ、もう少し痛めつけておくべきだったようだな。まだ寝ていてもらわないと困るのだがね」

「最後、お前、が・・・攻撃した、場所を、強化・・・した」

「なるほど、それでそんなに早く。本来なら、もう一度眠らせてやるところだ。しかし、ぼくは彼女と約束したのだよ。君たち3人に手を出さないかわりに、彼女の命を貰う。場所をここに移したのは彼女たっての希望でね。今しがた彼女の覚悟が出来た所だ」

「ごめんね。もう、こうするしかなかったの」

 何を、言ってるんだ?命を貰う?・・・死ぬ?誰が?彼女が?どうして?
 俺たちのためだ。そんな、そんなの

「ふざ、けるなよ・・・そんなこと、させる訳ないだろうが!!」

 身体が痛む?ボロボロでガタガタ?そんなもん、知ったことか!
 全身に強化を施し、痛みを誤魔化す。
 武器はボロボロで持てなかったので置いて来た。だったら、体術しかない!
 構えて、攻撃しようと一歩踏み出した途端、前のめりに倒れた。
 強化が消えてる。魔力切れ?違う。身体の問題だ。
 無意識に、無自覚に、制限をかけたんだ。リミッターだ。
 人間のリミッターが、邪魔をしたんだ。

 感覚でそれが理解出来た。彼女があいつに突っかかっているが、あいつは何もしていない。
 あいつの説明が聞こえて来た。感覚でわかったことを的確に言葉にしていた。
 いくつか言葉を交わし、彼女が俺のところに来た。

「ごめんね。治してあげたいけど、それは出来ないの。本当はね、私も死にたくない。だけど、私はみんなを、あなたを守りたいの。これは私のわがまま。今まで楽しかったよ。ありがとう。私のことは・・・忘れて。幸せに、なってね。3人とも、笑顔で、生きてね」

 これは、最後の別れか。
 そんなこと、させない!

「3人じゃ、ダメだ。3人じゃ、俺は、笑えない。幸せ、に、なれない。お前が、○○が、居ないと、ダメなんだ!だから・・・」

 そっと、優しく、彼女が俺にキスをした。
 そのままあいつの元に戻って、こちらに向き直る。

「別れは済んだようだな。では、約束通り命を頂くとしよう」

 彼女は優しく微笑み、俺を見ている。
 まて、まてよ。

 あいつが、剣を構え、こちらに視線を向ける。
 こちらを挑発するような視線。目は、哀れみを含んででいるようだ。

「まて・・・やめろ」

 視線をこちらに向けたまま、構えた剣を突き出した。

「やめろおおぉぉ!!」

 剣は勢いを緩めることなく、彼女の心臓を貫いた。
 一瞬、苦痛に顔を歪めたが、すぐに優しく微笑み、涙を流しながら

「大好きだよ」

 そう言った。
 同時に剣が引き抜かれ、彼女の身体は前のめりに倒れた。
 奴は、笑っていた。この上なく嬉しそうに。楽しそうに。ただただ、笑っていた。

「あ、あぁ。うああああああああぁぁぁ!!!」

 叫んだ。悲しみ、怒り、悔しさ。全てを込めて、叫んだ。

 瞬間、頭の中で何かが弾け、一瞬、身体の痛みを忘れた。いや、痛みが消えた。
 立ち上がって、強化を施し、奴に殴りかかる。
 俺が動けないと思っていた奴は、俺の接近に気付かず、顔面に怒りの1発がまともに当たった。
 そのまま屋上から落ちたが、奴は死んでいないだろう。
 知ったことではない。

 一発当てれたのでとりあえず今はいい。
 すぐに頭から奴の存在が消え去り、彼女の事で頭がいっぱいになる。
 まだ何とか動く身体を彼女の元まで動かし、彼女を抱き起こした。
 心臓を貫かれていて、即死だったらしい。完全に死んでいた。

 頭が真っ白になり、再び叫んだ。そして、泣いた。
 泣き続けた。雅人と加耶に声をかけられるまで、泣き続けた。
 事情を説明して、また3人で泣いた。

 ようやく泣き止んだ時、俺はあることを決めていた。

「○○を生き返らせる。いや、死ぬという事実を書き換える」

「そんなこと、出来るわけないだろ」

「1つだけ、方法がある。"ザ・ラスト・マジック"。『最後の魔術』を使う」

 意見は聞かなかった。問答無用で、使ったこともない魔術を組み始めた。
 頭の中で何かが弾けたとき、不意に浮かんできた魔術だ。
 これが成功する可能性はゼロに等しい。
 だが、やるしかない。
 こいつを使って、××という概念を、越える!

"ザ・ラスト・マジック"

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 ・・・やけにリアルな夢だったな。
 ていうか、あの死んだ女の子、誰だよ?顔は常に黒で塗りつぶされてたし、名前はは何度も叫んでたのに聞こえないし。
 まあ、夢だし、別にどうでも良いけど。
 さて、もうひと眠り。

ガラガラガラ

 出来ないな。先生来ちゃったし。

 この時もうすでに、夢のことは忘れかかっていたが、はっきり覚えている事はあった。
 女の子を殺した、敵の顔だ。
 それだけは、何故か忘れずに、記憶に焼き付いていた。

 あ、チャイム鳴った。授業の時間か。

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