プロローグ

　今日もいつものように決めた時間の電車に乗って揺られている。いつもの駅で大体の人が降りる。空いた席に座って愛読書を開く。そしていつもの駅で降りる。変わらない日常だ。あぁ、変わらない。

　変わらない……はずだった。

　電車を降りて、改札を通る。いつもの時間に必ず駅の前を通る大型トラック。その大型トラックが通り過ぎるまで待つ。それもいつも通りのことだ。でも……横をすり抜ける黒い帽子の女の子……これがいつもと違っていた。無邪気に笑いながら駅をとび出していく少女。その時、時間がゆっくり流れる感覚が広がった。それでも何故か自分の体はいつも以上に動く予感がした。視界には、飛び出す少女と少女に迫る大型トラック。それだけが写っていた。

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　時間の流れが戻る。戻った瞬間は女の子に届いた瞬間だった。
（よし！届いた！まだ間に合う！！）
視界のふちに入ったトラックとの距離を確認して、このまま押し出せば女の子も俺も助かると確信が持てた。でもその時、女の子がこっちを見て言った。

「あなたが……大魔道の勇者……」

そう言って女の子は……俺の身体を押した。

　気ずいたらトラックが真横まで来ていた……。全てを察して目を閉じる。その、閉じる一瞬視界に入ったのは女の子の小さく動いた口の動き「ごめんなさい……」その一言だった。

　
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　覚めるはずのない目が覚める。

　聞こえるはずのない声が聞こえる。

　感じるはずのない太陽の熱を感じる。

　感じた熱を追うように俺は空を見た。……空に複数体翼竜らしき影を見た。

（なるほど……そういうことか）

　こんなに早く状況を理解できたのは良かったと思う。

「ここ……異世界か……」

　自分の格好を確認する。左手に手持ちカバンを持ち、黒のスーツに身を包み、ベージュのコートを羽織っている。あの時と変わらない。何一つ。ならば、これからすることも今までと変わらない。

「よし！学び舎を始めよう！！」